RICHARD GALLIANO

PIAZZOLLA FOREVER


 ちゃんとした夏、といういい方もおかしな物ですが、全くと言って良いほど夏を感じなかった今年の夏。 早くも秋に向かってまっしぐら、という感じです。今回は、これから訪れる秋にピッタリなアルバムを、 皆さんに紹介したいと思います。
 リシャール・ガリアーノ。アコーディオン奏者の彼が率いるセプテットが、丁度一年ほど前にスイスの ヴィリサウ・ジャズ・フェスティヴァルで行ったライヴの実況録音ですが、とても素晴らしい出来になっています。 まるでスタジオ録音かと思ってしまうくらい演奏の完成度が高いのです。と、同時に、彼が敬愛するタンゴの反逆児、 アストル・ピアソラの楽曲で構成されたプログラムの素晴らしさが、私たちを至福の時へと誘ってくれるのです。

 アルバムを紹介する前に、リシャール・ガリアーノを知らない人の為に彼を少し紹介しておきましょう。
 1950年、フランスは映画祭でも有名なカンヌに生まれた彼は、アコーディオン奏者であった彼の父親の指導で4歳から アコーディオンを始めます。そして、12歳で、<若き神童コンクール>に入賞、その後、 ニースの音楽学校で学んでいる時に出会ったジャズ・ピアニスト、デューク・ジョーダンの作品に感銘を受けてジャズに傾倒していきます。 73年にパリに出た彼は、歌手の伴奏を経て、クロード・ヌガロのオーケストラに加入、その後、日本でも多大な人気を誇った、 フランク・プールセル楽団に入団し、トロンボーン奏者として初来日を果たします。そして独立し、85年には初のリーダーアルバム <スプリーン>を発表、その数年後に知り合ったアストル・ピアソラの助言で発奮して発表したアルバム、 <ニュー・ミュゼット>が大反響を生み、92年、 フランスのジャズ界最高の栄誉とされるジャンゴ・ラインハルト賞を受賞してからは数々の力作を発表し続けているのです。
 それでは、ジャズ、クラシック、タンゴとミュゼットを絡め合わせたガリアーノ独自の世界に皆さんをお誘いしましょう。

 ガリアーノと他の6人の息が初めからピッタリの#1。アコーディオンの囁きは秋にお似合いです。クリアなのに何故か曇っている、 そんな冬の風景が目に浮かんでくる#2。最後のほうでうっすらと感じ取れる光が救いを与えてくれますね。 副題に付いている<甦る愛>が映像として見えてきそうな#3。もう少し厚みがほしかった#4。 はるか遠くでタンゴを踊っている二人。淋しく見つめている自分。そんな光景を浮かべてみて下さい。 官能的な#5に脱帽です。走り抜ける#6。ガリアーノのアコーディオンソロで贈る#7。ジャズ的要素満載で、 正に即興的ですね。終わった後の拍手のすごさでも、その演奏の素晴らしさが判ります。このアルバムの中で、 唯一ピアソラの曲ではない#8。ガリアーノのオリジナルですが、起承転結のもっていき方などから、 彼がピアソラの影響を相当受けているのが分かりますね。 ここでは小型の鮫に変身した#9。メンバー紹介の#10の後、 #11は疾走する7人、という表現がピッタリな演奏です。そして、アルバムも最後の#12。 コンサートの興奮を抑えるかのようでいて心地よい興奮を続けさせる、この曲を最後に持ってきた彼のセンスの良さ。 まだまだ聴いていたい、そんな気持ちにさせられますね。

 如何でしたか? ガリアーノこそ、ピアソラの後継者に相応しいと思ったのは、私だけではなく、今、 このアルバムを聴いている皆さんも同じでしょう。バンドネオンとアコーディオン。この背景が全く違う楽器を演奏する二人には、 音楽という共通の恋人がいたのですね。それが本当に良く分るライヴアルバムでした。アルバムの番号ですが、VACR-2060 (国内盤)で、コロンビアより出ています。ジャズか、ミュゼット、またはピアソラのコーナーに行ってみて下さい。
 なお、リシャール・ガリアーノの来日公演が9月10日、浜離宮朝日ホールで行われます。お時間のある方は、どうぞ、 足をお運び下さい。