Ranee Lee

MAPLE GROOVE


 カナダの女性ジャズヴォーカルというと、まず浮かぶのが、 最近エルビス・コステロと結婚してまたまた話題になっているグラミー賞受賞歌手、 そしてピアニストのダイアナ・クラールがいますが、彼女の影に隠れてはいるものの、 まだまだ素晴らしい歌い手がたくさんいるのです。今回紹介するのは、そんな中の一人、 ラニー・リーです。彼女の新譜<メイプル・グルーヴ>は、カナダを代表する作詞・作曲家の作品を集めて歌ったものです。

 彼女を知らない人のために、少し彼女を紹介しておきましょう。といっても、 詳しい資料がないので、はっきりとした事はわかりません。ただ、今回のアルバムが9作目だという事から、 おそらくデビューアルバムは、1995年に発売になった<I Thought About You>だと思われます。 歳のころは30代半ばくらいでしょうか。今やカナダでは、彼女を知らない人がいない程、彼女の知名度は高まっています。 そんな事位しか分からないので、私と彼女との出会いについて少しお話しましょう。
 私が彼女を知ったのは、オフブロードウェイで上演されていたロネット・マッキー主演のミュージカル <レディ・デイ>を観た時に遡ります。これは、偉大な歌手、 ビリー・ホリデイが亡くなる数ヶ月前のライヴハウスでの模様をミュージカルにしたものでしたが、 私は大変感動し、無理だろうとは思いながら、日本での公演を待ちわびていたのです。ところが、 何と一年ほどで日本での上演が決定したではありませんか。それも、 主演は当時すっぽかし騒動を起こしてお茶の間から暫く姿を見せていなかった、 ちあきなおみだったのです。赤坂のシアターV赤坂という新しい劇場で公演されたその舞台は、 オリジナルを上回る出来で、初日こそ空席があったものの、その後は口コミで評判が広がり、 キャンセル待ちをする人たちで劇場の外はあふれんばかりでした。私はどうしても、 劇中で歌われる曲をオリジナルで聴きたくてCDショップを歩き回りました。しかし、 あまりにも数多く発売されているビリー・ホリデイのCDの中からそれらを探す事は容易な事ではありませんでした。 1995年の初夏、私がCDショップで何気なく輸入盤を見ていると、ミュージカルの最後で歌われていた <Deep Song>というタイトルのCDがあるではありませんか。そのCDで歌っていたのが彼女、ラニー・リーだったのです。 早速曲目を見てみると、ミュージカルで歌われていた曲順にちゃんと曲が入っています。すぐに購入して聴いてみると、 これが何と素晴らしいではありませんか。たちまち彼女のファンになってしまったという訳です。 今回のアルバムは先にも言いましたように、カナダを代表する作詞・作曲家の作品集です。 えっ!この人もカナダ人だったんだ、という驚きもある事と思います。楽しみですね。それでは紹介していきましょう。

 アルバムの最初の曲#1は1970年代に活躍したシンガー・ソング・ライター、ゴードン・ライトフットの代表曲。 コンボに絡むトランペットとサックスが効果抜群で、最初からノリノリです。ビル・エヴァンスもカナダの人だったんですね。 #2は彼の数ある代表曲の中の代表曲です。ここでは軽くスウィングして唄っています。トニー・ベネットの名唱がある#3。 間奏をボサ調にしているところが憎いです。とっても格好良い#4。体が動き出します。ハートにグ〜ッと来る#5。 ミュートのトランペットが胸の中の悲しみを想像させますね。#6はフランス語訳がカナダの人なのでしょうか? ルイス・ボンファの名曲です。途中に入るスキャットもそうですが、<陰>な感じがとてもいいですね。 小さなクラブで聴いているかのような#7。リチャード・リングのギターとのデュオ#8。とても美しくて心が洗われます。 30年前に習ったステップを踏んで誰かと踊りたくなる#9。オスカー・ピーターソンの#10は ア・カペラでシンガーズ・アンリミテッドばりのコーラスワークを聴かせます。それもそのはず、 マック・ギル・ヴォーカル・アンサンブルが参加しているのです。カナダの自然が目に浮かびますね。 地味だけど、誰でも一度は耳にした事があるでしょう。#11はタイトル通り、ブルースを導くスウィングです。 カナダの女性シンガーでは大先輩のジョニ・ミッチェル。彼女の歌の中では、特に世界中で愛されている#12。 スローテンポで唄われるこの曲も良いですね。アルバムの最後はビートを効かせた#13です。 これも色々な人がカヴァーしていますが、 リズムの崩し方と後半に入るダレル・ハネガン・ジュニアのラップが行かしてるご機嫌なナンバーです。


 如何でしたか?きっとお気に召したと思います。タイトル<メイプル・グルーヴ>の意味も良く分かりました。 アルバムの番号は、JUST 194-2 (輸入盤)で Justin Time レコードより出ています。ジャズヴォーカルのコーナーに行ってみてください。