2009年04月23日
TO地図(社会)
古代の人々は地球が丸いことを知っていた。紀元2世紀頃、ギリシア人の天文学者クラウディウス・プトレマイオスが世界で最初に刊行した地図帳には彼らが暮らすローマと地中海を中心にした地図が描かれていて、そこには緯度や経度、赤道までが記されていたものである。今から1900年ほど昔のこの地図にはインドから中国まで載っていたが太平洋は描かれていなかったから、これを見たコロンブスが地図を西に行けばすぐに中国だ!と思ったとか思わなかったとか。
ところがプトレマイオスの時代から1000年ほどが過ぎた、いわゆる中世キリスト教世界の人類はこれとはまったく異なる観点から生み出された斬新な地図を採用している。それがTO地図だ。
まずは世界を現す大きな円形の海を描き、この中央に人が暮らしている陸地をやはり巨大な円で描く。これをT字の水で分割すればTO地図のできあがりだ。このかんたんな地図は上が東で左が北にあたり、水で区切られた上部の半円がアジアで右下がアフリカ、左下がヨーロッパとなっている。右に伸びる水がナイル川で左の水がドナウ川、下に伸びる水が地中海というわけだ。落書きみたいな地図だが、なぜこんな地図を作ったのかといえばれっきとした理由がある。
プトレマイオスの時代はローマの最盛期だから世界各地各国で交易をしていた。イタリアを中心にした広大な帝国がアラビアを経由してインドや中国まで取引を行っていたのだから詳しい地図も必要になる。ところが中世というのは豊かになると反乱するから民衆は貧乏でいなさいという世界だから、聖職者と巡礼者以外は旅に出てもいけないという実に平和な世界なのだ。
その教会がつくるTO地図は中心にエルサレムを描き、世界の果てである東の端、地図の一番上にはゴグとマゴグが閉じ込められていたりする。旅をしない人々に正確な地形図は必要ないから、ようするに世界の中心はエルサレムですよという彼らの宗教観念を絵にしたのがTO地図なのだ。例えばアフリカには野蛮な人々の姿が描かれて侵略すべき場所(布教すべき場所ともいう)だとされているし、海というのは世界の中心から遠い場所だからキリスト教徒は本能的に海を怖がる。
こんなマインドマップみたいな地図で1000年くらい過ごしてきたから、キリスト教圏の人々はオラが村を一歩外に出たらそこに何があるのか分からなくなってしまった。もちろんそんな中でもたくましい商人は教会に出資して、卑賤な自分たちを例外にしてもらうことで地図も交易も独占してきたのである。この状態はイスラム教、というよりイスラム商人が彼らの市場に進出してくるまで続くことになる。
ところで地図といえばこんなエピソードがある。テレビゲームで遊んでいる某国の子供たちに世界地図を見せて、北極から更に上に進むとどうなるかと聞いたら南極に出ると答えたそうだ。どこまで本当かは分からないが、人類が再びTO地図のお世話になるまでは笑い話で済ませておくことにしよう。
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