GINO VANNELLI

CANTO


 今から30年ほど前に、クロスオーヴァーという言葉が流行りました。まあ、 いろいろなジャンルの音楽を融合させたとでも言ったら良いのでしょうか。 今でも発売されている<ADLIB>という雑誌がありますが、この雑誌が取り上げてきたのは、 主にソウルミュージックとクロスオーヴァーでした。 その紙面を70年代後半から飾っているのが今回紹介するジノ・ヴァネリなのです。 その彼が、前作より5年ぶりに発表したのが<カント>。まさに、ジャンルを越えて楽しめる大傑作となりました。
 ジノ・ヴァネリを知らない方のために、彼を少し紹介しておきましょう。 1970年代から彼の兄弟、ジョー、ロスと伴に、ヴァネリ3兄弟として活躍。 アルバムはジノ・ヴァネリ名義で発表していますが、1978年に発表したアルバム <Brother To Brother>からロス・ヴァネリが書いた<I Just Wanna Stop>が大ヒット。 一躍世界的なアーチストとなったのです。その後も81年に発表した<Nightwalker>が大ヒットし、 その地位は揺るぎない物になります。今までに13枚のアルバムを発表、 今回14枚目のアルバムが実に5年振りに届けられました。今回のアルバムはAORのファンはもとより、 クラシックファンの方にも納得のいく作品です。それでは紹介していきましょう。

 宇宙を感じさせる空間の広がり。そんな言葉がピッタリなほどスケールの大きい#1。 このアルバムのタイトルにもなっています。ここでは、イタリア語で唄われます。 先ほど触れませんでしたが、彼はイタリア系のカナダ人でありますから、当然と言えば当然なんでしょう。 詞の内容も大きなスケールです。父親に捧げた#2。ピアノが引き出す感情の表現がなんとも言えません。 ヴァネリ3兄弟の作品#3。今度は英語で唄われます。今までの彼らの作品の魅力を知るにはとても最適な曲です。 オペラのアリアを聴いているかの様な#4。そう言えば、彼は98年にオペラ界を代表するソプラノの一人、 モンセラ・カバリエと競演しているのです。オペラ志向があるのかもしれません。ソプラノの美しい響きで始まる#5。 ジャネット・シュヴァタルと愛をうたいあげます。ヒーリング系がお好きな人にはピッタリな#6。 スペイン語で唄われる#7は、まさに大作という名前が似合う9分を越える作品です。 続く#8はフランス語で唄われる優しさに満ち溢れた曲。父の嘆きに娘が励ますという内容の#9。 前出のジャネット・シュヴァタルと再び共演です。教会音楽の様で心が洗われる気分になりますね。 #10ではピアノも弾いているジノ。後半の男女の問いかけは、まるでプッチーニのオペラ、 <ツーランドット>を想い出させます。オーケストレーションがとても素晴らしい#11。 このアルバムの最後にふさわしい、スケールの大きな曲になりました。そして、 最後にボーナストラック#12の紹介です。彼の大ヒット曲であるのは先にも紹介した通りですが、 ここでは、デンマーク・レイディオ・オーケストラの伴奏でライヴ録音されています。 とてもライヴとは思えないばかりか、このアルバムの為に改めて書かれたような気がしませんか? 最後の<Thank you and goodnight.>という彼の挨拶で終わるところも洒落ていますね。

 如何でしたか?ひとつのオペラを聴いている様で、ふぅ〜っと息を漏らしたくなりました。 海外のアーチストの実力をあらためて見せつけられた感じがしたアルバムでした。アルバムの番号は、 BVCM-31106 でBMGファンハウスから出ています。ロックのコーナーに行ってみて下さい。