KARRIN ALLYSON

BALLADS


すっかり秋めいて来ましたが、そんな秋に聴きたい1枚を、今回は紹介 しましょう。それがカリン・ アリソン の《バラッド》です 。《バラッド》と聞いてそれだったら、あれ でしょう、と仰るあ なた。そうです、今回カリン アリソンが挑戦した《バラッド》は 、あのジョン・ コルトレーンの名盤《バラッド》をヴォーカルで 再現したものなのです。曲の配列も全く同じで、3曲ほどの〃おまけ〃も 付いているのですが、そのどれもがコルトレーンに関する曲なので、さら に興味を引きますね。そして、「REMEMBERING JOHN COLTRANE」と いう副題も付いています。

紹介する前に、このカリン・アリソンについて触れておきましょう。彼 女の名前を聞いて、すぐ分った方は、相当のヴォーカル通です。もうデビ ューして10年近くになるのに、未だ日本国内での国内盤の発売はされた 事がありません。勿論、その様な外国の歌手は沢山いるのですが、彼女ほ どの実力を持っているのに発売されないというのは少し不思議な感じがし ます。
彼女は1992年よりコンコード レーベルで録音を開始しますが 、それ以前の彼女は生まれ故郷のカンザスでピアノを始め、ネブラスカ大 学時代は、サラ・ヴォーンやナンシー・ウィルソン、カーメン・マックレ イなどのヴォーカリストに影響を受けていた模様です。そして、1993 年に〃I didn't know about you"というアルバムでコンコード レーベルよりデビュー。その後5枚のアルバムを発表して今日に至る分け ですが、デビュー アルバムとセカンド アルバムについては 順調そのものでした。しかし、3枚目のアルバムから少し印象が薄くなっ てきてしまって、実は私も暫く彼女には御無沙汰していたのです。ところ が、この夏前に、久しぶりに彼女の新譜を見ると、そのタイトル《バラッ ド》に惹かれてしまい、つい手に取ってしまったという分けなんですが、 聴いてみると久しぶりに彼女の唄、ピアノが快調ではありませんか。これ は是非みなさんに紹介しなければと思っていた分けです。それでは紹介し ていきましょう。

フランク・シナトラがトミードーシー楽団にいた頃ヒットさせた#1は、 もともと映画の挿入歌で、その中ではリリアン・コーネルが唄っていまし た。ここでのカリンは先頃新譜が発売されたばかりの、ダイアナ・クラー ルを彷彿させる唄いっぷりを披露しています。ビリー・ホリデイやチェッ ト・ベイカーでお馴染みの#2はボブ・バーグのテナーサックスが彼女の 唄にうまく絡み合い、タイトルの意味をよく表現しています。#2の切さ とはうって変って#3は自信たっぷりな男の唄。でも、こういう人ほど# 2の意味を理解してもらいたいものですね。スティヴ・ウィルソンのソプ ラノサックスがいい味を出しています。ジョン・コルトレーンのアルバム でのドラムス、エルビン・ジョーンズのドラミングが忘れられない#4は 、「中途半端な愛なんていらないから、オーケーかダメかをはっきりして よ!」ていう唄。何時もモジモジしているあなたにはチト辛いですかね。 ここでは彼女、スキャットも披露して多彩な所を見せています。
彼女自身のピアノを聴く事の出来る#5ではジョン・パティウッチの素 敵なアコースティックベースが聞こえます。それにしてもやるせないバラ ッドですね。ヘレン・メリルのワン・アンド・オンリーのアルバム《ウィ ズ・クリフォード・ブラウン》での名唱が未だに忘れられない#6。とて も美しい曲ですね。この曲が元々器楽曲として書かれたのは、以外に知ら れていない様ですが、トランペットの為に書かれたんです。まるでクラブ のラウンジで聴いているような#7。とてもリラックス出来ます。大変美 しい曲で、歌詞の内容も別れた時の切なさを唄った物だけに、心にグ〜ッ ときます。コルトレーンのアルバムでは最後の曲だった#8は、アメリカ ・エンタテイメント最大のスター、フランク・シナトラの長女、ナンシー に捧げられた曲。カリンの唄も、なんとなく赤ちゃんに語りかけながら唄 っている様な感じがしませんか?勿論、この曲はシナトラのオハコですが 、かつてナンシー・ウィルソンが出と引きのテーマソングとして使った事 もありました。
さて、ここからはコルトレーンのアルバム《バラッド》には収録されて いない曲が続きます。#9はそれでもみなさんご存じでしょう。彼のアル バム《ジャイアント・ステップ》に収録された曲です。カリンは歌詞なし のハミングで唄っていますが、これがまた良いですね。#10はコルトレ ーンがギタリストのケニー・バレルと共演したアルバムに入っていた曲。 ジェームス・ウィリアムスのピアノとカリンの噛みしめる様な唄とのデュ オです。ジェームスのピアノがとても美しく響きます。そして、カリンの アルバムの最後は、コルトレーンの《マイ・フェバリット・シングス》に 入っていた#11です。随分前にこのコーナーで紹介したアイリーン・ク ラールのあまりにも哀しすぎる表現が頭を離れない私ですが、カリンは感 情を押えながらわりあいさらっと唄っているので救われます。

如何だったでしょうか。日本にも数年前に来日している彼女。もっと知 られても良い存在だと思うのは、このアルバムを聴いた全ての人ではない でしょうか。
CDの番号は CCD-4950-2 で CONCORD JAZZ から出ています。
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