PEDIATRICS Vol. 105 No. 1 January 2000, p. e1

● インターネット医学情報の信頼性は?
  このホームページも含めて、インターネット上の医学関連のサイトは15,000以上もあると言われています。かつては家庭医学書のページをめくっていた貴方も、インターネット時代の昨今ではサーチエンジンで「風邪」「インフルエンザ」「腹痛」などのキーワードを入力すれば、病気が治るまでに読みきれないほどの膨大な情報を入手することができます。情報の量という意味では確かに便利な時代になりました。でも情報の質という観点ではどうなのでしょうか?
  貴方がもしフランス通であったら、「フランス旅行」と言うキーワードにヒットした何百というサイトはまさに玉石混交であることが分るかと思います。伊丹十三が「ヨーロッパ退屈日記」で引用した「偏見を得ようとするなら、旅行するにしくはない。」の言葉の意味がそれぞれのページの背後から浮かび上がってくるのを実感しますよね。
  さて、医学関連サイトはどうなのでしょうか?こんな疑問に答える「通」は医学の世界にも居るものです。イタリアの小児科医Piero Impicciatore医師らは「小児の咳の治療」を切り口にして、それを扱った19のウェブサイトの信頼性について評価し、PEDIATRICS Vol. 105 No. 1 January 2000, p. e1http://www.pediatrics.org/cgi/content/full/105/1/e1に発表しています。(論文自体がオンライン版であることも面白いですね。)

  かいつまんで、方法を説明します。著者は1997年6月から1998年1月までの間、Aitavista, Yahoo, Exiteなどの6つサーチエンジンに「小児の咳の治療」のキーワードを入れ、それにでヒットした英語、フランス語、スペイン語の19のWEBページを選び評価の対象としました。WEBページを評価する基準として以下の3つの評価チェックリストを作成し、それぞれのWEBページに点数をつけました。
 1)技術的評価基準:作成者の名前、所属、引用文献、修正月日、「このページは専門家の治療に変わるものではありません」との警告文など6項目が記載されているか否か。
 2)情報の完結性評価の基準:背景情報すなわち、咳をおこす様々な原因の説明、その中でも特に感染症の可能性についての記載、薬物療法、非薬物療法について記載の有無。(合計4項目)
 3)医学的の質の評価基準:デキストロメトルファン、コデインなど5つの薬物療法が正しくもれなく記載されているか、また水分補給・加湿という非薬物療法が正しく記載されているか。(合計6項目)

  その結果、1)の技術的評価基準6項目の内、3項目以上を満たしたものは19WEB中わずか8つのみ。2)の情報の完結性評価の基準4項目で3項目以上を満たしたものは9つ。そして、3)の医学的の質の評価基準に至っては、記載ありを1点、記載なしを0点、間違いをマイナス1点して計算すると、6点満点中3点以上の評価を得たWEBページは僅かに3つ(19WEB中)のみ。驚くべきことに合計がマイナス点になったものがなんと10サイトもありました(最低はマイナス4点)。ここまでくると「小児の咳」に関するWEBページの半分はむしろ読まない方が増し、とも考えられるような惨憺たる成績です。

  インターネット医学情報は見かけの上ではそれなりの体裁をしていますし、簡単に引き出せるものではあっても、その情報の解釈・利用には十分な注意が必要だという、当たり前の結論がこの調査から導かれました。ところでこのページは何点になるのでしょう???


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