2009年03月30日


托卵する鳥される鳥(動物)

 たぶんNHKだったと思うが珍しくもテレビ番組を見ていたら、ジュウイチがオオルリの巣に托卵している様子が放映されていた。托卵というのはカッコウでわりと知られている、他の鳥の巣に自分の卵を産んでそれを育てさせてしまうというアレだ。カッコウで知られている、とはいっても托卵する鳥は日本ではカッコウやホトトギス、ジュウイチにツツドリがいて実はどれもカッコウ目カッコウ科の近縁の鳥である。

 托卵する鳥が巣を選んで卵を産む。ばれないように一つ卵を産んだら、一つ卵を捨てておく。この卵はたいてい他のヒナよりも先に孵って、他のヒナよりも先に大きくなると手近の卵やヒナを巣から落としてしまう。で、そうとは知らない親に向かって大きな口を開けてエサをねだりながら育ててもらうのだ。しまいには親よりずっと大きく育ってからようやく巣立つことができる。
 なんともひどい話として受け取られやすい習性だし、落とされたヒナや卵は確かに気の毒だがそれでカッコウがずるい奴だといえばそれもどうかと思う。気の毒というならせっせと運ばれるエサたちだって生き物だから、よっぽど気の毒だ。

 それはそれとしてこの托卵についておもしろい研究がされている。近年、生息域が近づいてきたこともあってカッコウの親がオナガの巣にこの托卵をするようになったのだが、托卵されるオナガがこれに対抗するようになったというのだ。
 もともとオナガはカッコウを警戒しなかった。そんなオナガの巣にカッコウはいっぱい卵を産んで、オナガが激減するほど育ててもらったのだが、繰り返しているうちにオナガは自分の巣にカッコウが入ろうとしている姿や卵を捨てている姿を見つけるようになる。で、いつのまにかオナガはカッコウを見れば襲いかかるようになったのだ。カッコウを撃退したオナガは子孫を残しやすいから、どんどんどんどんオナガはカッコウを襲う鳥に変わっていく。オナガ以外にもカッコウを襲うようになった鳥はいくつか存在する。

 ところでカッコウの卵は親によって模様が多かったり少なかったりするそうだ。昔は模様が多い卵を産む鳥の巣に托卵していたカッコウ、最近はオナガやモズ、ヨシキリの巣に卵を産むことが多くなったが彼らの卵には模様が少ない。で、カッコウの多い場所に棲んでいるオナガの親は模様が多い卵を巣から落とすようになった。つまりこれからのカッコウは模様が少ない卵を産まなければ生き残っていけないのだ。ちなみにオナガよりもずっと昔にカッコウに托卵されていたホオジロは、カッコウの卵をすぐに見分けて捨ててしまうので最近ではカッコウもあまりホオジロの巣には近づかないという。
 こうしてみると托卵する鳥の苦労も尋常なものではないようだ。ご先祖様と同じことをしていれば巣に近づくのも難儀だし卵を産んでも落とされてしまう。托卵相手が群れる鳥なら集団で襲ってくるし、群れない鳥はたいてい強いから群れていない。そんな相手に見つからないように、他のヒナが孵る時期まで計算して、しかも模様まで似せた卵を産まなければならないのだ。で、新しい托卵相手を探さないでいるとこうした条件がどんどん厳しくなっていく。

 その習性によって環境に適応する必要に直面し、適応できたものがそれを受け継いだ子孫を残していくことによって少しずつ姿までも変えていく。カッコウの托卵は進化の好例のひとつとして注目されている習性だが、当然、托卵するカッコウが進化するなら托卵されるオナガも進化をし続けているのである。
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