2009年07月15日


水難事故(社会)

 梅雨が明けてこの時節になると毎年、いたましい水難事故の報道が後を絶たない。水辺というものは蒸発した水蒸気が気温を下げる上に風をさえぎる遮蔽物も少なく、涼しい風が流れてくれば水に入らずとも過ごしやすい場所である。暑気を避けて水辺に行きたくなる理由も分からないではないのだが、くれぐれも事故には気をつけてほしいものだ。
 とはいえ事故の内容を聞いてみると、はてと首を傾げたくなる例が見受けられるのも間違いない。極端な例をあげれば台風の時節に増水する川の様子を見に行ったとか、津波警報を聞いて海辺に行ったという類すらあるが実に危ない。だがそこまで分かりやすい例ではなくても、当人が気づかないうちに好き好んで水難に近づいている例もあるのではないだろうか。

 ふつう、川や池や沼や湖には海水浴場がない。もちろん海ではないから海水浴場ではありえないが、川や池には泳いでもいい場所や足を踏み入れていい場所というのが少ない。川べりに専用の流水公園を作っている例を除けば、ふつうは川や池や沼や湖には足を踏み入れてはいけないのだ。

 そこで川を例に取って、足を踏み入れることができる場所について考えてみる。まず基本的に流れのない場所には注意が必要で、こういう場所では水に流される心配はないが水が流れないということは川底に砂や泥がたまりやすい。つまり沈んでしまうかもしれない。浅い場所でも太陽の光が届くから、今度は苔や藻で足をすべらせやすくなる。ある程度浅い場所で底には砂や泥がたまらず苔の張らない程度に水が流れていること、ただし足を取られない程度のゆるやかな流れだったら川の中でも歩くことができるだろう。
 水が流れていれば水に流されるかもしれないのは当然だ。例えば1メートル×1メートル×1メートルの水の容積は1キロリットルだから重さ1トン、こんなものが流れているんだから基本的に水に流されたらそれに逆らうことはできないと思ったほうがいい。歩ける程度に浅い場所、という浅さの目安は、転んでもその場に転がるだけで流されない程度の浅さという訳だ。

 これが川で泳ぐとなれば更に難しい。川というものは水深が深くなると、水面近くの水は下流に流れているが水底ではぐるぐると水が対流する。つまり川に流されると川面をすべってあっという間に下流に押しやられてしまうか、水底をぐるぐる回って水面に出れなくなるかのどちらかになるという訳だ。運よく流されて溺れる前に難を逃れることができればいいが、時間の猶予は突然息を止められてから息を吸おうとするまでの間、ほんの数秒程度だろうか。つまり川で泳げる場所というのは、入り江のように流される心配が少ない場所ということだが、こうした場所はたいてい水がとても深くてプールのように足をつくことも休むこともできない上に水も格別冷たい。
 ところで川というのは流れている。流れているからには上流があるということで、山の上で雨が降ったり上流のダムで放水をすれば川の水位は上がるものだ。雨上がりの抜けるような青空、湿気のある暑い日に川で遊ぼうというのは子供でもやらない間抜けな行為で、川に近づいてはいけないのは今日雨が降っている日と昨日雨が降った日である。

 この季節になると毎年、水難事故を防ぐために各地の自治体や学校その他でいろいろな注意や指導が行われているが、先日、どういうつもりか救命胴衣をつけて川で泳いでもらうという体験会の様子が報道されていた。彼らはふだん救命胴衣をつけて川遊びをする訳ではあるまいに、そんなことをしていったい何の役に立つというのだろうか。水難事故を防ぐための約束事というのはめっぽう多いが、昔から川に入ったり川で泳いだりしている人はごく当たり前にそれらを守っているだけなのだ。
>他の戯れ言を聞く