2009年01月05日


LHC(科学)

 知恵と知識に基づいた人間の想像力というのはなかなか侮れないもので、科学の世界ではこれを仮説と呼んでいる。ブラックホールがあるに違いない、と考えて探してみたら見つかったという話や、かのアルバート・アインシュタインが想像した未来へ行く方法だってすでに実現しているのだ。

 スイス郊外、ジュネーブの地下深くに設置された大型ハドロン衝突型加速器、通称LHCというものがある。地下に埋められた巨大なリング状のチューブはひとまわりが河口湖一周くらい、山手線の内側にすっぽりおさまるくらいの規模になっている。2008年9月10日に正式稼動を開始、ヘリウム漏れの事故があって一時中断しているが、今春には稼働再開されるということだ。
 日本を含むいくつかの国が参加しているこのプロジェクト、何をしているかというと巨大なチューブの一点から右と左にビームを発射して、発射されたビームはどんどんスピードを上げながら光速の99.99%の速さに達したところでお互いに正面衝突、そのときに何が起こるか調べようというものだ。アインシュタインの特殊相対性理論では光速に近付くほどエネルギーは増大するので、衝突した時の衝撃はすさまじいものになる。推定では14テラボルト、ご家庭の電気が100ボルトだがLHCでは14,000,000,000,000ボルトのエネルギーが発生するのだ。

 だがなぜこんな実験をするのだろうか。ビームとビームが衝突するとき、生み出される素粒子を見つけることが目的のひとつとなっている。物質をとてもとてもとても小さくした素粒子、例えば水は水素と酸素が結合してできていて、水素や酸素は原子核のまわりを電子がぐるぐるまわっているが、その原子核は陽子と中性子が合わさってできている。雑な説明だがこの陽子と陽子をぶつけることで、ヒッグス粒子と呼ばれる素粒子が飛び散るのではないかと科学者は想像した。モノに質量、つまり重さを与える存在を探そうとしているのだ。
 他にも様々な目的があるのだが、世間的に注目されているのがこの巨大な装置がビッグバン直後の宇宙の状態を再現して、ごく小さなブラックホールを作り出すというもの。なんとこの装置、スイス郊外ジュネーブの地下にブラックホールを誕生させるというのだ。フランスでは危険だから実験を中止すべきだという訴訟も起こされているが、幸いまたは残念なことにブラックホールができたとしてもとても小さいのですぐに消えてしまうらしい。この程度の衝突は宇宙では日常茶飯事に起きていることだから、さもなければ宇宙はブラックホールであふれてしまうということだろう。

 ところでこの話、とある学校で生徒が教師に聞いてみたらまるで答えられずにさんざ莫迦にされたという。さて次の実験が行われるときには、よもや日本が参加していませんでしたということにならなければ良いのだが。
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