The New England Journal of Medicine Vol.341 No. 21, p1557-1564, 1999

● 少量のアルコール摂取で脳卒中のリスク減少

 赤ワインに含まれるポリフェノールがRadical Scavengerとして働いて動脈硬化の進展を抑制する可能性があることから、、、いやいやそんな理屈はともかく「ワインを飲むと長生きする」とかつての美人女優が囁くので毎晩ボトル一本のワインを飲み干してアルコール性肝炎になったあなた、、、、そんな呑み助のあなたにちょっとした朗報です。
 以前から飲酒と脳卒中のリスクとのあいだに U 字型および J 字型の関連があるとの研究データがいつくかありました。一方、アルコール摂取量が増えると出血性脳卒中のリスクが高まるとのデータもあります。「一体どっちなんだと」叫ぶU領事の声が聞こえてくるようですが、従来のこうした研究の限界として「酒飲み」の集団と「下戸」の集団が均一ではなかったことがあげられます。何の事やらとおっしゃる貴方、例えば「毎晩酒を飲まずに居られるか」というような生活を続けている集団と、「別に酒が無くても」という生活を続けている集団を分つ因子は実は飲酒量の違いではなくて、例えば、ストレス、食習慣、経済的基盤であったりする可能性があるわけです。つまり飲酒はストレスや貧困の結果でもありうるわけです。
 今回のデータは,アメリカ合衆国の「医師の健康研究(the Physicians' Health Study)」に参加していた 40 〜 84 歳までの男性医師,22,071 例の前向きコホート研究の結果導かれたものです。つまり、脳卒中にかかった患者さんの飲酒歴は実はどうだったかと後向きに過去に振りかえって解析する方法ではなく、「これからこんな研究しますよ。飲酒量について定期的に報告するこの研究に参加してください」と将来結果がでる前向きの研究に参加を呼びかけます。そしてこの研究に参加した22,071人を12.2年間追跡調査して、脳卒中が679 件発生した時点で飲酒量と脳卒中の発生との関係を解析する方法です。この方法の利点は研究の開始時点で飲酒量以外の因子を調整しておくことができることです。つまりみんなきちんと朝ご飯を食べてから運動靴を履いて、マラソンのスタートラインに並んでいるけど途中の給水ポイントでのアルコール摂取量をいろいろ変えてゴールを目指すと言う感じでしょうか。この研究でのアルコールはビール、ワイン、リキュール等のアルコール飲料をアメリカでの通常の容器で飲用しての一杯、二杯と数えます。
 その結果、1 週間にアルコールを1 杯未満しか飲酒していなかった参加者との比較で,1 週間に 1 杯以上飲酒していた参加者では,脳卒中全体のリスクが低下しており(相対危険度,0.79; 95%信頼区間,0.66 〜 0.94),虚血性脳卒中のリスクも低下していました(相対危険度,0.77; 95%信頼区間,0.63 〜 0.94).(因みに飲酒と出血性脳卒中とのあいだには,統計学的に有意な関連は認められませんでした。)1 週間に 1 杯,1 週間に 2 〜 4 杯,1 週間に 5 〜 6 杯,1週間に7 杯(毎日一杯)以上飲酒していた男性の脳卒中全体の相対危険度は,脳卒中の主要な危険因子を補正した解析では,それぞれ 0.78(95%信頼区間,0.59 〜 1.04),0.75(95%信頼区間,0.58 〜0.96),0.83(95%信頼区間,0.62 〜 1.11),および 0.80(95%信頼区間,0.64 〜0.99)との結果がでました。
 うー、数字の羅列で一体なんだか分らないと言うあなたにとどめの結論。 1週間に一杯程度の軽度の飲酒から毎日一杯程度の中等度の飲酒は,男性では、脳卒中全体のリスクを低下させ、虚血性脳卒中のリスクも低下させる。このアルコールの有益性は1 週間に1 杯程度の少量の飲酒において明らかに認められるけれども摂取量を毎日1 杯までに増やしてもその有益性が増すというようなことはない。それ以上はどうなんだと言うあなた、残念ながらこの研究に参加した22,071人アメリカのお医者さんの内、毎日2杯以上飲む人は僅か674人(3%)だけなのでデータが取れませんでした。同じデザインの研究を俺の属する集団でやったら毎日5杯までのデータが取れるなんて言っている貴方、そんなデータは要りませんから貴方自身のγGTPの値を気にかけてください。


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