The New England Journal of Medicine Vol.337 No. 15, p1052-1057, 1997

● 喫煙者は医療費抑制の救世主?!

 「酒は健康に良い。」と呂律の回らぬ舌で叫んでいる人はいますが、煙に咽ながら「タバコは健康に良い。」と言う人はもういないでしょう。喫煙により心筋梗塞、肺ガン、消化性潰瘍等の発症率が高まり、最終的には死亡率が高くなるのは今や医学的事実を通り越えて「社会的常識」になりました。今までたばこを吸っていた人も禁煙すれば、継続喫煙による上乗せ分のリスクは回避できることが明らかになっています。
 さて、こうした「公衆衛生学的」事実から一歩踏み込んで「医療経済学的」観点から「喫煙」を検討した論文がThe New England Journal of Medicine 10月9日号に掲載されています。オランダErasmus UniversityのBarendregt博士等は「禁煙により、オランダの国民総医療費は向こう15年間は抑制されるが、それ以降は逆に増大する。」と結論しています。その理由は、「タバコが原因で本来早死にするはずの喫煙者が、禁煙の結果長生きすることになり、そのために高齢者が増えて高齢者医療費が増大する。」から。これが事実とすれば将来の総医療費を抑制すべく日々社会全体のため自己犠牲的に毒物を吸引されている喫煙者の皆様に感謝すべきかも知れません。しかし、副流煙で非喫煙者までを「自殺」の道連れにするのはご遠慮願いたいものですが。近い将来こうした「社会に貢献する喫煙者」保護のため、「喫煙窟」や「喫煙車」を設置すべきだという議論がされる時代が来るかもしれませんね。
 ブラックユーモアはこれくらいにして、医療の成果を平均寿命、罹患率、有病率など医学的尺度を用いて評価するだけではなく、経済学的指標で評価する医療経済学的切り口からも、あなた自身も喫煙や禁煙を考えて見ませんか?


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