1994年9月1日(木)
午後3時前。天候曇。緊張してる。まだ書店で英会話の本を買ったりしている。天王寺から空港バスに乗る。若い女性多し。阪神高速に乗ると小雨も降ってきた。それにしてもアメリカである。いよいよである!大阪の街を縦断して空港へ。いろいろと不安はつきない。出国や入国の手続きはうまくいくのか、英語は通じるだろうか。飛行機も見るのは大好きだが、乗るのは緊張する。最初は。
空港に着くと、まずJTBのカウンターで手続きを済ませて荷物を預ける。意外なほどあっさりと荷物の方は準備が整う。後は人間の方だ。往復の航空券を受けとっていよいよ出国だ。パスポートを出して出国手続きを行う。搭乗ゲート前でノースウェストの747-400に初めて会う。赤とグレーのペイントが美しい。
ボーイング747-400は、ハイテクジャンボ機である。主翼端が小さく跳ね上がっているのが特徴で、この小さな上向きの翼をウィングレットと呼ぶ。伊丹から一気にデトロイトへ飛ぶことになる。
伊丹では、離陸するとすぐ上昇しながら左に旋回することが多い。窓からは西宮球場あたりが良く見える。すぐに飲物のサービスが始まるが、フライトアテンダントはみんな堂々として明るく、ちゃめっけたっぷりだ。外人さんだけにさすがにウィンクが決まってる。機内食第一弾は幕の内。(「何か」と幕の内のどちらがいいか聞かれたのだが、当然解る方しか注文できない)おいしくて、量もたっぷりだ。到着までは12時間あまり。外は真っ暗で何も見えない。
途中日付変更線を越える。日本時間で夜中の12時ごろに空が明るくなってくる。一面の雲海の上を飛ぶ。日本にとっては9月2日の、アメリカにとっては9月1日の朝だ。不思議な感覚。いつの間にか眼下に陸地が見える。カナダの上空だろうか?本も読まず、音楽も聞かないが、退屈しない。いろんなことが新しい。アメリカの昼を長く飛んで夕方にデトロイトに着く。
いよいよ入国審査。質問の答を準備しながら並んで順番を待つ。この廊下はもうアメリカだ。入国審査官は、アメリカは初めてかと聞き、そうだと言うと、何人かのグループかと聞いてきた。いや、一人だと答えると、本当にそうかとしつこく聞いてくる。前の二人の女性が同じツアーで、宿泊先が同じホテルのためにそう思ったらしい。税関の検査官も、一人か、こっちに友達がいるのか?と聞く。ビジネス?いや、観光だと応えると怪訝そうな顔。オーランドに男一人というのが、よほど珍しいのか。(ほっといて欲しい!)税関を通過すると乗り継ぎのための係のオニイサンが出迎えてくれた。ホッとする。ロビーを出るとやっとアメリカだ。ついにやってきたなー!デトロイトは緯度が高いためか涼しい!
アメリカの国内線に乗るためにマイクロバスに乗る。(車もさすがにちょっと雰囲気が違う。)乗り継ぎ待ちで15分ほど休憩。初めて入る外国のトイレ!(トイレもちょっとだけ雰囲気が違う。)売店を覗くとアメリカの雑誌。マックの本もちゃんとある。あ、ドルで買ってる!(当り前か。)
国内線はノースウェストのボーイング727。日本の国内線ではもう見られない往年の名機だ。機内はさすがに狭いが、不安は無い。離陸するとすぐ日が暮れていく。眼下にアメリカの住宅地。西の空にきれいな夕焼けが見える。フロリダ、オーランドへ3時間ほど。現地時間の夜の10時30分ぐらいにオーランド国際空港に到着。夜遅いためかあまり人気がない。ガイドのシンシアさんが出迎えてくれる。なかなかパワフルな人だ。ツアーの一行と荷物を受け取り、バスに乗り込み、ホテルへ向かう。予想されたことではあるがツアーは女性のグループか、アベックばかりである。外は雷雨。フロリダの夕方の雨と雷は有名らしい。車内で詳細な観光説明。ホテルでは、オプショナルツアーの申込や施設の説明がある。部屋に入って時計を見るともう午前1時。明日はケネディースペースセンターだ。朝が早いのと、朝食は大丈夫か(ちゃんと食べれるのか)という緊張でなかなか寝られない。
9月2日(金)
良く眠れないうちに朝がくる。6時。まだ外は暗い。FM局が英語で語りかける。TVをつけるとニュースをやっている。(もちろん英語だ。(しつこい))天気予報がおもしろい。オーランドの地方紙も届いている。家に電話。日本は夜の7時ごろ。とにかく、朝食に行かなければ。取り合えず、1階のガーデングローブカフェへ。受付でミールクーポンを示す。(食事付きにしておいて良かった…)親切で上品そうなオバさんに席に案内してもらい、バイキングだというので食事を取りに行く。一角ではコックさんが指定した材料を使ってオムレツを作ってくれる。広くて明るいカフェで食べる食事はどれもおいしい。オレンジジュースはどんどん注いでくれるし、フルーツもおいしい。うろうろしていると、「いーから、君は座ってなさい」という感じで、従業員の方々が親切で明るい。以来3日間、朝食はずっと楽しみだった。
ツアーの集合時間が迫ってきたので、急いで部屋に戻って出掛ける準備をしていると、ガイドさんから電話!慌てて1階に降りる。バンに乗り込むと、アメリカ人のニイちゃんが運転手だ。ハワードジョンソンホテルで他のグループを拾っていざ、スペースセンターへ。ガイド氏の説明を聞きながら高速道路を走る。右側通行だ、うん。料金所は左側にあって係員はおじさんだけでなく、女性や若い人もいる。でも、アメリカでも車は車だし、人は人だ。道は道だし、空は空だ。構成するものは同じ、ただ、少しづつ違う。まっすぐな道を東へ走るとNASAの看板が見えはじめ、だんだんワクワクしてくる。
ケネディスペースセンターは広大な沼地のなかにあり、道路脇の川にはワニがいる。(敷地内の沼地では実際に見た。)ゲート脇にKennedy Space Centerの文字。うーん、嬉しい…。
敷地内を走るバスツアーがあるので、まずそれに乗る。アポロ打ち上げを再現する建物でビデオを見る。あれは、やっぱり凄いことだったのだ。アメリカ人は特に誇りに思うだろう。ロケットの組立ビルとサターン5型ロケットの横を通って、ロケットを工場から発射台まで立てたまま運ぶトランスポーターの近くで記念撮影。
シャトルの運搬路脇を通って39-Aと39-B発射台に向かう。アポロもここから打ち上げられた。運良く、発射台で打ち上げを待つシャトルが見える。9日打ち上げ予定のディスカバリーだ。ここからは大西洋が見える!こんなとこまで来てしまった。偉い!(自分で誉めてどーする!)
ロケット組み立て工場と、サターン5型ロケットの横で写真を撮ってバスツアーは終了。
カフェテリアで昼食をとる。ホットドックとコーラが私の最初の外国での買物だ。おつりでもらったコインが嬉しい。ホットドックはパンとソーセージだけが包みに入っていて、味付け(ケチャップやマスタード等)は自分でするようになっている。同行したグループはアトランタから来たという学生さん達で、明日は日本に帰るという。皆一様にいいカメラを持っているので、その手のクラブの人なのかも知れない。ちなみにアメリカ人は一眼レフのカメラよりも、ハンディカムを持っている人の方が多い。
実物大のシャトルを見学して、殉職した宇宙飛行士の記念碑を見た後IMAXシアターへ。ここで「DREAM IS ALIVE」という映画を見る。シャトルの帰還シーンから始まるこの映画は、大変美しく凄い迫力で、いままで見たことのない角度からシャトルや地球を見ることができる。博物館を見学した後は自由行動になって、早速GIFT GANTRY(おみやげショップ)へゴー!買い物の後は、ガイド氏に勧められた珍しい粒状のアイスクリームをスプーンで食べる。美味しい!天気が悪くなってきたので、急いでロケットガーデンで記念写真を撮る。小学生の頃から図鑑などで見慣れたロケットに囲まれて幸せ。
バンで帰る途中、とうとう雨が降ってきたが、ホテルに帰るころには上がり、青空ものぞく。部屋に戻るとほっとして夕食前に寝てしまう。起きたときは深夜で、結局この日は夕食なし…。
9月3日(土)
今日はツアーがないので、のんびり朝食をとる。出るとき、カフェの人がバイバイと声をかけてくれる。天気がいいのでホテルの近くを散歩する。まだそれほど暑くなく、さわやか。エプコットセンターや、MGMスタジオを行き来するフェリー(小型の水上バスの様なもの)が朝から運行している。運転手や係員がとてもかっこいい。白いユニホームにサングラスが決まっている。いったん部屋に戻って作戦を練って出発。
まずフェリーに乗ってMGMスタジオへ。ゲート前はもうチケットを買う人達の長い行列が出来ている。並んでいると英語以外のいろいろな言葉が聞こえてくる。日本人は思ったほど多くはない。サングラスを付けて一人でいると日本代表みたいな誇らしい気分になってくる。ゲートを通ってすぐに「バックステージツアー」へ。トラムに乗って映画の舞台裏を見るツアーだが、最初から案内役のお兄さんのノリがいい!お客さんも一緒に楽しもうとする雰囲気がとてもいい。有名な大災害渓谷も体験できた。水分補給しながら歩き回るが、それにしても暑い!。ゲームセンターには、日本でもお馴染みの対戦型ゲームやレースのゲームがあった。
最後に「アニメーションスタジオツアー」へ。アニメが完成するまでの作業を紹介する映画を見た後、アニメーションスタジオを見学する。日曜日だからか、誰もスタジオにはいないが、大変きれいな仕事場だ。この後、これまでのディズニーアニメの総集編のような短編映画を見せてくれる。これが、良く出来ていて、思わずほろりとさせられる。ディズニーのアニメはセルをたっぷり使い、キャラクターの表情が豊かで、これが日本と決定的に違うところだ。お土産を買っていったんホテルに戻る。
今度はEPCOTセンターへ。ここは、未来と世界をテーマにした万博みたいなところである。日本の建物では三越が店を出していて、日本の製品(着物や、漆塗の食器、真珠など)を売っている。日本のお菓子も売っていて、アメリカのかっぱえびせんを買ってしまう。ミッキーマウスや、グーフィーも愛嬌を振りまいている。子どもも大人も一緒に記念撮影。サインしてもらう子どもが多い。バービーのミニショーなんてのもやっている。
9時から噂のレーザーショーがあるので、それまでに三越で夕食を済ませる。大きな鉄板焼のテーブルでコックさんがショーの様に鮮やかな手付きで肉を切り刻んで取り分けていく。日本ではこんなことしねえぞ、などと思いながらも、コックさんは日本語で話しかけてくれるし、食べ方を探る外人さんの視線を感じるし、悪い気はしない。外に出るといつの間にか雨になっていた。ここは亜熱帯性気候で夕方よく雨が降る。名物の黄色いポンチョが目立ち始める。
軒先で雨宿りしていると隣のおじさんが「レーザーショーを見たことあるかい?」と尋ねてくる(もちろん英語だ!(しつこい))。おじさんも気になるレーザーショーとは?!あたりはそろそろ暗くなってきた。カナダ館の前のショーがおもしろいので見物。この雰囲気は本当にいい。9時前になるとレーザーショーまで後○○分と放送が入って、盛り上げる。時間になると一斉に会場の明かりが消える。真っ暗な中で音楽とレーザー光線と花火の競演が始まる。きれい、美しいと言うより感動的だ。ショーが終わって心地よい疲労感と共にまたフェリーでホテルへ帰る。
部屋で絵はがきを書く。アメリカの新聞に目を通す。分厚いし、広告も多く5日のLabor Day(労働祭=祝日)セールの文字が目立つ。日本と同じだ。TVは、全体的に日本に比べて、上品な感じがする。
9月4日(日)
もう、自由行動最終日となってしまった。今日はシーワールドへ行く。楽しみにしていた水族館だ。イルカや、シャチは大好きだ。8時20分にガイドさんが迎えに来る。途中のディキシーランディングホテルで千葉と茨城の女の子が合流する。ゲート前で外国人に写真を撮ってくれと頼まれる。You are welcomeと言えて嬉しかった。
アメリカ国歌が流れて開園。イルカのショーの会場では、案内役のお兄さんが会場を盛り上げる。やっぱり観客のノリがいい!大きな声でアルバイトの学生がコーラやアイスクリームを売り歩く。イルカ達は本当によく訓練されていて、愛嬌があって、賢い。司会者が子供達をプールの前に集めると、すぐイルカがその前を全速力で泳いで思いっきり水をかける。会場も子供達も大喜び。次に、広い敷地を横断してシャチのステージへ。シャチは体も大きく、迫力がある。水上スキーのショーを見てから自由行動になる。雨が降ってきたので青いポンチョを買う。アザラシのショーも良く出来ていて楽しいが、最初と最後に登場するパントマイムのお兄さんも面白い。お客さんをネタに会場を笑わせる。
遅い昼食はチキンの照り焼きのセット。30分ぐらい並んでようやく注文すると、なぜか2個出てきた。1個でいいと返すとすんなりお金も返してくれた。大きなチキンを片付けていると、辺りを大きな鳥がおこぼれを探してうろうろ。ここだけではなく、オーランドではたくさんの鳥を見かけた。4時にゲート前に集合してホテルに戻る。
おみやげを買って、部屋で荷物の整理を始める。9時になると花火の音が聞こえてきた。レーザーショーの音だ。窓から外を眺める。もう帰らなきゃならないのか。昨日書いた絵はがきをカウンターに出す。英会話に気を取られすぎて、自分の名前を書くのを忘れていたことに後で気づく。明日は早いので緊張して良く眠れない。
9月5日(月)
5時にモーニングコール。まだ、外は真っ暗。荷物を預けて、チェックアウト。しばし、ぼーっとする。ロビーに集合し、バスで空港へ向かう。荷物をチェックインカウンターに預ける。荷物は、このままデトロイトを通過して関西空港まで直行する。売店でマックの雑誌を購入するが、300円ぐらいで安い!。
オーランド国際空港は非常に大きく、搭乗ゲートへはトラムで移動する。8時30分に離陸して、機内で朝食。11時過ぎにデトロイトに到着。
関西空港への乗り継ぎ便は、二つ隣のゲートから出発で乗り継ぎはごく簡単だ。少し時間があるので混雑した空港内を散歩する。出国は手続きらしいものは何もない。帰りは関西空港経由のフィリピン・マニラ行きのノースウェスト。通常の747だ。隣の席には賑やかなアジア人夫婦。でも英語はうまく、ちゃんと乗務員と意志疎通しているので見直してしまう。離陸までかなり時間がかかったが、30分ほど遅れてようやく離陸。車輪が離れて上昇に移ったとき左側からドンという鈍い音がした。車輪をしまう音か?と思ったら、すぐ機長から説明があった。「左のエンジンでバックファイアー(一種の異常燃焼)があったが、問題ないのでこのまま飛行を続ける」とのこと。
滞在はたった3日間だったが、アメリカを離れるのは寂しく、どんどん離れていく地上を見ながら、親切にしてくれた人達を思い出す。いい人ばかりで、もう2度と会うこともないかと思うと悲しくなる。
9月6日(火)
帰りは延々昼間を飛ぶ。機内食は美味しいが、若干胃にもたれてきた。食べては寝て、朦朧としながら12時間余りを過ごす。
いつのまにか眼下に日本が見えてくる。関西国際空港には左手に堺市の工業地帯を見ながら、北側から進入し、着陸態勢に入る。空港島へ伸びる連絡橋がよく見える。海の上の新しい空港に無事着陸。
とうとう帰ってきてしまった。トラムに乗って移動し、入国審査を受ける。審査官に荷物が少ないなどと言われる。あっさり帰国。新しい空港は威圧感がなく、ソフトでいい感じだ。4日に開港したばかりなので、まだ見学者が多い。JRの「はるか」は予約待ちで乗れそうになかったので、関空快速で空港を後にする。電車内では熟睡してしまう。
大阪は何事もなかったように慌ただしい。
ただ、少しだけ景色が変わったような感じがする。
(謝辞)
このフロリダツアーを通じて、いろんな思い出が出来ました。
お世話になった皆さんに深く感謝します。本当にありがとうございました。
私は無事に帰りました。
ありふれた海外旅行かもしれませんが、私にとっては冒険の旅でした。
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