岡本 知高

Sopranista


 2003年最後に紹介するアルバムは、今、TV等でも話題沸騰のソプラニスタ、岡本知高の<ソプラニスタ>です。
 そもそもソプラニスタって何?と思われる方も多いと思いますので、まずその説明から。と言っても、至極簡単、 男性でありながら女性ソプラノの声域を持つ男性ソプラノの事なのです。しかし、皆さんが聞いた事がないほど世界でも稀な存在です。 実は、はじめ私はこのアルバムを紹介しようかどうか迷いました。が、先日、12月の3日に彼のデビューリサイタルに行って来て、 やはり紹介しようと決めたのです。と言うのも、今回ここで紹介するアルバムの出来がイマイチだと感じたからでした。 それを紹介するの?と思われるでしょうが、何しろ一度聴いていただきたいのです。
 ここで、彼を知らない人のために、少し彼を紹介しておきましょう。
 先ほども言いましたが、デビューリサイタルの当日、12月の3日に、彼は27歳の誕生日を迎えたばかり。 ジャケットで見るだけでは、何とまあふくよかな、という印象を受けますが、 実は幼い頃に難病を患って6歳から10歳まで養護学校で過ごしています。その後、ピアノを始めますが、中高時代はサックスを、 そして、大学進学前に声楽と出会って国立音楽大学に進学します。その後、数々のコンクールに入賞、 1998年にはベートーヴェンの第九が日本で初演されてから80年を記念して行われた<蘇る第九> にソプラニストとして大抜擢されプロデビューを果たします。そして、大学卒業後はフランスのパリ・プーランク音楽院に留学し、 首席で卒業。11月には今回紹介するCDも発売し、今や、TV等にも出演して、広く知られる様になったのです。 それでは紹介していきましょう。

 このアルバムは2枚組ですが、まず、クラシックの名曲を集めた一枚目から紹介しましょう。
 ヘンデルのオペラ<リナルド>からの#1。ジャケットを見なければ、本当に男性が歌っているのか判らないでしょ。 少し緊張していますがまあまあの滑りだしです。モーツァルトの代表的な宗教曲#2。本来カストラートの為に書かれているので、 当時の舞台を想像する事が出来るでしょうか。ちょっと低い音が不安定になってしまう#3。教会に行って祈りたくなる#4そして#5。 もう少し包み込む何かがほしいです。20年以上前にキャスリン・バトルの歌声が日本中を虜にした#6。 TVCMの画像を思い浮かべる方も多いでしょう。誰でもが一度は耳にした事がある#7。ブレスとの繋ぎが少し気になります。 プッチーニの三部作のひとつ、<ジャンニスキッキ>からの#8。オペラ自体よりも、 その中で歌われるアリアの方が一人歩きしてしまった代表格#9。先日のリサイタルでも良い出来だった一曲です。 本来はメッゾが歌う#10。やはりゆとりがもう少しほしいですね。この<ゆとり>が彼のこれからの課題かもしれません。 プッチーニの<トゥーランドット>でカラフが歌う超有名な#11。テノールの曲をソプラノで聴くなんてほとんどないのですが、 聴いてみると、他の曲も聴きたくなりますね。こちらは同じプッチーニでも正真正銘ソプラノの歌う#12。 彼の歌う姿をオペラの舞台で観てみたくなります。一枚目の最後#13は、 数多くある同名異曲の中でも特に取り上げられる事の少ない曲です。変わっている曲ですね。この一枚目では、 ピアノの河原忠之の好サポートが光りました。

 二枚目は日本の歌から。30数年前に<赤い鳥>が歌った#1。教科書にも採用されています。ライナー・ノーツに <ハイ・ファイ・セット>が今も活躍中と書いてありますが、これは間違いですね。もうとっくに解散しています。 これも近い将来音楽の教科書に載りそうな#2。バックの演奏が素敵ですね。井上揚水の#3。 クラシック歌手がポピュラーを歌う時のつまらなさが出てしまいました。変わって#4は安心して聴いていられる歌唱になりました。 島崎藤村が作詞した#5。とても有名なこの歌、東海林太郎の歌で広まったって知っている人も少なくなりました。 今でも放送されているNHKの<みんなのうた>。そこで紹介された#6。ビゼーの作曲ですが、 美しい日本語の詩が魅力を倍増させていると思いませんか?服部良一の素晴らしさを改めて感じさせた#7。風景が浮かんできます。 つい最近、平井堅がカバーして話題になっている#6。中村八大とともに当時の日本の歌謡界に素敵な曲を贈り続けてきた、 いずみたくに感謝ですね。心が洗われます。新しい詩が付いた#9。一味違った印象です。 こういった日本の歌曲が若い世代に歌われなくなってもう何年になるのでしょうか。#10は本当に美しい歌です。 そろそろ懐かしい歌の数々に口ずさんでいるのではないでしょうか?#11もそんな懐かしい歌ですね。 俳優の森繁久弥が作詞作曲した#12。当時はなんでこの歌がヒットしたか分りませんでしたが、こうして今聴いてみると、 何となく分るような気がしてきました。 もう日本ではこの人以上の歌手は出てくる事はないと誰もが思う美空ひばりの最後の大ヒット曲#13。これぞ、 現代日本の代表曲ではないでしょうか。続いては、初回発売にのみ付いてくるボーナストラックの#14。 クリスマスにはやっぱりこの曲ですね。そして最後に#15。どんな宗教をも超えられる内容を持った詩。 今の世の中で忘れてはいけない事を教えてくれる曲だとは思いませんか?

 如何でしたか?決して私はこのアルバムに満足はしていないのですが、彼を知るきっかけにしてほしいと思い、 今回取り上げたのです。彼のリサイタルがあったら、是非行って、そして、生の彼の声を聴いて下さい。 このアルバムでは味わえないとても素晴らしい彼がそこにはいるはずです。アルバムの番号は、 UCCS-1041/2 で、 ユニヴァーサルから出ています。クラシックのコーナーに行ってみて下さい。