2019年10月5日(土)
恒例の加曽利貝塚 「縄文秋まつり」 が行われるので、初めて千葉市内にある史跡を訪れた。
この日は、最寄駅から無料シャトルバスが出て、ガイドツアーがあり、縄文生活を体験できるイベントがあり、屋台のテントも出ている。
ここは縄文ファンの聖地の一つ。 以前から訪れたかった場所だ。 春と秋に行われるイベント日で、家族連れやファンで賑わっていた。 |
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加曽利貝塚は、縄文中期から晩期の 5000年前から約2000年続いた集落が蓄積した貝塚。
集落を伴う「ムラ貝塚」として、 遺跡のほぼ全域と、周辺の自然地形が保存され、 国の特別史跡になっている。 約15haが保存・公開されている。 左図の黒っぽい帯状で描かれているのが貝塚。 ・直径140mの環状の北貝塚と ・長径約190mで馬蹄形の南貝塚がある。 加曽利貝塚博物館、北貝塚、南貝塚を中心に、 復元集落や船着き場跡などを巡った。 |
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ガイドさんの案内で、竪穴住居跡や貝の層の断面の観察施設などを廻った。
貝層も千年以上食べられて捨てられ蓄積しており膨大だ。
広い敷地に、トレンチの跡に上屋が建てられ、貝塚の断面が観察できる施設ー
3つを廻った。
発掘された竪穴住居跡群が保存されており、 その近くの貝塚も断面が紹介されている。 貝塚の中からは、埋葬された人や、埋葬されたイヌも見つかっている。 |
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貝層断面観覧施設 | トレンチ跡は両側の貝層断面が透明樹脂で保護され、地層の中を歩く感じ |
加曽利貝塚 では今も発掘調査が行われている。
縄文まつりのイベントで、 抽選で発掘調査体験が出来る。 ちびっ子たちがエリアに入って大人に交じって参加していた。 |
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縄文の復元集落では、囲炉裏で ドングリと クリを焼いていて、住居内で参加者は食べる体験をした。
もちろん縄文土器で焼いていた。
奥がクリ。 手前がドングリ |
焼きドングリは初めてだが食べられないことは無かった。 クリに味が似ていた。
縄文貝塚 というと、ハマグリ、アサリ、カキという二枚貝が頭に浮かぶ。 ※1
しかし加曽利貝塚では イボキサゴ という巻貝が中心で 80%以上を占め、ハマグリと併せた2種で全体の96.8%。
アサリやハマグリが採取出来るにもかかわらず、イボキサゴを選択 していたのが特色になっている。
イボサキゴは、今では全く無価値で絶滅寸前の、親指の爪程の小さな巻貝で、食べたことも聞いたことも無い。
何故この貝なのか不思議だ。
イボキサゴのふるまいがあった。
人気があり行列に並んだ。 | 最初はスープでは無く、爪楊枝で身をほじくりだして食べた。 |
次いで イボキサゴのスープを戴いた。 (イボキサゴは、小さいので出汁をとるのに使われたと考えられている。)
シジミやアサリと違ってクセのない海の潮の香りとあっさり味のスープだった。
現代人の評価は→ イボキサゴ |
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貝で出汁をとっていたとは、ここの縄文人はグルメだ。
しかも、何千年もの間 この味が好まれていたとは...
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加曽利貝塚は海辺には位置していない。
集落を流れる坂月川を船で下って、海の干潟迄 5〜6キロ下り、そこでイボキサゴなどの貝類を採取していたと。
加曽利貝塚から海までが 結構距離があるのに驚いた。 集落の下あたりから採れるのではなく、 努力して獲りに出かけてる。 |
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船着き場の跡にも行った。
岬状の台地のはずれで、坂月川が下を流れ、橋が見える。 |
※1
縄文晩期の(愛知県豊橋市)大西貝塚は、長さ185m、厚さ最大2.5mで、推定5、877立方mの膨大な貝層だが、その97%がハマグリ一種類。
現場集落の消費では無理で、炉も見つかっており、交易を目的とした干貝生産場と見なされている。
縄文人はハマグリが特に好物だったようだ。
― 疑 問 ― 加曽利縄文人が2000年以上にわたり食べ続け、巨大な貝塚を成した貝は イボキサゴ という今では食べられていない小さな巻貝だった。 何故 ハマグリと違って この貝なのか? この貝には何があるのか? ただのグルメではない感じがして、とても気になった。 |
ネットで検索したら、(加曽利貝塚博物館の)イボキサゴの講演を聞いた方のメモが見つかった。 (美容と健康効果の高い!?「縄文の貝」 2018/01/24)
『本日講演した栄養学の研究者の方の調査によると、
イボキサゴに含まれるタウリンの量は、それを極めて多く持つホタテ貝と同等で、これはアサリの数倍にあたり、
コラーゲンを計測するときに使われるアミノ酸の一種を調べたところ、これまたそれを非常にたくさん含む紅鮭に匹敵し、
やはりそれはアサリの数倍の量になる。 とのことでした。』
イボキサゴはあまりカロリーは無く、タウリンとコラーゲンが多く含まれていることが判明した。
タウリン(※2)は、ホメオスタシス作用という身体の恒常性維持に大切な作用がある大変重要な働きをするアミノ酸で、
水溶性なので、汁ごと取れる鍋物やスープ等に利用すると有効に摂取できる。ということが分かった
また、疲労回復・栄養補給ドリンク剤 、MJ リゲイン、リポビタンD、チオビタドリンクに それぞれ1000mg入っていて、商品の主成分となっていることも。
東京湾岸の縄文人たちは、
「イボキサゴは 体を丈夫にし、体調を整える作用がある」、と感じ 何千年もの長きに渡って毎日食べ続けていたのだろう。
イボキサゴ の謎の一つがやっと判明した気がした。
... ところが、(食べ方の)スープについての事実が分かった ...
↓
先の講演内容が知りたく、博物館に資料請求をしたら、親切な返事が来て、翌年の講座資料(1枚)を添付でいただいた。
『加曽利貝塚で多く出土するイボキサゴに着目した機能性関与成分の検討とその応用』 2019/06/26 (PDFはDropBoxに収録)
内容は残念だった、
『加熱抽出液からは (タウリンは)わずかに検出される程度だった。
加曽利縄文人は生体機能を整えるためにイボキサゴを日常的に摂取していた、というよりも、
うま味や塩味を加える調味料として利用していた可能性が示唆された。』
茹でただけではタウリンは溶出しないことが分かったが、加曽利縄文人は我々の知らない何らかの方法でそれを解決していたのだろう。
長年の経験で、例えば、特定の木の葉、根とか野草とかを入れて茹でると、それが触媒となり、イボキサゴからタウリンが溶出して来る、という類のノウハウを。
彼らはイボキサゴのエキスを抽出する技術を得ていた、と感じる。
または、そんな難しいことを考えずとも、
女たちがオシャベリしながら、イボキサゴの貝殻から器用に(食する)身だけを取り出し集めて、カラは捨てていたのかもしれない。
那覇の公設市場の裏で、オバアたちがオシャベリしながらモヤシのヒゲを取っていた光景を思い出す。その方が美味なのだw
― 結 論 ― 加曽利縄文人は イボキサゴの身を美味と感じ、また身体の調子を整えてくれるもの、と考えており、貴重な(医食同源)食材としていた。 彼らは、イボキサゴの円い殻から、小さな身を取り出し、その剥き身を集めて食べていた。 Q:殻付きのまま 茹でて出汁をとって、という食べ方ではないのか? A1:殻付きスープの食べ方では、イボキサゴの消費量は少なく、膨大なカラの貝塚を成すことは出来ない。 (小さな剥き身を集めることで、大量のイボキサゴが必要となった。) A2:縄文人は、採取したらその命を戴く、という精神文化を有しており、イボキサゴについてもキチンと身を取り出して食べていた。 (採取したイボキサゴを、茹でただけで食べずに捨てる、は彼らの生命観には馴染まない) A1、A2→ 殻付きイボキサゴは食材として使われなかった。(※a) スープの出汁では 殻は美味を損ねるもの(モヤシのヒゲ)なので除かれ、 身は茹でた後に余すことなく食べられ、タウリンなどのイボキサゴ成分はキチンと摂取されていた。 (※a)例外として(イベントでふるまわれたように)、オヤツとして、茹でた殻付きから 身を取り出して食べていたかも。 イボキサゴの剥き身は小壺に集められ、身を直接(蒸し、煮、焼き、干す等で)食べたり、出汁の素として水に加えたり(※b)、佃煮のような保存食にされた。 弱った時の滋養強壮用に食したりもした。 (イボキサゴの身と自然薯を混ぜて食する、は効果がありそうだ。) 個人的には、(ホタテや北寄貝の魚醤があるので)イボキサゴの魚醤をぜひ試してみたい。 加曽利縄文人にとって、イボキサゴは集落のトーテムポールのような象徴であった。 貝塚が、集落の周りに円を描くように集積しているのは、イボキサゴに似せて集落(=イボ)をデザインしたかのようだ。 |
(※b) (2020/01/23 追加)
加曽利縄文人の一般的なカロリー源は、灰汁抜きしたドングリ・クルミ・クリとイモ類などで、
食べにくいそれらを美味しく食べられるように、イボキサゴの剥き身が出汁として使われた、と考えられる。
集められたイボキサゴの剥き身は、細かく切り刻まれエキスが溶出するように煮炊きの壺に入れられたのだろう。
うま味などの調味料の役割の他に、タウリンなどの機能性成分も摂取され、そのことも意識されていたと考える。
参考:縄文時代の通年定住型集落を支えた食 −植物食の発達と貝・小魚の通年利用ー 千葉県教育振興財団研究紀要 第24号 2005年
― 終 り ―
※2
タウリンは、大変重要な働きをするアミノ酸。 ホメオスタシス作用という身体の恒常性維持に大切な作用がある。
アミノ酸同士が結合すると、タンパク質になるが、タウリンはほかのアミノ酸と結合せず、体内では遊離した状態で存在。
タウリンはあらゆる臓器に存在し合計量は体重の0.1%に相当し、脳、心臓、肝臓、骨格筋、網膜に多く含まれる。
ホメオスタシス作用は、体内の機能が働きすぎることを制御したり、機能が低下した時には改善させたりするなど、
ヒトの身体が常に一定の生理作用の中で動くようにバランスをとる作用。 The Power of Keeping Normal なのだ。
2020年01月10日 宇田川東