2011年01月19日
桃太郎(物語)
桃太郎といってもフトモモがたくましい男性が鬼たちをコンテストで負かしていくというものではなく、今更ながら有名な日本のおとぎ話である。あまりに有名なせいで地域によって内容に意外と差があるのだが、たいていは桃から生まれた桃太郎がイヌサルキジのお供を連れて鬼ヶ島まで鬼を退治しに行くというものだ。桃太郎の本場は全国各地に存在するが有名なのは岡山県で、もともと当地は吉備の国と呼ばれていたのがこれをキビ団子とかけて桃太郎の本場は吉備の団子がある岡山、と称しているらしい。たんなる駄洒落でしかないのだが駄洒落だから根拠がないという証拠もなく、まあ桃太郎の本場としては岡山県が有名ですと言っておくのが無難だろう。
この桃太郎、室町から江戸時代の頃にできたお話だがいつの間にか軍国風に味付けされてしまい日の丸ハチマキに陣羽織、背にはノボリという衣装で定着している。何ごとであれ反対しなければ気がすまない人であれば、日の丸を巻いて海の向こうに攻め込むとは何事だと騒ぎ立ててくれることであろう。ちなみに桃から生まれた娘子が鬼ヶ島まで話し合いで解決に行くという、ジェンダーフリー臭ふんぷんたるバージョンも存在するそうな。
わりとよく聞かされる解釈としては桃太郎が育ててくれた恩に報いるべく立身出世、仲間と力を合わせて財宝を手に入れて家に帰るという親孝行な物語だとされているし、イヌは忠義、サルは知恵、キジは勇気をあらわすとも言われている。とはいえかの福澤諭吉は「たとえ悪者だとしても宝を奪ってそれをお爺さんとお婆さんにあげたとなれば、桃太郎はけしからん盗人だ」と非難していたという。鬼ヶ島の財宝は鬼たちが村人から巻き上げた品々であるのだから、村の人に返すのが筋だろうということだ。
とはいえ子供向けの勧善懲悪の物語に乱暴だ暴力的だと非難をするのも大人気ない。たとえば村人を困らせている鬼を退治、国から褒美が出たのでそれを持って家に帰りましたでは理屈は通るが桃太郎が賞金稼ぎになりかねない。とはいえ桃太郎の童謡、あまり知られていない後半の歌詞まで歌い上げてみると福澤諭吉が非難する気持ちも分からなくはないのだ。
桃太郎さん、桃太郎さん。
お腰につけたキビダンゴ、一つわたしに下さいな。
やりましょう、やりましょう。
これから鬼の征伐に、ついて行くならやりましょう。
行きましょう、行きましょう。
あなたについてどこまでも、家来になって行きましょう。
そりゃ進め、そりゃ進め。
一度に攻めて攻めやぶり、つぶしてしまえ鬼が島。
おもしろい、おもしろい。
のこらず鬼を攻めふせて、分捕りものをえんやらや。
万万歳、万万歳。
お伴の犬や猿キジは、勇んで車をえんやらや。
確かにこれだけ見れば桃太郎というより勇ましい海賊の歌でも通じそうな歌詞である。まあ文部省唱歌にも挙げられていることだし、悪人以外は生き返る世界で悪い奴は木っ端微塵にしてしまう人気漫画に比べればまだしも穏当だが一考する価値はありそうだ。
桃から生まれた桃太郎、育ててくれたご恩に報いるべく大志を胸に家を出た。道中出会った仲間たち、イヌサルキジと旅する桃太郎だが偉い人になるには困っている人を助けるべきだと考える。話によると鬼ヶ島には悪い鬼がいて、そこらの村を襲っては人を困らせているそうな。勇んで乗り込む桃太郎、大きな門をどんどん叩いて声を上げる。やい鬼め、村人を困らせるなんて許さないぞ。門を開いてあらわれた鬼は聞く耳持たず、大きな金棒を持ち上げて桃太郎をぶん殴ろうとした。思わず飛び出したイヌが吠えかかって驚かせると、サルが金棒にしがみついてキジがくちばしで鬼に突きかかる。助けられた桃太郎は刀を抜いて、鬼の足にぐさりと突き立てた。もうしませんと泣いてあやまる鬼は蔵を開けると一抱えもある宝を渡し、桃太郎は喜び勇んでお爺さんとお婆さんが待つ家に帰る。誇らしげな桃太郎に、嬉しそうな顔をしてお爺さんが言う。
「お前はお前を助けてくれたすばらしい仲間たちを手に入れたね。そしてわしらには困っている村人を助けようとした立派なお前がいる。それはどんな宝よりもすばらしい宝物だよ」
そう言うと、お爺さんとお婆さんは宝物を鬼に襲われた村人たちに全部あげてしまった。桃太郎はそんなお爺さんとお婆さんのために、もっともっと偉い人になろうと思いましたとさ。
こんなお話であれば、かの福澤諭吉先生も気に入ってくれたのではないかと思う。少なくとも娘子が金棒を持った鬼と話し合いをしにいくという、男尊女卑もはなはだしい物語よりはマシというものだろう。
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