2014年01月18日


ほほえみの国(社会)

 ほほえみの国として知られるタイ王国。例のごとく大規模な反政府デモが横行している状況に、報道ではたびたび注意が呼びかけられている一方で一部の地域を避ければ平穏でそれほど危なくないとの声もなくはない。ようするに衝突も政務停止もいつものことだということなのだろう。

 近年の状況をざっくり要約すれば地方農村を地盤にするタクシン政権が2006年の軍事クーデターで崩壊、後に民政復帰と選挙が行われるが、以降は赤いUDDと黄色いPADの両政党が対立して一方が政権を握ると他方がデモと称する暴動を起こすことを繰り返している。
 人数は赤いUDDが圧倒的に多いのだが、資金力は都心部と軍を擁する黄色いPADが潤沢だから「弁当代」を頼りにした暴動の参加者たちも元気いっぱいだ。2014年1月現在、解散総選挙を主張する首相に対して反政府デモを続けているのがこのPADで、選挙になれば負けるから無条件で政権を明け渡しなさいというのが彼らの主張である。

 と、民主主義に毒された目で見ると少数派が選挙によらず力ずくで政権奪取を迫っているように見えてしまうし、困ったことに実際そのとおりなのだが彼らにも言い分がないわけではない。潤沢な資金があるくらいだから、本来相応の発言権があって然るべき都会の住民にしてみれば、彼らが少数派だという理由で政治から阻害されるとなればそれは民主主義ではなく数の暴力ではないかと言いたくなる。学級会のように「誰々くんが悪いかどうか多数決で決めたいと思います」がまかり通ってしまう。
 ついでに本音をいえば賄賂が常態化しているこの国で、赤いUDDが政権を握っているということは賄賂の取り分も地方ばかりが享受して都心の住民は阻害されるからこれはずるいとなってしまう。もちろんPADが政権を握っていた当時は都心の住民だけが賄賂による利益も享受していたから、このときは赤いUDDを支持する地方民たちがASEAN首脳会談を中止させるほどのデモを敢行してみせた。

 だからあくまでたった今だけの姿を見て、黄色いPADは民主主義に反した暴徒だから鎮圧しちゃえといえば公正な視点とはいいがたい。タイの根本的な問題は地方を牛耳るUDDと、都心に居座るPADの双方が「どっちもどっち」という点にこそあるのだから。
 戦後、4〜5年に一回くらいのペースで軍事クーデターを繰り返してきたタイ王国だが軍隊が出張ってくると西欧諸国がうるさい一方で、民衆が出張ってくれば賞讃する人すらいるからずっとやりやすい。植民地全盛の時代であればそんなことをすれば他国が介入してくるが、今はそれがないから安心して国政を放り出すことができる。日本のデモも似たようなところはあるが、幸い、こちらは規制を無視して歩道を練り歩いたり大声で迷惑をかけるような連中はずっと少ない。

 ほほえみの国とは悪い側面だけを見れば「ええじゃないかと笑って済ませる国」である。さて王国タイに必要なものは民主的な手続きによる事態の沈静化であるのか、いっそ強硬な手段による事態の沈静化であるのか、あるいは事態を沈静化しないことであるのか。
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