2009年06月16日
サルカニ合戦(物語)
有名な昔話にサルカニ合戦というものがある。童話や昔話というのは地域の伝承だったり、淡々と描かれた諸行無常だったり、道徳的や教条的なものだったりと様々だが概して教訓が入っていた方が頭の固い人々には喜ばれるものだ。
そこでサルカニ合戦だが、あいまいな記憶をたどってみるとサルに頼まれて柿のタネをおにぎりと交換したカニのお父さん、それを植えると立派な木になっておいしそうな実をつけた。ところがカニは木に登れないからサルに頼んで柿を取ってもらうのだが、当然の報酬として樹上でぱくぱくと柿を食べ始めたサルにカニは自分にも柿を取ってくれという。これも当然の要求だがサルは青く硬い柿を投げつけるとカニは潰されて死んでしまった。
かわいそうな父の死に泣いているカニの息子を見て、友人だったクリとハチ、牛のくそどんにウスの四人が奮い立つと悪いサルを懲らしめてやることになった。囲炉裏に隠れたクリが弾けてサルにぶつかり、躍り出たハチが尻を刺すと逃げ出したところで牛のくそどんが転ばせてしまい、最後に屋根の上から落ちたウスがサルをぺしゃんこにしてめでたしめでたしになる。このお話、教訓を探すのであれば仇討ちをたたえているのではなく、友情のすばらしさを謳っているのでもなく、サルのように不当な約束や行為をするとひどい目に会いますよということを言いたいのだろう。基本的にこうした話の主役はひどい目に会った者で、カニを潰したサルはその報いをウスに潰されることで受けたという訳だ。
そこでもう少し考えてみよう。
かわいそうなカニのために団結する、うるわしい友情を見せてくれる円卓の騎士だが牛のくそどんに助けられてまで仇討ちがしたいかという是非はさておき、彼らの「助け」は壮絶なものだ。サルを驚かすために囲炉裏に隠れたクリ、弾けた彼は当然割れてしまっているしあとはおいしく食べられるしかないだろう。そしてハチというのはミツバチだろうから、一度ハリを刺したら抜け落ちてそのまま死んでしまう。彼らは命を賭してまでカニのために戦うのだ。牛のくそどんはもちろんサルを転ばせるために、自らの身を挺してもろともウスの下敷きになってしまう。
こうして戦いは終わり、残ったのは割れたクリと死んだハチ、ウスの下でぺしゃんこにされた牛のくそどんとサルである。かわいそうなカニは単にかわいそうであったというだけで、彼のまわりで勝手に吹き荒れた騒動は彼が関わりもしないうちに皆が倒れて終わってしまった。カニの視点に立ってみるとあまりに唐突でわけのわからないお話で、やっぱりサルカニ合戦はサルが主役なんだろうと思う。
唯一生き残ったウスだがおそらく彼がもう一度ウスとして使われることはなかったろう。
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