TERENCE BLANCHARD

LET'S GET LOST


今年の秋の訪れは以外に早かったと思っているのは私だけではないでし ょう。勿論、みなさんご承知の通り、今年の夏は異常に早く訪れました。 故に秋も当然の如く早く訪れたのかも知れません。そんな秋にピッタリな アルバムがありますので、今回紹介したいと思います。そのアルバムとは 、トランペッターのテレンス・ブランチャードがジミー・マクヒューの作 品ばかりを集め、当代きっての女性ヴォーカルをフューチャーして作り上 げた《レッツ・ゲット・ロスト》です。
さて、ご存じない方の為に、ジミー・マクヒューとテレンス・ブランチ ャードについて少し触れておきましょう。
ジミー・マクヒューはボストンに生まれ20世紀初頭からハーレム、ブ ロードウェイ、ティン・パン・アレイ等に偉大な足跡を残してきました。 特に、ハーレムにある〃Cotton Club〃の専属作曲家だった時代に は、地味ながら今までも演奏し続けられている佳曲を数多く作曲していま す。それは、このアルバムを聴いて頂くと良くお分り頂けるのではないで しょうか?
そして、このアルバムの主役、トランペッターのテレンス・ブランチャ ードですが、彼はルイジアナ州のニューオリンズに1962年に生まれま した。そして、ウィントンやブランフォードのマルサリス兄弟や、ドナル ド・ハリソン等と共に、エリス・マルサリスに指導を仰ぎます。そして、 1980年、ニュージャージーのラッガース大学入学と同時にライオネル ・ハンプトン楽団に参加、その後、ジャズ・メッセンジャーズ抜擢され、 一躍頭角を現しました。1990年代には、映画監督、スパイク・リーの 作品で音楽監督となって、映画音楽の世界にもその才能を広げていきまし た。この頃から自作曲中心だった彼の音楽志向は、スタンダード・ナンバ ーにも広がりをみせはじめ、今回の様な素晴らしいアルバムを作る事とな ったのです。それでは紹介していきましょう。

怪しげなピアノとドラムスの旋律で始まる#1は、このアルバムのタイ トルにもなっている曲です。ここでピアノを担当しているダイアナ・クラ ールはヴォーカルも担当し、素晴らしい歌声を聴かせてくれます。先頃2 枚目のアルバムが話題になった、ジェーン・モハイトをフューチャーした #2。悲しげなイントロで始まるこの曲。テレンスのもの悲しげなペット の響きがさらに心を締めつけます。ブライス・ウィンストンのテナー・サ ックスとの絡みが心弾む#3。サラ・ヴォーンに捧げるアルバムではガッ ガリさせられたダイアン・リーヴスですが、この#4では安心して聴いて いられます。テレンスのペットはとてもスリリングですよ。ただの甘った るいラヴ・ソングをしっかりジャズにしている彼の才能に改めて惚れ直し た#5。今やジャズ・ヴォーカルの世界ではNo.1の呼び声高いカサ ンドラ・ウィルソンを迎えた#6。とても彼女らしい作りですが、その声 と歌詞がちょっとミスマッチに聞こえるのは私だけでしょうか。
前出、ジェーン・モハイトの軽めの声とサビがないこの曲が妙にマッチ している#7。色々な人にカヴァーされている名曲です。アレンジのうま さにウ〜ンと唸ってしまう#8。ダイアン・リーヴスの唄をしっかりサポ ートしている#9。とてもバランスの良いテイクになっています。沈む夕 陽を眺めながら寄り添って歩く二人。そんな絵が浮かんでくる#10。こ のアルバムで一番長いトラックですが、長さを感ぜずに心地よい一時が流 れていきます。何処かに安らぎを求めているあなたには、この1曲で、こ のアルバムは〃買い〃ですね。アルバムの最後は再びカサンドラ・ウィル ソンをフューチャーした#11。元々、通りの両側を人生にたとえて唄っ た唄だったのですが、元のイメージである陰→陽にではなく、陰→陰にし て唄っている彼女の歌声は、この曲が出来た1930年代の世相を現して いるかの様で、逆に面白さを感じます。

如何だったでしょうか?秋に相応しいアルバムでしたね。CD番号 は国内盤がSRCS-2492、輸入盤がSK 89607で、どちらもソニ ー・クラシカルからでています。また、ヴォーカル好きな方には、テレン スが1993年に出した、《ビリー・ホリデイに捧ぐ》というアルバムも お薦めです。ジャズのトランペットのコーナーに行ってみて下さい。