2010年03月10日


キイロハダカアリ(動物)

 ところでアリである。世界中に数多くの種類が分布していて、身近に知られている昆虫であるにも関わらずアリについての知識となると意外に知られていないことが多い。例えばアリというのは本質的にはハチの一種、それどころかスズメバチの一種である。ミツバチとスズメバチは同じハチの中でも別の科に属しているが、そのスズメバチの中にアリという種類があるのだ。よく見ればアリの姿が、スズメバチを小さくして羽をとったように見えることに気づくだろう。日本ではあまり見られないが、実際にはたいていのアリが毒針を持っていて刺したり咬んだりすることや、肉食性の獰猛な生き物であることも理解できようというものだ。

 アリの生態は様々で一概にはいえないのだが、大きな巣を作るアリはたいてい女王アリに働きアリ、兵隊アリに雄アリと雌アリに分類される。役割に応じて活動が異なるどころか姿まで変えていくのだが、普通は巣の中心に卵を産む女王がいてエサを集めたり子供の世話をする働きアリ、巣を守る兵隊アリが暮らしている。最初の頃は働きアリしか生まれないが、ある程度巣が大きくなると女王は雌アリと雄アリを生むようになる。ちなみに受精卵からは雌が、未受精卵からは雄が生まれて雌はたいてい働きアリになり、特別なエサを与えられると次期女王となるがこれが繁殖のポイントになっている。
 羽を持っている、雌と雄が生まれると彼らは一斉に飛び立って結婚飛行と呼ばれる競争を行う。一匹の雌を無数の雄が追いかけて空中で交尾を済ませてしまうのだが、満足した雄は力尽きると次々に落下して死んでしまう。雌アリは雄の精子をたくわえるタンクを持っていて、この結婚飛行の最中に一生分の精子を貯めこんでしまうのだ。地上に降りた雌は自ら羽を落とすと穴にもぐり、そのときから新しい女王としての生活が始まる。貯めこんだ精子を使って働きアリとなる雌をどんどん生んでいくのだ。女王アリの寿命は10年から20年ほどでやがて受精卵が生めなくなれば次の女王候補と、多量の雄アリを生んでコロニーは引き継がれていくことになる。

 基本的にアリの巣はすべて同じ女王アリの子で占められる。女王が死ぬと働きアリたちはやがて活動を止めていって巣がまるごと滅んでしまうが、働きアリの中に卵巣が発達して次の女王となるものが現れる例もあるようだ。とはいえ彼女は結婚飛行をしていない訳だから、次の雌アリや雄アリを生まなければ結局コロニーは長続きしないだろう。

 キイロハダカアリという種類がいる。沖縄など日本でも本土を離れた暖かい地域にしか暮らしていないのだが、ハダカアリとは名前の通り身体に毛が生えていないアリのことだ。このキイロハダカアリ、何故か雄アリの数が異常に少なく空を飛ぶための羽すら生えていない。研究者は雄が少ない理由に常々首を傾げていたし、このアリを最初に発見したフォーレルという人物は一見して姿の違うこの雄をキイロハダカアリとは違う別の種類に分類してしまったほどだ。
 どうして雄が少ないのか、その理由は実際に飼育してみると明らかになった。雄が羽を持っていない以上、キイロハダカアリが結婚飛行を行うことは問題外だが女王が次期女王と雄を生むようになると最初に生まれた雄が他の雄アリを次々と咬み殺してしまうのである。その理由は不明だが、結婚飛行をしない以上はこうした方法で競争を行わなければ巣が雄であふれてしまうだろう。生き残った雄はおもむろに雌の上に乗ると交尾に励むことになるが、雌は羽を持っているから最後には次期女王となるために雄を置いて飛び立つことになる。家族を巣に置いて、新天地へと発つ母の姿はたいそう勇ましいことだろう。

 地上を席巻する動物は人間でなければアリではないかとも言われているが、ただ産卵に励む女王に一年程度で死んでしまう働きアリ、熾烈な競争に挑む雄アリと、その暮らしは決して安楽なものではないようだ。
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