波多野睦美・つのだたかし

アルフォンシーナと海


 日差しも春の様相を見せ始めてきて、何か、のんびりしたいと思う今日この頃ですが、そんな時にこのアルバムを聴いてみたら、 あなたはきっと夢の世界へ誘われる事でしょう。それが今回紹介する<アルフォンシーナと海>、 ギターと古楽器リュートをアルバムのプロデューサーでもある、つのだたかしが担当し、 その調べに乗せて波多野睦美が軽やかに唄いあげています。

 アルバムを紹介する前に、この二人について少し紹介していきます。
 歌の波多野睦美はロンドンのトリニティ大学声楽専攻科を卒業後、フランス・ドイツ、イギリスそしてイタリアの歌曲を中心に、 16〜18世紀の歌曲、近現代歌曲を主なレパートリーにして活躍中。伴奏のつのだたかしと組んで発表した何枚かのアルバムでは、 特に注目を集めています。一方、ギターと古楽器リュートを担当するつのだたかしは、 リュートとバロックギターの演奏では世界的に有名で、自らのコンサート活動の他に、古典歌曲のセミナー、 舞台のプロデュースなども手がけていて、先ほども言った様に、このアルバムをプロデュースもしています。

 それでは紹介していきましょう。
 アルゼンチンの女性詩人、アルフォンシーナ・ストルニが人生最後の詩を残し海に入っていった、 その事実に基いて書かれた連作歌曲、<アルゼンチンの女たち>の中の一曲である#1は、 アルフォンシーナが入っていった海のむこうに彼女の幻影を見ているかの様に大変美しく、哀愁も漂っています。 ピアソラ作曲の#2は、元々<天使のタンゴ>というドラマの挿入音楽の中のひとつ。つのだたかしのギターが郷愁を誘いますね。 別れを表現する時、こんな詩のように表現できたらと何時も思う#3。長谷川きよしの唄で、 ミルヴァの唄で聴いた時の衝撃は今でも良く憶えています。アルゼンチンの作曲家、アルベルト・ヒナステラの #4は初めはピアノと歌の為にミロンガのリズムで書かれた物らしいのですが、ここで聴かれるミロンガは少し変わっています。 吟遊詩人達が歌うパンパ風のミロンガなのです。つのだたかしの編曲が素晴らしいですね。柳がなく。この表現は世界中にありますが、 そもそも柳とは人間を指している言葉です。短い素敵な詩に美しい旋律の#5。心地よい時間が流れていきます。 エイトール・ヴィラ=ロボス。この名前にピンときた方はそうとうなブラジル音楽通ですが、 彼の作曲したギター独奏曲#6は彼の独特の世界を垣間見る事ができます。ヴィラ=ロボスの作品の中でも特に有名な#7。 数年前に、今年久しぶりに来日するキャスリーン・バトルも採り上げていましたね。ラヴェルの#8には敬虔な信仰のにほいがします。 ラヴェルと同じフランスの作曲家プーランクが唯一残したギターの為の曲#9は、フランスの女性ギタリストに捧げて書かれました。 彼女に対する熱い想いが伝わってきます。昨年来日した現代最高のソプラノ歌手、ジェシー・ノーマンもそのレパートリーにしている #10は、いつ誰のものを聴いても素敵ですね。あなたもそんな恋の想い出ありませんか? #11の詩がとても良いなと思っていたらヴェルレーヌだったんです。本当の詩人の書く詩にはやはり感動させられますね。 イギリス古謡風の#12。何か童謡<赤とんぼ>を連想させる#13。目の前には自然の世界が広がっています。 惜しくも7年前に亡くなった、日本が世界に誇る作曲家武満徹。#14は、なんと彼の作詞家としての一面を覗ける貴重な一曲です。 ほっとするひと時です。アルバムの最後は、谷川俊太郎の詩に武満徹が曲をつけたもの。良く詩を聴いてください。 今は丁度3月。そしてその詩の裏に込められたメッセージを、私達はいったいどの様に理解するのでしょうか。ほほに涙が伝わります。

 如何でしたか?とても落ち着いて聴けたのではありませんか?本当に精神が休まる気がしますね。素晴らしいアルバムでした。 アルバムの番号は、WPCS11475でワーナーミュージックから出ています。 クラシックかヒーリング(癒し系)のコーナーに行ってみて下さい。