2011年06月26日


発電所にまつわる不謹慎な話

 周知の通り、先の震災および人災に関連して原子力発電所で事故が発生、その余波を受けて国内各地の原子力発電所が停止したまま稼働させることができないという事態に陥っている。代替エネルギーの必要性を訴えながら原子力発電所を止めるのは構わないが、二酸化炭素排出量削減の必要性を訴えながら火力発電所を稼働させるのは構わないらしい。たかだか経済が冷え込んだり放射能が漏れましたというだけでこの有り様だから、発展途上国と呼ばれている国々が二酸化炭素排出量規制なんて先進国の身勝手だと、さんざ言っていたのも故ない話ではなかったということだ。
 そんな話題や軽水炉が沸騰している原子力発電所。容認派と反対派と無関心派の皆に言えることだが、どうやって原子力で電気をつくるかはたして知っているのだろうかとは思う。もしかして核燃料を燃やすと電気ができるとか、マヌケなことを考えていないだろうかと深刻に疑問を感じてしまうが確かに「燃」料という文字を使っているとはいえ、そんな人は一度義務教育からやりなおしてみるのも手かもしれない。

 たぶん日本人はそれなりの割合で中学校を卒業している筈だから、右ねじとか左手とかいう磁界と電気に関する法則を習っているだろう。ものすごく雑にいえば磁石を動かすと電気が生まれる。もっと子供むけの工作を例にするなら玩具のモーターの回転部にハンドルをつけてぐるぐる回すと中の磁石が回転して電気を起こすことができるのだ。身近なところでは自転車のライトを見てみると、なるほどモーターをぐるぐる回して明かりを灯しているのが分かる。
 ではこの方法を使えばいくらでも発電ができるではないか、などと言う人はまさかいまい。なぜならほとんどすべての発電所はこの方法で発電しているからで、水力火力風力原子力とも事情は変わらない。水の流れや風の力、石油石炭を燃やした蒸気でモーターをぐるぐる回して発電する、このシステムを指してタービンと呼んでいる。では原子力発電所ではどうかといえば、核燃料というものすごく熱い物質を水に放り込んで、ぼこぼこと沸騰させた水蒸気でタービンを回して発電している。たとえば石油ストーブで沸かしたお湯と原子爆弾で沸かしたお湯、どちらの蒸気がたくさんタービンを回すことができるだろうか。

 いずれにせよ原子力発電に替わる方法を探すこと自体は悪くない。とはいえ巨大な水力発電所はアスワンハイダムや三峡ダムに代表されるように、自然環境にまるでやさしくないことは知られている通りだろう。日本のダムは洪水が起きないようにするついでに発電所をくっつけているだけだから、利権政治家の思惑があったとしても実はたいした規模ではない。水力発電を増やすつもりなら村ひとつではなく都道府県のひとつふたつは水没させる覚悟が欲しい。
 風力発電は回転するプロペラに野鳥、とくに希少な大型の鳥が激突する問題が発生している点と、昼夜を問わない騒音被害が問題になっている。家の近くで巨大な軍用ヘリコプターが昼夜プロペラを回し続けていたらどうだろうかと考えてみればいい。これもあって風力発電所はなるべく広大な不毛の荒野に建設することが求められているのだが、陸地はもちろん海まで入り組んでいる日本でなかなか難しいのが実情だ。

 では知らぬうちに国内1000万戸に1000万台設置されることになった太陽光発電はどうだろうか。二酸化炭素を1990年比25%減らすというのとどちらが難しいか容易に判断しがたいがそれはそれとして、実は太陽光発電は一般的に知られる方法の中で唯一タービンを使わないという面白いしくみで発電している。やっぱり雑に説明すると、太陽の光を浴びるとプラスの電荷を帯びる物質とマイナスの電荷を帯びる物質を用意して、これを並べると片方から片方に電気が流れるというものだ。パネルの材料が希少だとか劣化した後のリサイクルが大変という問題もあるがメーカーの奮闘によりだいぶん解決されていて、二酸化炭素も騒音も出さないクリーンなエネルギーだし太陽が滅びるころにはたぶん地球も滅びているからエネルギーが枯渇する心配も少ない。
 だが太陽光発電にはごく単純で究極的な欠点があり、あくまで補助発電向けでメイン発電には向かないことを忘れる訳にはいかないだろう。原子力や火力は夜でも悪天候でも発電できるが太陽光はそうはいかない。明るいうちに充電池にためこんでおけばよい、というのは単なる論理のすり替えで、原発も明るいうちに充電池にためこむことができるではないかと言われてしまえば反論できなくなってしまう。もっと現実的な問題として、パネルを設置するには屋根が必要だがウサギ小屋と称されるこの国で、たとえばタワーマンションの屋根から壁までパネルで埋め尽くしたとしてもとても足りるものではない。そもそもふつうの建物は床には重い家具を置けるように丈夫にしているが、天井に重い家具を置くことは想定していないのだ。まずは1000万戸の屋根を補強するのが先決という訳である。

 ところで自然エネルギー発電の中で、世界的に活用されていて安定度も発電量もそれなりにあるにも関わらず、日本ではエネルギー白書の中ですらほとんど取り上げられていない手法がある。それが地熱発電である。これは地底から噴出する蒸気でタービンを回すというもので、国内では片手の数ほどしか存在せず地方のホテルが自前で設置した発電機まで含んでいるというほどだから本当に普及していない。日本では地熱発電が可能な地域が国立公園に指定されていることが多く、法的に開発できないから敷地の外から斜めに井戸を掘ろうかというウルトラCまで検討されている。
 火山国である日本で、世界的に実用化が進められている地熱発電がほとんど検討すらされていないのは原子力開発を進めたい政治家や企業の思惑でしかない、という陰謀論を声高に唱える人もいるが事情はもっと単純だ。火山国である日本で、地熱発電ができるほど地底から蒸気が噴出する場所がどうして国立公園にしか存在しないのか。それは国立公園以外でそんな蒸気が噴出する場所は何百年も昔から「温泉」と呼ばれて活用されてしまっているからだ。

 たとえば草津をひとつまるまる潰して巨大な発電所や変電所をつくればなかなか立派な発電所ができるのだが、さてこの国でそんな検討をすることにどれほど現実味があるだろうか。基本的に西洋人が湯船につからないことを忘れてはいけない。
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