2008年12月09日


コロンブス(偉人)

 本名クリストファー・コロンブス。学校の教科書ではたぶんアメリカ大陸を発見した人として有名な人物だろう。イタリアはジェノバ出身の船乗りで、トルコ帝国が今のイスタンブールを陥落させてビザンチン帝国が滅亡した、ちょうどそんな時代に生まれている。当時、ジェノバやヴェネツィアに代表されるイタリアの商人たちは困っていたものだ。彼らの貿易先であったインドや中国へのルートにつながる、東地中海から中東への地域がすべてイスラム勢力のものになったのだから。キリスト世界の商人たちは、格好の大口取引先を競合イスラムに奪われてしまったことになる。
 ところで当時の文献の中に、昔のバイキングはヨーロッパから西に向かって大陸に渡っていたという記述があった。これこそ世界で最初にバイキングが発見したアメリカ大陸なのだが、どうした訳かコロンブスという男、これが中国やインドのあるアジアに違いないと確信する。思い込んだらなんとやらとばかり、大西洋への航海を説いたコロンブスはスペイン女王の援助を受けると3隻の船を率いて西への冒険に旅立った。そして1492年10月11日、2ヶ月間の航海の末にカリブ諸島の一群を発見するのだ。現地に暮らしている素朴な住民たちを見つけたコロンブスがスペイン女王に喜びを伝えた手紙の一節。

「ここには良い奴隷がたくさん住んでいます」

 さっそく数十人の住民を船底に押し込んだコロンブス、現地に要塞と兵士を残すと喜び勇んでスペインに帰り群集の歓呼に迎えられる。気をよくした彼は再び航海に出るが、もちろん現地では反乱が起きて仲間はとうに全滅していたものだ。その後もコロンブスは大西洋を横断して現地の人々を制圧するが、悪辣が過ぎてとうとうスペイン政府に逮捕されてしまうと地位も援助も失い1506年、失意のままに永眠する。ちなみに敬虔なキリスト教徒でもあったコロンブスがスペイン女王に宛てた手紙の中には、次のような一節もあった。

「良心的なキリスト教徒以外ここに上陸させてはいけません」

 良心的なキリスト教徒であったコロンブスは最初にアメリカ大陸を発見した人物ではなかったし、船乗りとしてはアジアとアメリカの区別もつけられず、統治者としては悪辣だった。だがコロンブスの航海を機に、数千年にわたって世界の中心であった地中海が大西洋にその座を奪われるのである。歴史の主役はイタリアではなく、イギリスやスペイン、アメリカへと移り変わっていく。
 そう思えばコロンブスは偉大でもなんでもないが、やはりコロンブスの航海は偉業であったというしかない。偉人の伝記の中に偉大ではないが偉業を果たした人の伝記が混じっていますよ、などといちいち書くわけにはいかないから、今でも彼の名は偉人の伝記に記されている。
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