2009年02月23日


箕作柄長提灯鮟鱇(動物)

 漢字で書かれていきなり読める人はあまりいないだろうがミツクリエナガチョウチンアンコウ、有名なチョウチンアンコウの一種である。深海に暮らしていて頭の前に発光器官をぶらぶら下げており、これで獲物をおびきよせるのは有名な話だ。そのチョウチンアンコウの一種である箕作柄長提灯鮟鱇、もちろん和名だがこの生き物を研究していた箕作教授にちなんで名前がつけられている。箕作教授の名前がついた生き物は他にもたくさんいてミツクリザメのようにミツクリナ・オウストニという学名までついた魚もいる。ちなみにこのミツクリザメもやはり深海に棲んでいて、怪獣のように尖った頭と飛び出す口を持ったなかなかインパクトのある生き物だ。

 話をアンコウに戻すがこのミツクリエナガチョウチンアンコウ、メスの大きさは30〜40cmにまで達するのにオスはといえば体長2cm程度にしかならない。この小さな小さなオスはメスの身体に咬みつくと、そのままぶら下がって寄生しながら生きていくのである。大きな魚に寄生虫がぶら下がっている例はまま見られるが、このアンコウはオスがメスにぶら下がる。とんだ宿六もいたものだ。
 ところがうまい話というのはそう転がっている訳ではない。メスに咬みついたオスは血管などから栄養をもらって生きていくのだが、ただぶら下がっていればいいから目や口はもちろん、胃腸まで退化してやがてメスと同化してしまう。これだけは異様に発達した精巣だけが残されているという有り様で、それすら使い果たせば最後は吸収されていなくなってしまうのだ。

 クモやカマキリの中には交尾を済ませた後でメスがオスを食べてしまって栄養にするというものがいるが、このパターンは意外にオスが抵抗したり逃げ出したりする例も多い。メスを糸でしばって交尾するというツワモノのクモもいるがそれはそれとして、ミツクリエナガチョウチンアンコウのオスの場合はちょっと逃げようもないだろう。

 深海に限らず過酷な環境で、オスメス双方生き残ることが厳しい場合にはしばしばこうした生き物が現れることがある。おそらくこのアンコウのオスもメスに寄生しなければ、長期に生きていくことすらできないだろう。文字通り好きな相手と一緒になるのであれば本懐かもしれないが、数匹のオスをぶら下げた女傑の姿を見るに亭主元気で留守がいいなんて冗談口をたたけそうにはない。
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