歯槽膿漏は治らないのか?

歯科医をやっていて、いちばんやっかいなのは歯槽膿漏だと思います。なにしろ、歯槽膿漏というのは歯を支えている骨が溶けだして、膿をもった結果、いずれポロッと抜けてしまうという恐ろしい病気だからです。我々歯科医がどんなに丁寧な虫歯の治療をしても、素晴らしい「さし歯」をかぶせたとしても、歯槽膿漏の前にはあわれ露と消え去ってしまうのですから。
それではこの病気の原因、対策を五行のものさしにあてはめて検討してみましょう。

(1)歯槽膿漏は「水」の疾病である
虫歯と同じように、これも「水」の病という事になります。なぜなら、「水」は骨の配当される所ですし、歯槽膿漏は骨の病であるからです。
歯槽膿漏の成り立ちとして、一般的に歯科医学で言われていることを先にお話しておきましょう。(図1)

まずは、歯肉と歯の間にある歯周ポケットと言われるスキ間に食べカスがたまっていきます。その結果として歯肉が不潔になり、歯肉の血液の循環が悪くなって汚い血がたまってきます。歯肉はますます不潔になってブヨブヨになりますから、さらに食べカスもたまっていき、今度は歯肉の下にある歯を支えている骨までが溶けていくのです。ついにほとんどの骨が溶けてしまったらば歯は抜け落ちてしまいます。しかし、このまま骨がどんどん溶けてついには顎骨がなくなってしまうなんて心配は歯槽膿漏ではありません。なぜなら、歯が抜け落ちた段階で歯周ポケットもなくなるからです。食べカスの溜まるスキ間が無くなるのでやがて歯肉は前よりは落ち着いてくるのです。ですが、相変わらず管理が悪いとブヨブヨの歯肉の状態は残るので、今度は入れ歯が入りにくい口の中になってしまうのです。こうなると、その患者さんの苦しみは延々と続いていくことになるわけです。

さて、それでは歯槽膿漏 という病は「水」の実でしょうか?虚でしょうか?
じつは二つのステージがあると考えられるのです。循環が悪くなって弱っていく時は虚、完全に悪くなって汚い血や膿がたまっている時は実…、ということです。言い換えれば初期では虚、後期は実というわけです。症状からいうと、痛くはないのだが、少し歯がゆれるとか、歯がしみる時は虚、ぜんぜんかめないとか、膿が出て口がくさいとか、熱が出る状態までいくと実というわけです(図2)。

(2)「かみあわせ」という落とし穴
以上によって、歯槽膿漏にも歯磨きが一番有効であることは分かってもらえると思うのですが、どっこいもうひとつの落とし穴があります。それは「かみあわせ」の問題で、いくら歯磨きが完璧でもこれが悪ければ歯槽膿漏は起きてしまいます。
かみあわせとは、食べものをかむ時の上の歯と下の歯の合わさり方を言うのですが、これがへんなふうに合わさっていると、へんな力が歯にかかります。(図3)

へんな力が歯にかかってくると、歯を支えている骨が耐えられなくなってきて、そこが溶けてくるというわけなのです。
ただし、かみあわせによる歯槽膿漏は食べカスによる歯槽膿漏とは違って、口の中で全般的に起こることは少ないのです。なぜなら、すべての歯にへんな力が均等にあたっている事は少ないからです。たいてい、数歯位のものです。それに比べて食べカスによるケースでは口の中全体におきやすいです。ひどいときはすべての歯が歯槽膿漏という事もあります。

(3)原因は「土」
ここで歯槽膿漏の原因を五行に当てはめてみましょう。
まず食べカスによるケース、これは虫歯の時と同じなので「土」と言えます。まさに、「土剋水」というわけです。
次に、かみあわせによるケース、実はこれも「土」と言えるのです。やはり、ここでも文字どおり「土剋水」の悪影響を表しています。
しかし一部の読者の方は「あれ、変だな?」と思われたかもしれません。なぜなら、私は前にかみあわせについて、雷のような瞬発的な破壊力をひきおこすので「木」に配当される…と述べたからです。なぜでしょうか?ここが五行の勉強を始めた時に陥りやすい誤りなのです。
前に私は陰陽について、絶対的なレッテルではないのだ…という話をしたと思いますが、陰陽を空間的に発展させた五行においても事は同じなのです。時と場合、どこに着目するかによってたとえ同じ「モノ」でも五行の配当が異なってくることがあるのです。
例えば余談ですが、蛇などはまさにいろいろな配当を受ける代表です。具体的には、「木」とも「水」ともなるのです。「木」というのは季節では「春」で、冬眠から目覚める蛇に注目した場合です。蛇は温度に敏感なので土の温度を感じて冬眠から目覚めるらしく、かつての農民は蛇の目覚めを目印にして稲の種をまいたといわれています。また、長いという形に注目すると、易でいう「巽」にあたるのでこれも「木」となります。また、悪賢いとか、根まわしをするというような性質に注目すると「水」になりますし、大蛇である「やまたのおろち」が草薙の剣で倒された時、川になったことからも、本来「水」の生き物である…ともされます。

ここでは、食物を取り入れる入り口、つまり消化器の延長として「かみあわせ」をとらえているので、「土」としているのです。前段では食べ物を砕くという作用に注目したので「木」としたわけです。
以上、歯槽膿漏の治療としては、「土」をなんとかしてやればいいのだ…という事がここまででおわかりになったと思います。

(4)「土」とは何か
治療法としては、「土」の食物という点に注目すれば、やはり食べ物の種類とか、調理法という事が浮かんできます。ほとんどは虫歯の項で述べた事と同じで、食べ物の毒性が歯周ポケットに留まらないようにしてやればいいわけです。
むしろ、ここで注目しておきたいのは「かみあわせ」の方です。口と胃では異物である食べ物を細かくすることによって消化しやすく分解するのが役割です。分解したものを消化吸収するのは小腸の役目ですが、小腸のほうは「火」に配当されてきますのでここでは触れません。そもそも異物である食べ物が体に入っても異物反応をおこさないのは(アレルギーをおこす場合をのぞいて)、口とか胃でこまかく、食べ物の元型を完全になくす所まで分解できるからなのです。
たとえば、牛肉を食べたとしましょう。牛肉は間違いなく異物です。異種タンパクです。なのに、食べても平気なのはタンパク質の構成単位であるアミノ酸になるまで細かく分解したからです。アミノ酸にまで分解された時点で牛肉という異物の個性は失われたという事なのです。
ここが大切です。つまり「土」の働きのひとつとして「個性を奪う」力があるという事です。食べ物であれば、その個性を奪う事によって為害性を取り除き、ひとりひとりの人間の個性の中に取り入れることができるということです。このことは、他の一般的な事柄にもあてはまります。たとえば、「土」の傾向が教育などにおいて強くなってくると、文字どおり個性を奪われた均一な子供を養成してしまう…というわけです。

それではここで「土」の性質について再度、詳しくお話しておきましょう。
実は「土」は他の五行の要素とは著しく異なっているのです。成り立ちを思い出してもらえば、他が東西南北だったのに、「土」だけは中心であったことからもわかります。中心というのは他の四方の要素もすべて内に含んでいるという事なのです。
たとえば季節で言うのならば、「木」=春、「火」=夏、「金」=秋、「水」=冬…、と配当されるのに「土」だけは土用という配当になります。土用というのは季節と季節の合間、節という事でした。
さらに複雑なことには、「土」は中心である以上、すべての季節にも含まれていると考えるのです。つまり、夏ならば「火」の「火気」が盛んな季節なのですが、土台としての「土」気の上に成り立っているのだと考えるのです。夏ならば、火気+土気によって生じていると考えるわけです。従って、季節の合間には「土」気のみが目立ってくるので土用というわけです(図4)。


このように、「土」というのはすべての土台であってすべてを含む要素なのですが、ということは、「土」の性質として二面性を持っているという大きな特徴が見えてきます。
なぜすべての土台であるということが二面性につながるのかというと、陰陽の原則を思い出してもらえればわかります。この世は必ず相対に別れるというのが原則でした。だからすべてというのは、正反対の二面性を持っていることと同じなのです。また、相対を超えた絶対という存在がこの世を超えた世界ではあり得るという事もお話しましたが、これを太極と説明しました。その関係で、「土」を太極として配当させて考える時もあります。

ちょっと理解しやすくするために、「土」の意味する土(つち)そのものについて考えてみましょう。
土は植物を育てますが、その一方で死体や排泄物を腐らせて土にもどします。つまり、「育み、かつ、腐らせる」という二面性があるわけです。土は母なる大地ともいいますが、「母」にもこの二面性がそのままあることが分かるはずです。つまり子供を一生懸命に育てて面倒を見るという側面と、そのまま可愛がり過ぎてわが子の巣立つタイミングを逸してしまい、そのまま腐らせて骨抜きにしてしまう側面のふたつがあるということです。このように、「土」には著しい二面性がある…というのが大きな特徴なのです。
だから前に述べたように、食べ物を体に入れて肉体をはぐくむという性質があるかと思えば、その一方で、一律に食べる事だけをしていたのではその人なりの個性が生きてこない…という事もあるわけなのです。

以上、歯槽膿漏や虫歯の原因である「土」とは、食べ物やかみあわせという問題であると同時に、個性を阻害する要素でもあるという事はおわかりになったと思います。だから、これらの口腔疾患というのは、単純に歯の病気であるということ以外に、ちょっと大袈裟に言うならば、個性の輝きを奪うものでもある…ということができるわけです。こうなると、個性とは何かという大きな問題を抱えてしまうのですが、これについては詳しく次の章で述べたいと思います。

(5)歯槽膿漏の予防法
以上のことをもとに歯槽膿漏の治療と予防法についてまとめてみましょう。
基本的には歯槽膿漏も「水」の実の病なので虫歯の時と同じ公式になりますが、虫歯の時は「水」の実が主体でしたが、歯槽膿漏の場合は虚の時と実の時がありました。
まずは「水」の虚、つまり初期の歯槽膿漏への対応を考えてみましょう。すると、

相生ルートから「水」の母である「金」を補す(図5)

という事になります。「金」を補すというのは、表Bで見ると「排泄」という事でした。
歯槽膿漏においては歯周ポケットにたまりつつある食べカスを排除すること、膿をためない事にほかなりません。つまり、ブラッシングがとにかく有効ということです。しかも、ただの歯磨きではありません。あくまで歯肉のマッサージを兼ねたブラッシングです。
くわしいやり方はかかりつけの歯医者さんに実地指導してもらうとして、ここでは歯間ブラシの導入について触れておきましょう。


歯間ブラシとは(図6)のように歯と歯の間の歯肉マッサージを兼ねた歯ブラシなのです。初期の歯槽膿漏にはとにかく有効です。なかでも塩を併用した方法が有効です。
塩も「金」に相当します。塩はものごとをひきしめる、収れんさせる作用があるからです。その塩をぬるま湯などに少し溶かしてそこに歯間ブラシをつけて、そのまま歯の間をマッサージするのです。

次に後期、つまり「水」の実への対応ですが、これは虫歯の場合と同じで(図7)、

a 相生ルートから「水」の子、つまり「木」を瀉す。
b 相剋ルートから「水」の鬼、つまり「土」を補す。
c 相剋ルートから「水」の破、つまり「火」を補す。


ということになります。ほとんどは虫歯の場合と内容も同じですが、とくに 前に述べた「かみあわせ」が問題になります。虫歯の場合は、よくかむことで解毒の一助になりましたが、歯槽膿漏の場合は、歯がグラグラしているのでかむことができない事があるからです。そう言うときは歯科に行ってかむと痛い歯のかみあわせを一時的に少しだけ削ってもらうと良いのです(図8)。

場合によっては臨時の入れ歯などを使ってみるという方法もあります。しかし、入れ歯というのは、いきなりかめるものではありませんから、どちらにしても八方ふさがりになってしまいます。
だから、一番いいのは初期のうちに手を打っておくことです。それでも…という方の為に少し述べておきましょう。

a 「木」を瀉す

これは雷のような発散力だといいましたが、易でいうと「震」というグラグラとゆらす力になります。そこで、グラグラしている歯をますますグラグラさせて、局所にたまっている汚い血を全部押し出すという方法がここに相当してきます(図9)。

また、かなりひどいケースの場合、へたをすると歯が抜けてしまうかもしれませんが、逆にそれほどまで悪化しているような歯ならば抜けてしまったほうが早くなおります。あんまりグラグラの歯を大事にとっておくのは百害あって一利ありません。体はその歯を異物扱いして、早く排出してしまいたいから、その歯の周囲の骨が壊れてグラグラしているのですから(図10)。

b 「土」を補す 
c 「火」を補す


歯槽膿漏は「水」の病なので、これほどまでに悪化してしまったケースでは、多くの場合、「水」の臓器である腎が弱っています。腎の対敵は「冷え」なのです。そこで、「土」と「火」を補すべく、お腹を冷やさない事です。夜遅くまで起きていて、冷たい飲み物やビールなどを寝しなに飲むなどはわざと悪化させているようなものです。どうしても飲みたい時は、夜の九時位までにして、しかもお湯割りなどにしておくのが良いでしょう。ついでに食事でいうならば、なるべく醗酵食品であるみそ、納豆などを主食にしてかまなくても消化でき、なおかつ冷やさないものをとるべきです。醗酵食品などは「土」に相当する食品です。
生活態度で言うならば、無理をしない事はもちろんですが、思いつきの行動は控えるべきです。
腎が弱っている上に、「土」の育成力を重視したい時ですから、行き当たりばったりの行動は根気が続かずに失敗しやすくなるのです。また、「火」を補したい所から、ついつい見えっ張りの行動に走りがちなはずです。「火」とはちょうど火のような顕現力を意味しているからです。

このように、局所への対応から一般的な生活に至るまで、五行のものさしを使うと広範囲なことがわかってくるのです。

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