2009年10月16日
シロサイとクロサイ(動物)
サイという動物を知らないという人はほとんどいないだろう。厚い皮を持つ巨体に短い足をした草食動物で、鼻面からは一本または二本の角が伸びている。皮膚の頑丈さは動物界でも随一といわれ、ヴァスコ・ダ・ガマが献上したサイをデューラーが描いた図画や、日光東照宮にあるサイの浮き彫りにはわざわざ甲羅がつけられているほどだ。
そんな有名なサイだが、その種類を挙げられる人となればそれほど多くはないだろう。アジアではインドサイにスマトラサイ、アフリカにはシロサイやクロサイあたりが生息している。とはいえこれらを区別するつもりならば、ゾウやキリンの区別と同様それほど難しくはない。
まず分かりやすいのはアジアのサイで、インドサイは角が一本しかないから一見して他と見分けることができる。スマトラサイはやや小柄で角の長さも10から30センチメートル程度、皮膚が薄くてやや毛深いので、丸みがあってほかのサイのようにゴツゴツした外見をしていない。英語ではスマトラサイは「毛サイ」と呼ばれているほどだ。
ではアフリカのサイはどうかといえば、これもなかなか分かりやすい。クロサイの角はだいたい二本でまれに三本目の小さな角が生えている。一番前にあるツノがずいぶん長くて、70センチメートルほどになる。シロサイは現生のサイでは最も大きく体重が2から3トン、角は一本または二本で長さは150センチメートルにも及ぶ。口が横に広いのが特徴で、これで下草をはさむようにして食べる。小柄で角が短いのがアジアのサイ、大柄で角も長いのがアフリカのサイという訳だ。
ところでアジアのサイはたいてい地名で呼ばれている。一方でアフリカのサイはホワイトサイとかブラックサイと呼ばれているが、実際にはサバンナで彼らの体色を見ても黒っぽかったり白っぽかったりと一様でない。砂あびや泥あびをする習性がある彼らは全身を土に覆われていることが多く、黒っぽい土地に暮らしていれば黒いサイに、白っぽい土地なら白いサイに見えるのだ。にも関わらず、アフリカのサイがクロサイとシロサイに分けられているのはどういう理由だろうか。
実はこれは単純な間違いが原因だと言われている。先述のとおりシロサイの特徴は幅の広い口で、尖った顔つきをしている他のサイに比べて区別がしやすい。幅の広い口をしたサイ、ワイドサイを聞き間違えてホワイトサイになったということだ。ではクロサイはどうかといえば、アフリカにいるホワイトサイ以外のサイだからブラックサイにしようということになったらしい。命名というのも存外いい加減なものなのだ。
英語でホワイトサイにブラックサイと呼ばれていたから、日本でもそれを訳してシロサイにクロサイと呼んで今にいたる。誰も彼らが実際に白いか黒いかには興味を持たず、観察もしなかったからアフリカにはシロサイとクロサイが暮らしている。
では彼らをヒロサイにセマサイとでも呼べば良かったのかと言われれば、残念ながらあまりセンスがいいとは言い難いだろう。
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