FLORA PURIM

Speak No Evil


 最近では、フローラ・プリンと表記される事が多くなったフローラ・プリム。 その彼女が久し振りに爽やかなアルバムを届けてくれました。それが今回紹介する<スピーク・ノー・イーヴィル>です。

 彼女を知らない人の為に、少し彼女を紹介しましょう。
 フローラ・プリムと聞いて懐かしいと思ったあなた。きっと、そんなあなたは、チック・コリア率いる、 1972年のリターン・トゥー・フォーエヴァーに参加していた彼女を思い出したのでしょう。 大変強い印象を残した彼女ですが、レコーディングはそれより8年程前の1964年に遡ります。 1942年生まれの彼女は、今年で61歳。ジャケット写真からもわかる様に、自信に溢れた、 正に完成された女性という感じがします。元々はブラジルのリオ・デ・ジャネイロの生まれで、 1968年にアメリカはニュー・ヨークに進出して、 ブラジル音楽を基礎としたセンスの良さであっと言う間にジャズファンの心を虜にしてしまいます。 先にも挙げたチック・コリアとのリターン・トゥー・フォーエヴァーでの成功は、彼女の夫、 アイアート・モレイラ(最近では、アイルト・モレイラと表記される事が多い)の存在なくして語れませんが、 その後も、ソロアルバムを始め、ダウン・ビート誌での最優秀女性ジャズ・ヴォーカル賞受賞や、 世界各地でのジャズ祭に夫と共に参加して、今だに私達に、彼女独自の素敵な世界を届け続けてくれています。 それでは紹介していきましょう。

 ドン・グルーシンの作った#1は、ラテンの香りが強くでている作品です。キーボードのラッセル・フェランテの編曲が光ります。 ゲイリー・ミークの変幻自在のフルートが最高ですね。一転して、しっとりヴァースから唄う#2。 軽いスウィング感がたまらなくいいです。タイトルにもなっている#3は、ウェイン・ショーター作曲の難曲ですが、 彼女にはピッタリの一曲です。作詞したのは、これまたジャズ歌手のヴァネッサ・ウィリアムズです。 コール・ポーターの#4をブラジル風にアレンジするなんて、なんてお洒落なんでしょう。 ボサノヴァの曲だと言っても分からない位、ボサノヴァになっています。サンバって本当に楽しいな、 と教えてくれる#5。でも、何処かで聴いた事ありませんか?そうです。ルパン3世のテーマに似ていますよね。 とっても大人の香りがする#6。恋人たちの間に流れる空気の危なさが、 やがてしっかりとした流れに変わっていく様を垣間見る事が出来るでしょうか?アメリカ西海岸で活躍している日本人、 横倉裕〜ヨコクラ・ユタカ〜の名前をこんな所で見るとは思いもしない喜びです。軽いサンバのリズムに乗せて贈る#7は、 自然への賛歌になっています。ガーシュインのフォーク・オペラ、<ポーギーとべス>からの#8。 ちょっと怪しげな唄い方が耳に残ります。 キーボード・プレイヤーのビル・カントスがフローラとロンドンで一緒に仕事をしている時期に作った、大変美しい#9。 これから、いろいろな歌手達に唄い継がれていきそうな曲だと思いませんか?そして、アルバムの最後を飾る#10は、 彼女の代表作<バタフライ・ドリームズ>に入っていた物の再演ですが、ここではポルトガル語で唄っています。 とてもジャズっていて気持ち良いですね。

 如何でしたか?春の爽やかな風が吹き抜けて行った、そんな感じがしませんでしたか?彼女のアルバムの中でも、 代表作の一つになる事は間違いないでしょう。アルバムの番号は、72435-43537-2-7 で、Narada Jazz から出ています。 ジャズ・ヴォーカルのコーナーに行ってみて下さい。