2010年02月10日


ベルリン青(科学)

 日本語では紺青色と呼ばれているが、箱根駅伝で見る某学園の色、プルシアンブルーとしての呼び名のほうが有名かもしれない濃い青色のことである。1704年にドイツの染色業者であるハインリヒ・ディースバッハという人が発見したそうで、化学的には鉄のシアノ錯体に鉄イオンを加えることで得ることができる。ようするに鉄という手に入りやすい材料から作ることができる青い染料で、当時青色は高価で貴重だったので秘伝とされていたが1726年にはイギリスで製造方法が発表されると広く知られるようになった。ちなみに草木を燃やした灰とウシの血を煮るということだから、牧場に行けば材料がふんだんに手に入るということになる。

 日本では十八世紀に平賀源内が紹介しているが、イギリスから清国を経由して実際に輸入されるようになったのは十九世紀になってからで、かの葛飾北斎が「富嶽三十六景」の絵の具として使ったことでも知られている。紺青と呼ばれる日本でのベルリン青は北斎をきっかけに広まったとも言われているが、むしろ大量に出回るようになった安くて質のいい絵の具のおかげで北斎も遠慮なく青い絵を描けたというのが実情だったろう。何しろベルリン青が来るまでの日本では、青い染料は時間が経つと変色することが多かったが北斎の絵の鮮やかさは現代にも残されているほどだ。
 ちなみに同じ紺青でも厳密にはベルリン青とプルシアンブルーは別もので、製法によって使い分けられているらしい。先述の鉄を使って作るのがベルリン青で、絵の具としてはもちろん医者が染色用に使うこともある。ベルリン青は化合物としてものすごく安定しているから身体の中でもなかなか溶けず、体内にある鉄分を青く染めたいときに使う。ベルリン青について調べてみれば、たいていは血液や細胞を染める方法にたどりつくだろう。

 ところでこのベルリン青にまつわるエピソードがある。とある科学者がベルリン青の工場を訪れて、鉄の鍋で材料をぐらぐら煮ている様子を説明してくれた。工場長が曰く、がらがらと大きな音を立てて混ぜるほど良いベルリン青ができるということである。しばらくして科学者から手紙が送られてくると、そこには「鉄の粉を鍋に入れてやれば大きな音を立てずとも普通に混ぜるだけで良い色が出るだろう」と書かれていた。大きな音を立てて混ぜると鉄の鍋がこすれて溶ける、それが良い色を出していた原因だというのである。その工場ではこれまで以上に質が良い、安定したベルリン青を製造できるようになったということだ。
 科学的な思考をするのであれば、大きな音を立てれば良いベルリン青ができるといった話に論理的な根拠を見つけられずとも当然だろう。だが迷信的な経験則を頭ごなしに否定せず、観察することによって論理的な法則性を見出すことができるなら、そこには思わぬ科学が潜んでいるかもしれない。大きな音を立てたところで良いベルリン青ができる筈もない、と言ってしまえば話はそこで終わっていただろう。

 壊れたテレビを叩いて直すという方法は、どうも迷信にしか思えないが実際には接触不良を衝撃で直すという効果もない訳ではない。ただし直ったとしても一時的なものだし、壊れる可能性も同じくらいあるから普通は説明書を見るか、サポートセンターに問い合わせたほうがいいだろう。
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