なぜ磨いても虫歯になるのか

この章では、歯科における一般的な五行の応用について触れておきましょう。
いずれの場合も、まず「五行配当」を考える事から始めます。ですから、虫歯の配当をまず考えてみましょう。

(1)虫歯は「水」の疾病である
まず歯そのものを五行から考えてみると、「水」という配当になります。なぜかというと、もともと東洋医学では「歯を骨の余り」といい、その骨は腎に司られるといい、腎は五行では「水」の配当ということになるからです。腎というのは、前述のように、西洋医学でいう腎臓とは少し異なるのですが、東洋医学では腎臓に関わる腎気の影響しているすべてをさすわけです。
「水」を人体以外で言うならば、方位では北、色では黒、味では塩味、人間では中年の男…、と言う具合の配当があります。そして、歯が「水」である以上、歯の基本的疾患である虫歯は「水」の病であることがおわかりだと思います。

(2)虫歯の原因は「土」である
虫歯が「水」であることがわかったならば、その原因を考えてみましょう。
一見、「水」の病気を生んだ所ということで「水」の母つまり「金」が原因だ…と考えがちですが、虫歯が「水」の「疾患」であることを忘れないでください。つまり、「水」をそこなっているもの、「水」を傷つけているもの、「水」を負かしているいるもの…ということで「土」と考えられるのです。(図1)つまり「土剋水」というわけです


「土」というのは、臓器でいうと、胃などの消化器が配当されますが、その逆に食べられるほうの食物も「土」と考えていいでしょう。なぜなら、すべての食物は母なる地球の土壌からの産物だからです。植物も動物もすべて地球という土から生み出されたものだからです。また、同様の意味で「土」は母を意味することもあります。
そこで、食べ物が虫歯を作るのだ…という関係が「土剋水」から読み取れるわけです。

食べ物のついでに味の分類からも考えてみましょう。
味も五行に配当されて「五味」と言われています。このうち、「土」に配当されるのは「甘味」です。こうなると、二重の意味で甘味が「土剋水」となり、歯をいためることがわかってきます。
つまり、文字どおり甘いものは虫歯の原因になる…というわけです。

(3)磨いても虫歯になるのは何故か
ここまでの事ならば、なにも五行を使わなく立って分かり切っていることです。ですが面白いのはここからです。日常、歯科の臨床医として患者さんと向き合っているといつも問われるのがこのことです。「なぜ虫歯になるのかなぁ。磨いているのになぁ…」という嘆きです。それに対して我々歯科医は「磨き残しがある」こととか、「磨いている事と磨けていることは違う」などと答えるのですが、われながらこれでは、いまいち説得力が不足しています。
そこで五行の力を借りるのです。「土剋水」というわけで、食べ物が虫歯を作っていることはわかりました。しかしここで前に述べた相剋ルートの意味を思い出してください。「土剋水」ならば、「土」のエネルギーが「水」を変化させているのでした。つまり、食べ物のエネルギーが歯に作用して悪化させているのが虫歯ということになるのです。
虫歯に限らずとも、食べ物の人体に与える影響の大きさは常々言われていることです。しかし、歯の場合は外界の食べ物つまり異物が人体に入る時の最初の接点です。そういうわけで食べ物の持っている性質がかなりダイレクトに影響すると考えていいでしょう。つまり、単に「食べカスが口の中の細菌を培養して歯を溶かす」という話ではなく、食べものの持つエネルギーそのものが最初の接点である歯に大きく影響しているのだ…という事なのです。言い換えると、細菌よりも食べ物の方を問題とするということです。これが五行的に解釈した虫歯の意味という事になります。
そこまでくると、最初の疑問に対する答が見えてきます。つまり、歯磨きという口の掃除をしていても、食べ物を食べる以上、虫歯の可能性は消えない…ということです。
しかし、それでは救いがありません。人間である以上、食べなくては生きていけません。そこで、食べ物のエネルギーが影響するのなら、食べ方や食べ物の種類によって問題を解決できないかという発想になるのです。

(4)虫歯の予防と治療
虫歯を虚実から言うと、一般的には「水」の実となるでしょう。気が停滞して邪気となって虫歯を作っているからです。そこで、対処法を考えると次のものがあげられます(図2)。

a 相生ルートから「水」の子、つまり「木」を瀉す。
b 相剋ルートから「水」の鬼、つまり「土」を補す。
c 相剋ルートから「水」の破、つまり「火」を補す。

前述の『食べ方や食べ物の種類によって問題を解決』という方針はこのうちのb にあたります。
しかし、前章でも述べたように相生ルートを使った解決法の方がはるかに単純で楽なので、まず、そちらからあたってみましょう。

a 「木」を瀉す
「水」の病である虫歯の原因は「土」でした。そして、その「土」に勝つもの、つまり「土」の暴走を抑える役目にあるのは「木」であることがわかります(図3)。ここからも「木」が原因である「土」に影響することがわかると思います。

それでは、この場合の「木」を瀉す…とはどういう意味でしょうか?
瀉すというのは、遠心的な働きであり、私は「発露」という言葉を当てました(表B参照)。これは持ち前の力を外側に発散させているイメージです。また、「木」とは臓器で言うと肝と胆が配当されます。そして、肝とは解毒するところです。ここまで来るとなんとなくわかってきたでしょう?つまり、「木」を瀉すというのは、「さかんに解毒している様子」が連想されてくるわけです。虫歯の問題は食べ物が人体に対して持っている異物としてのエネルギーでした。だから、解毒できるような食べ方や食べ物で取れば、少なくとも虫歯になりにくい…という結論になるわけです。

それでは毒を取り去った食べ方、食べ物とは何でしょうか?もう一度「木」について詳しく考えてみましょう。
「木」を天候に当ててみると、雷と風になります。易でいう「震(しん)」と「巽(そん)」です。いずれも、とどまる事のない、形のないものです。そして、この中でも瀉す方の働き方は、どちからというと雷にあたります。雷のような瞬発的エネルギーは風に比べて、はるかに遠心的で強烈だからです。だからこの場合は雷のイメージをそのまま食べ方、食べ物に当てはめて考えていけばいいことになります。そこで連想されてくるものとして、ここでは「かみあわせ」と「酢のもの」を例にあげておきましょう。

かみあわせ 
「雷」はモノの形を一瞬にして奪い取り、こなごなにしてしまうような強い破壊力を意味しているわけなので、ずばり「かむ力」が思い浮かびます。かみ合わせる力の瞬発力はものすごいもので、奥歯にしてだいたい体重分位の力はかかるそうです。ということは、よくかむことは解毒力となることがわかるのです。
食養学の分野ではとにかく、よくかむことを推賞します。食養で有名な桜沢如一博士などの研究では、一回口に入れたものは三十回はかむように進めます。実際にやってみると、普通は三十回もかまない内に食べ物は無くなってしまうのがわかります。それくらいに食べ物を細かく砕くのですが、同時に食べ物の毒性に対する解毒作用にも一役買っているという事なのです。また、医学的にも「かみ合わせ」はとても重視されています。とくに、かむ時に活発になる唾液には偉大な解毒力がある事は有名です。一般にはパロチンというホルモンが含まれる事による解毒効果と言われていますが、何もわからない動物ですら経験的に知っていることです。我々も子供の時のちょっとした怪我などの時にもよく唾をつけて治したものです。
つまり、よくかむ事が食べ物の毒性を取り去り、虫歯の罹患率を下げるのだという事です。

酢のもの
「木」の洗礼を受けた食品としては、酢の影響も考えられます。「木」を五味の配当から見ると「酸味」の配当があるからです。そして、酢でしめた食品も、日本には古来からお寿司を筆頭に盛りだくさんです。しかし、できれば酢の発散性が生きた状態、つまりそのまま飲めるような状態がこの場合は望ましいといえます。私としては少なくとも毎朝、酢を大さじ一杯程度、お茶などに薄めて飲む習慣をつけることを是非お勧めします。これはまさに「木」の遠心力を応用した方法なのです。
私がいま、朝といったのにも意味がありまして、「木」を時間に配当させると「朝」になるのです。先ほどの臓器との関係でお話すると、朝は肝が活発に働くという「木」の時間という事なのです。その、「木」の時間に「木」の味である酸味が有効に作用するわけです。激務に疲れた肝臓にはへたな栄養ドリンクよりはるかに有効なのがわかるはずです。また、肝臓が活発に働けるということは、不用な脂肪を体にあちこちに溜めることを防ぎますので、ダイエットにも有効なのです。

b 「土」を補す
相剋ルートとは、バランスの取れた相剋関係、殺し合うのではなく、有益な働き方をする本来の相剋関係…、と私は言っていますが、この場合の「土」を補す方法ははっきりいって実に困難と言えます。そのバランス感覚が実に難しいからです。
つまり、適度な食事であれば相剋ルートから「土剋水」が働き、「土」つまり食物の持つ良いエネルギーが「水」つまりこの場合は歯などに有益に溶け込むことになります。強い歯、きれいな歯ができあがるわけです。しかし、一歩でも食物がバランスを超える量や質で取られるようになると、前の「土剋水」は有害な「土剋水」となります。つまり、食物が歯を剋するようになるというわけです。従って、この場合の「土」を補す方法とは、ズバリ、「腹八分」で「偏食をしない」という事になるわけです。
これは現代のような飽食の時代にはなかなか難しいことです。私自身も試みていますが、なかなか食欲の誘惑には勝てません。しかし、是非トライしてみてください。「やってない」と「やってはいるがうまくいかない」では天と地ほどの違いがあるはずですから。

c 「火」を補す
これも前述と同じでなかなかバランス感覚が難しいのです。「火」を補すとは、この場合、火の通った食品という事になりますが、これは殺菌できた食品という意味にうけとめてもらえればいいのです。
しかし、現代でそう言うと藥や光線などを用いた化学的殺菌を思い浮かべてしまって、どうもよろしくありません。化学的な殺菌は、それは殺菌はできるかもしれないが、よけいな弊害の可能性もあるという事なのです。つまり素材の変質の可能性も有ると言うことなのです。人体には有益な菌類もあるで、そこまで殺菌しては意味がないのです。何が有益で何が有害かは、人種と環境によっても違ってくるでしょう。従って、風土における太陽の影響力も「火」であり、「火」の殺菌力とは、状況に応じた天然の適度な殺菌力といえるのです。

しかし、「火」も度を超えてしまったら素材を壊します。特に昨今の食べ物は火が通り過ぎて柔らかくなりすぎています。味としては美味しくても、素材の本質が損なわれているはずです。
柔らかい食品は歯にまとわりつくので虫歯を多く作ることは誰でも御存じだと思います。とくにハンバーガーやポテトなどのジャンクフードのようなものになると、化学調味料も多く含有されており、まさにバランスを逸した「火」の影響を受けていること間違いなしです。
「火」が強いと、「火」の子である「土」が強くなってくるので、ここでも「土剋水」が有害に作用することになり、「水」の歯をいためることになるわけです。


以上をまとめると、虫歯に有効なのは、一に歯磨き、二には良くかむこと、三には食品、食生活の健全さ…という事がおわかりだと思います。

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