2009年06月26日


浦島太郎(物語)

 むかしむかし浦島太郎は助けたカメに乗って竜宮城で酒池肉林。帰ってみると何百年も経っていて、玉手箱を開けると真っ白な煙が立ちのぼっておじいさんになってしまいましたという有名なお話がある。これを聞いた人はカメを助けたにしてはずいぶん酷い扱いではないかと思ったこともあるだろう。

 このお話、日本書紀や万葉集にその原型らしきものがあるのだが実は助けられたカメの正体こそ竜宮城の乙姫さまで、助けられた彼女は竜宮城で時間のない生活、不老不死の生活を贈るために浦島太郎を招待するが最後に男は家に帰ってしまう。つまり悲恋がテーマのお話だったという訳だ。室町時代の浦島太郎も竜宮上を去り際の浦島太郎に対して、乙姫さまは自分の正体があの時のカメだったことを告げている。
 たぶん亀姫では美しさに欠けるとして、いつの間にかカメと乙姫さまが別人ということにされたのだろうが物語としては亀姫のほうがよほど美しいのではないだろうか。自分を助けてくれた男に「亀は万年」の彼女が不老不死を与えてくれるが最後はその恋も破れてしまう、どこか鶴の恩返しを思わせなくもない。

 ところでここで問題になるのが玉手箱である。玉手箱という名前は後になって付けられているが、箱を開けると真っ白な煙が立ちのぼり、おじいさんになった浦島太郎がぱたりと倒れて死んでしまうという流れはむかしから変わらない。死んでしまう、という下りは最近になって削除されてしまったようだが乙姫さまから「開けてはいけません」と渡される玉手箱、なんでこんなモノを渡したのかという疑問を持った人もいるのではないだろうか。
 ちなみに日本書紀や万葉集に戻れば、家も里もなくなったことを知った浦島太郎は絶望の中ですべてが元に戻ると思って箱を開けている。確かに箱から立ちのぼる煙はすべての時間を元に戻してくれて、老人はそのまま息を引き取った。不老不死の世界から男が帰ることを知った乙姫さまは、自分が浦島太郎に何をしたかを理解してすべてを元に戻す箱を渡さずにはいられなかったし、それを開ければ彼がどうなるかも知っていたのである。「開けてはいけません」という言葉には深い意味があるのだ。

 むかしむかし。浦島太郎に助けられた竜宮の姫君は、美しい宮殿に恩人を招待すると二人で仲むつまじい生活を送る。異境での生活が続き、年老いた父母が心配になった男は一度里に帰って自分がここにいることを両親に知らせたいと姫に告げた。まさか男がそのようなことを言い出すとは考えてもいなかった姫は、彼の家や里がどうなっているかを伝えることができない。竜宮は不老不死の世界で、地上では数百年が経っている。男の両親など生きている筈もないのだ。
 それでも決意の固い浦島太郎に何も言い出せないまま姫は小さな箱を渡す。この箱はあなたの望みを叶えてくれるでしょう、ですが決してこれを開けてはいけませんと告げるのだ。箱を開けなければ男は地上で生きることも、竜宮に帰ることもできるだろう。だが知らずとも父母を見捨ててしまった自分を彼は決して許しはすまい。箱は開けられてしまうに違いない。

 本当は、浦島太郎はこんなお話だったのだ。子供向けではないかもしれない、だがより美しい物語ではないかと思う。
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