2013年08月17日


ヒドラ(動物)

 ギリシア神話では英雄ヘラクレスの試練のひとつに数えられた怪物で、昨今はファンタジー映画やコンピュータゲームに登場する姿が知られているかもしれない多頭の海蛇ヒドラ。だがこの怪物の名前をそのまま与えられた、おそるべき肉食獣ヒドラの存在はといえば意外なことにいまいち知られていない。

 ヒドラは細長い胴体から蛇の頭を思わせる何本もの触手が伸びていて、これで獲物を捕まえると毒針でしびれさせてから食べてしまう獰猛な水の怪物である。国内では流れのゆるやかな池や水路なんかでけっこう普通に見つけることができるのだが、惜しむらくは大きさわずか1センチメートルほどの透明から茶褐色の姿では知らない人には気づかないだろうということだ。むろんこれが大きかったらモンスターどころの騒ぎではすまないが。
 分類としては淡水性のイソギンチャクのようなもので、細長い体の一方を石や水草にくっつけてもう一方の端に触手と口がある。れっきとした肉食動物で、ゆっくりと移動することもできて毒のある触手を伸ばすとミジンコなどを捕まえて食べてしまう。親の体の途中から子供が生えて増殖する上に、プラナリアのようにばらばらにされてもそれぞれが別のヒドラになる強力な再生能力も神話の怪物ヒドラを思わせる。

 この手の生き物は金魚や熱帯魚を飼っている人にとっては厄介なしろもので、とくにタマゴを産ませて稚魚を育てている水槽にヒドラが居ついたりするとたいへん困った事態になる。なにしろ栄養があれば分裂してふえてしまうし、ていねいに捕まえても根っこの部分が残っていれば再生してしまう。獰猛なメダカでもいればヒドラを食べてくれるのだが、ヒドラを食べるような魚はたいていタマゴや稚魚も食べてしまうのだ。もちろんヒドラに限らず、水槽に入れる石や水草はあらかじめこうした生き物を駆除するのが当然ではあったりする。
 とはいえ実のところ、自然の池や水路であれば食べるものもそれなりにあってヒドラが暮らしやすい環境はままあるのだが、水槽の中というのは彼らにとってけっして天国や楽園とは言いがたい。先の獰猛なメダカではないが、けっこう大食漢のヒドラがふつうの水槽で食べられるものといえば餌用のイトミミズくらいしかなく、そんな餌が入っている水槽にはヒドラを食べる肉食魚がいるというわけだ。産卵用だったり餌用の小エビを育てる水槽だったり、天敵がおらず餌は豊富という特殊な環境がそうあるはずもなく、どうやらご家庭にヒドラの恐怖がおよぶ機会はあまり多くはなさそうである。

 さてここまで書いて、この生き物には和名チクビヒドラというがっかり名の種類が存在するのだがぜひファンタジー映画やコンピュータゲームに逆輸入してもらいたいものだと思う。
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