信州キャンプツーリング 1993


1993年8月20日(金)
朝から小雨が降る。(例によって。)バイクを自転車置場から引っ張り出して、荷物をキャリアにつける。今回はキャンプがあるため、テントやシュラフ、ガスカートリッジなど容量を食うものが多い。シートにも荷物がはみ出して来るので、どうしても窮屈な姿勢になる。ツーリングのほとんどの行程が高速道路であり、行き先が信州ということもあって、少し暑いかも知れないが秋用のバイクウェアにオフロードブーツという重装備、おまけにレインウェアの下までつけて、12時前に出発。今日は移動のみ。

近くのガソリンスタンドで給油後、八尾ICから近畿道へ。吹田から名神に乗るとすぐ渋滞が始まっていた。天王山トンネルあたりまで路側帯を徐行していく。大津SAで休憩して、高速道路マップをもらって作戦を練る。天気はこれ以上悪くなることもなさそうだ。昼食を菩提寺PAで取る。菩提寺PAは美しい施設で、名神を利用するときはよく立ち寄るところだ。天候は徐々に回復してきたが、対向車線を走るライダーはまだレインウェアをつけている。

高速道路では私は動く障害物になる。時速80キロで常にバックミラーを気にしつつ巡航する。迷惑そうに追い抜いていく車も多いが、道を譲るとハザードランプで合図してくれるドライバーや、追い越して行くとき挨拶してくれるツアラーもいてほっとする。多賀SA、養老SAで休憩をとり、名古屋小牧ICで高速を降りる。トラブルもなく順調。

名古屋市内の一般道は渋滞していて、ここで初めて暑さを感じる。詳細な地図がなく、道がよく分からないので、有名なテレビ塔を捜しながら走り、やっと道頓堀のような繁華街の真中にある名古屋第2ワシントンホテルを見つける。派手目のお姉さんが闊歩する歩道にバイクをとめる。何とミスマッチな光景か。到着は 6時ごろ。

テレビ塔の下の地下街で夕食。書店で、今回の旅のメインテーマの一つである野辺山天文台関係の本を偶然見つけて購入する。ホテルの部屋は狭く、窓はあるが景色は見えない。あまり、おすすめは出来ない。

8月21日(土)
8時頃出発。ホテルの向かいのGSで給油後、野辺山高原を目指す。 小牧ICから東名高速、中央道をひた走る。天気はいい。もうススキの穂が風になびいている。虎渓山PAで朝食。独特の太い排気音を響かせてPAにハーレーダビッドソンの集団が入ってくる。オフロードバイクは高速道路が得意ではなく、アメリカンもいいなあ、などと思ってしまう。恵那峡SAで休憩。だいたい 50キロを50分で走っていることに気づく。じゃあ、時速60キロだ。んんん?

駒ヶ岳SAは大きな施設で、隣接した森の中で軽い昼食を取る。以前ここに来たときもXLRだった。そのときは秋だったが。中央道には小さな赤とんぼがとても多い。今、見ている地図の上で平気で羽を休めている。

この時点で昼を回ってしまったため野辺山経由はあきらめて、そのまま今日の宿泊地である霧ガ峰高原へ向かうことにする。諏訪湖SAで休憩し、諏訪湖を間近に見る。諏訪ICから国道に降り、茅野市経由で白樺湖へ。途中、道端で花を売っているおばあさんに道を聞く。ヘアピンカーブをいくつかパスして白樺湖へ。

白樺湖は小さな湖で、いわゆる観光地である。ソフトクリームを片手に観光客に化ける。ここからビーナスラインで車山高原を経由して霧ガ峰高原へ。なだらかな傾斜に草原が広がっている。もう、最盛期は過ぎたのか花はそれほど多くはないが、まだ高原の小さな可憐な花をいくつも見ることができる。

八島高原キャンプ場到着は5時前ごろ。少し霧が出てきた。他に5、6人の男女のグループが3、4つ程いるだけだ。ワイルドだとは聞いていたが、たしかに施設は整っておらず2泊の予定を1泊に変更することにした。一人のキャンプでは夕食をとって、暗くなったら寝るしかない。

そこへ、缶詰とガスコンロ持参のお客さんがやって来た。その横浜から来たという自然派オフロードライダーと、冷たい風の吹く中で1時間ほど話をする。ここは東京からは1泊圏内なのだという。信州の見所を教えてもらう。TT250 Rで毎週のようにキャンプに出かけ、時には釣りをして、釣った魚を食べるという。彼は紀伊半島に行きたいと言うので、和歌山の林道の話などする。

夜になると本当に真っ暗で、あまり外には出たくなくなる。予想以上に寒く、風の音でなかなか眠れない。

8月22日(日)
7時すぎまで起きない。外を覗くと霧で真っ白だ。暖かくなってきたのを確認してからようやくテントの外へ出る。いい天気だ。花が多いせいか、うるさいくらいミツバチが飛び回っている。ゆっくり朝食を取り、紅茶を飲んだあと、八島湿原へ向かう。

この湿原は、現在の形になるまで1万年が経過しているらしい。人の存在には関係なく。かなりの距離だが歩いて湿原をぐるっと一周する。高山植物の図鑑を手に観察する人も多く、スケッチしている人も何人か見かけた。

バイクで数キロ移動して、霧ガ峰キャンプ場でテントを張る。(ついでに毛布も借りる!)昼食後、高原を散策する。ここにはグライダーの飛行場があり、2〜3機が空中を音もなく旋回している。離陸するときはワイヤーを遠くからウィンチで引っ張って、急角度で一気に上昇する。ゴムで打ち上げる紙飛行機と同じだ。遠くには富士山も見え、地図の2次元平面が立体として確認できる。

霧ガ峰キャンプ場は大きく設備も整っていて快適だ。夕食をとって一息いれると雷雨がやってきた。テントの中にいると、周囲の音に敏感になる。風の音、雨の音、誰かの(何かの?)足音、草のざわめき…。

雨はすぐ上がり、周囲から時々談笑する声も聞こえてくる。高校生ぐらいの自転車部らしき青少年が多い。自力でここまで上がってきたのか?すごい!信州では、この後も自転車少年少女をよく見かけることになる。

8月23日(月)
早く起きる。NHKのローカルニュースと天気予報を聞きながら、簡単に朝食を済ませる。地方のニュースを聞いていると、旅行をしている実感が湧いてくる。

茅野市経由で国道20号線に出て小淵沢へ向かう。東京へ150キロの標識がある。もう名古屋よりも東京に近い。ここから八ヶ岳公園道路を通って清里へ抜ける。清里に東京文化圏を感じる。特にその軽薄な側面を。

このあたりは海抜1300メートル以上の高地である。JR野辺山駅に寄ってから、野辺山天文台で巨大な電波望遠鏡を見学する。電波望遠鏡は、光の代わりに電波で星や銀河を観測するものだ。詳しいことは分からないが。これが今回の旅行のメインテーマで、他の観光地はおまけ(のようなもの)である。直径45メートルのお椀(パラボラアンテナ)は天空を指して動かない。電波天文学という夢みたいなものをここで研究する人達のことを羨ましく思った。

小淵沢から中央道、長野自動車道を通って松本へ。国道158号線で上高地へ向かう。対向車線をすれちがうツーリングライダーが増えてきた。登りは渋滞である。さすがにかなり疲れてくる。車がやっと擦れ違えるような狭いトンネルが多いが、そこを自転車が登っていく。沢渡の駐車場で単車を置き、タクシーで急勾配かつ1車線の釜トンネルを通って上高地に入る。自転車もここを通るのか?!

上高地は厳しい交通規制をしているだけあって大変美しいところだ。活火山の焼岳、穂高連峰がよく見える。

小梨平キャンプ場に入り、小川のそばにテントをはって夕食をとる。見上げるときれいな星空が広がっていた。人工衛星がゆっくり空を横切っていく。上高地も夜はとても寒い。

8月24日(火)
快晴。今日は名古屋までの移動日で、朝からゆっくりしている。朝食前に近くを散歩する。

穂高が大変美しい。梓川は驚くほど透明な水が勢いよく流れていて、神神しい感じさえする。昔は神降地と呼ばれた聖域だったというのもうなずける。観光地ではあるが、軽薄さは感じない。想像していたのとは違っていた。朝食をとった後、河童橋方面を散策。梓川と穂高を眺めながら、木陰でのんびりとアイスクリームを食べる。ささやかな幸せを感じつつ。

上高地から一般道を通って木曽路へ。途中で念願の信州の手打ち蕎麦を食べる。幅が均等でない本物の手打ちの蕎麦で大変美味である。木祖村ではつげの櫛を見る。ここからは国道19号線で中津川まで南下する。この道は異常に居眠り運転を警戒しており、随所に看板や警報装置(そこを通るとヘンな音がする)が設置されている。事実走り易い道だが単調で、暑さと戦いながら時々休憩しつつ走る。

中津川ICから中央道に乗り、恵那峡SAでおみやげなど購入。ここで給油を忘れたため、高速道路のど真中でガス欠になる。やむなく瑞浪ICで高速を降りてガソリンスタンドへ。今日中に銀行へ行かなければホテル代も危ない状況で、かなり焦り始める。国道は渋滞しており、7時までに名古屋市内に入れるかは微妙な状態であったが、6時50分ごろ無事到着。

ホテルは20日の夜と同じ。空調は効かないし、窓からは隣のビルの壁しか見えない。いつのまにか眠る。

8月25日(水)
8時ごろまで起きない。9時ごろチェックアウトして出発。快晴である。

小牧IC直前のマクドナルドで朝食。高速に乗って養老SAで休憩。古いDTに乗っているというおじさんと話をする。名神も下りはまた違った印象である。鈴鹿山脈かと思った山なみは養老山地だった。

このまま帰るのはもったいないので彦根ICで降り、琵琶湖へ向かう。天気も良く、琵琶湖は大きく青く美しい。林の中のワインディングを抜けて、近江八幡国民休暇村前を通過し、琵琶湖大橋の近くまでひた走る。ここから国道を経由して、栗東ICから再度名神高速に乗る。大津SAで休憩後は、そのまま吹田から近畿道にのって八尾ICまで一直線。

大阪は暑い。帰って来ると夏が来ていた。


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