2009年10月30日


人工衛星(科学)

 空は人工衛星に満たされてぶつかってしまう懸念が絶えない。空はあれだけ広いのにいったいなぜだろう、と思うのであれば人工衛星がどういうものかを今ひとつ理解していないことになる。空は広いかもしれないが、人工衛星にとっての空は決して広くはないのだ。

 せっかくなので人工衛星の基本的な知識について整理をしてみようと思う。地球の上で、ボールを水平に投げれば当然、重力に引かれてやがて地面に落ちてしまう。だが地球は丸く、重力はその中心に向かって働いているからボールをものすごいスピードで水平に投げれば、ボールは落ちながらも地面に到達できず飛び続けることになる。
 この単純な発想が人工衛星の原理で、衛星が円運動をはじめるスピードが第一宇宙速度、秒速約7.9km/s。更にスピードを上げていけば衛星軌道は楕円形を描くようになり、ついには重力圏を脱出できる。これが第二宇宙速度、秒速約11.2km/sとされている。

 ニュートン曰く、重力は距離の自乗に反比例するから地表からより遠い場所にあるほど重力は弱く脱出速度も小さく遅くなる。地表から高さ100kmくらいまでは秒速約7.9km/sでほとんど変わらないが高さ1,000kmでは秒速約7.35km/sほどになる。もちろん地表に近すぎればビルや山や雲にぶつかってしまうから、たいていの人工衛星は地表数百kmから数千kmの高さを飛んでいる。ちなみに富士山頂は地表4kmに満たず、飛行機が飛んでいるのは10km程度だ。
 ところでこの衛星軌道が更に高い場所、地表35,786kmになると円運動ができるスピードは秒速3.07km/s、このスピードになると地球を一周するのにかかる時間が地球が自転する時間とちょうど等しくなる。つまり地表から見て同じ場所に人工衛星がい続けることになる訳で、この軌道を静止軌道と呼んでここを飛ばす人工衛星を静止衛星と呼び、気象衛星や通信放送ほか様々な用途に使われている。余談だがGPS用の衛星ではアインシュタインの相対性理論に従い、高速で移動する衛星の時間の遅れと地球の重力によって地上の時間が遅れることの双方を計算しないと時計を合わせることができない。

 ではこのスピードをどうやって得るか。ロケットを飛ばすのは大変だから、少しでもロケットを飛ばす助けになる力が欲しい。丸い地球が回っているのであれば、地表には遠心力がかかっていて遠心力は中心から遠いほど強く働く。つまり赤道に近い場所でロケットを使うほど遠心力を利用して人工衛星を飛ばしやすくなるのだ。

 高さは同じ、緯度は赤道近辺で用途は様々とあれば混雑しない方がおかしいだろう。しかも静止軌道はたびたびずれることがあるので、それに合わせて静止衛星の軌道も直さないといけない。太陽光発電などを利用しているとはいえ、軌道制御の電池や燃料が切れたときが静止衛星の寿命という訳だ。
 こうした衛星の配備を国際電気通信連合無線通信部門という大仰な名前の組織に申請して、場所の割り当てをもらうことができればようやく打ち上げができるが、それでも世界中で千を超える数の人工衛星が狭い軌道上にひしめきあっている。もちろん、ロケットを打ち上げて衛星軌道に乗せるためのルートだって細かく決まっている。他の衛星が秒速3.07km、時速11,052kmほどのスピードで動いている中に新しい衛星を打ち上げる、驚くほどの精密な計算とそれを実現する技術が求められるのだ。

 せっかく打ち上げた労苦を思えば、将軍様をたたえる歌も流したくなるというものではないか。
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