中世ファンタジー創作


「よくぞきた。ゆうしゃロトの血をひくものよ」

 ラダトームの王様に呼び出された君は、さらわれた姫君を助け、悪い竜王を倒して世界に平和を取り戻すために旅に出ることになった。勇者の血を引くと称している者はおそらく君一人ではないのだろうが、王にすればごく小さな助けにもすがりたい心境なのであろう。充分とはいえない路銀を受け取り、さっそく王城の近くの町で買い物を済ませると、いささか不格好な銅の剣を腰に吊るし、革の鎧を着て皮の盾を手に城を出る。ザックには薬草と毒消し草と松明。これで準備は万全の筈だ。王城と城下町は内海に面して建てられている。潮風を受けながら、君は町を後にした。



ラダトームの城

 王城の周囲に広がっている平原はこの周辺でも比較的平穏な地域として知られている。だが城下町から流れる排水に汚れた一帯には、スライムと呼ばれるべたべたとした不定形の化け物が徘徊していることでも有名だった。平原には丈の短い草が点在しているが、その中に化け物が這い回ったのであろう腐食したような植物の残骸を見つけると、そこらには言いようの無い悪臭が立ち込めている。鼻の奧が痛くなるような匂いの中を半日ほども歩いたであろうか、君の目の前についにそのスライムが現れた。別の食事にありついたばかりだったのか、通常とは異なる赤黒い色をした化け物は生あるものから養分を奪うべく、無様な図体を引きずりながら襲いかかってくる。かたまりを一体の敵と見なして戦え。



スライムベス 技術点 5 体力点 7

 銅の剣が何度か怪物に叩き付けられ、粘りのある体液を飛び散らせるとようやくスライムは潰れて二度と動かなくなった。地面に悪臭を伴う水溜まりができ、残骸からは消化しきれていない毛皮と2枚の金貨が見付かる。血生臭い食事の名残りなのだろう、君は金貨を拾うとむかむかしながらその場を離れた。
 君の所持品には食料がほとんど入っていない。商隊でもないのに大量の保存食を抱えて旅ができる訳はないから、こういった物はなるべくそこらで手に入れる必要があった。だが水にしろ食べられる草にしろ、スライムの匂いが立ちこめる場所で探すつもりにはとてもなれない。日が暮れる前に平原を抜けてしまう必要があるだろうと君は足を速める。

 急ぎ足だったにも関わらず、君が森に入った頃にはすっかり日が暮れかけていた。既に森の中には日が殆ど届いておらず、周囲はかなり薄暗くなっている。潮風にのって流れてくるスライムの腐臭から一刻も早く逃れたい君はもう少しだけ森の中へ踏み入り、そこで野営を張ることにした。この時間では狩りはなかなか難しいので、君は手近に生えていた野草をよく選んでからむしり取ると、火を起こして大きな葉に水を張り、その中で野草を煮てからむしゃむしゃと食べ始めた。明日は湧き水なり小川なりを探すことと、もう少しまともな食料を探した方がいいだろうと思いつつ、食事を終えた君は焚き火を消し、身体が冷えないようにマントを巻き付けると木にもたれかかり銅の剣を抱えながら浅い眠りについた。

 落ちつかない夜が過ぎ、何事もなく朝を迎えた。焚き火の跡を始末した君はザックを担ぎなおし、出立した。森はさほど広くないので、歩き続けてもう一泊すれば明日には王城から臨むことができた丘の麓に着くことができるだろう。途中、君は食料を確保する為に狩りを行い、簡単な罠を使ってまるまると太った野ねずみを捕まえた。皮を剥ぎ取り、血を抜いてからまた火を焚いて炙り始める。やはり森の中で見つけた茸と一緒に良く焼いてから汁気たっぷりの肉にかぶりつく。多少足を止めても構わないかと、今日はここでこのまま野営をすることに決める。君はぼりぼりと首筋を掻いてから昨日と同じように木にもたれかかり、眠りについた。
 その日の夜、森は比較的穏やかだが君は徘徊する怪物と遭遇する可能性がある。ここの番号を記録し、ランダム遭遇表を見てダイスを振ること。



ドラキー 技術点 6 体力点 4

 黒ずんだ短い毛に覆われたドラキーは、翼の生えた狂暴な山猫か、大型のこうもりを思わせる外見をしている。黒々とした口中に短い牙からよだれを滴らせて襲いかかってくる怪物に、君はとっさに焚き火にくべていた松明を手に取ると突きつけた。怪物が怯んだところで立ち上がり、力いっぱい剣を叩き付ける。何度かもみ合い、きいきいと不快な声を立てながらドラキーの身体がどさりと地面に落ちたところで垂直に突き立てた剣を怪物の口中に突っ込み、とどめをさした。君は何度か鈎爪で引っかかれ、噛みつかれたものの、たいした傷は負わずにすんだようだ。死体から剣を抜き取り、べっとりとついた血を拭うと君は再び眠りにつき、充分に眠れなかったことに腹を立てながら翌朝出立した。

 しばらく歩いた翌日、ようやく森を抜けた君は荒れ地に面した丘の前に立っていた。細い道筋に立てられている立て札には、分かれ道に従って行き先の地名が記されている。丘沿いの道は鉱山跡に、丘上を越える道は小さな村を経由した後で、ガライの町に辿りつくらしい。君は丘を登る道を選んだ。
 君が丘を登るに従って、だんだんと異臭が漂ってきた。丘の中腹に至る頃には、流れてくる汗と垢の匂いに、君は集落が近いことを悟る。土壁に藁葺きの屋根が乗せられている家々が視界に入り始め、ぼろぼろの衣服を着た村人たちは君を見ると逃げるように建物の中に隠れていく。怪物の出る昨今は人の往来が少なく、余所者に対して警戒の視線がむけられるのもやむを得ないのだろう。

 君はここで保存食を手に入れられないかと考えたが、人の往来が少ない集落では金貨はあまりありがたみを感じてもらえない。代わりに村人から汚物溜めを掘る仕事を頼まれた君は、食料に加えてその日の寝床を条件に引き受けることにした。重労働の報酬として君は干し肉を受け取り、寝藁の敷いてある小屋でゆっくり休むことができた。ところで君はドラキーに一度でも傷を負わされただろうか?もしそうなら君はその傷口が紫色に変色しているのに気が付く。荷物の中にある毒消し草をすりつぶしてから傷口にすり込み、高熱を発して二日間寝込んだ君は、なんとか回復するとようやく起き上がることができるようになった。一日余分に泊めてもらった事に感謝の意を告げると、君は足取り軽くとはいえないまでも集落を後にした。

 丘を越え、道はなだらかな下りの斜面となった。ここから外海に面したガライの町までは楽な道が続いている筈で、幾度かのゆるい勾配を越えると君の視線の先には小さな港町が見えてきた。だが町が近付くにつれて、その周辺を行く人々の荷物を当てにした追いはぎまがいの連中も増える事になる。君の行く手を遮るように、二人の亜人が現れた。体格のいい一方は片目が潰れており、棘付きの棍棒を手にしている。もう一方は身体のあちこちに抜け毛がひどく、斑状になっていて刃こぼれのした短刀を持っている。それぞれと順番に戦え。



リカント 技術点 7 体力点 9
リカント 技術点 8 体力点 7

 激しい戦いの末、手傷を負いながらも君はなんとか亜人を殺すことに成功した。棍棒の一撃は君の肩に食い込み、内出血の跡が赤黒くなっている。君は傷口から血を抜いた後で薬草をよくもんで傷口に当てると、縛って止血をした。まだ少し痛みは残っているが、町についてしばらく休んでいれば傷口が塞がり、やがて回復するだろう。君は亜人の死体から金貨を四枚と干し肉と魚の干物が二日分、それから羊皮紙でできた小さな包みを見つけた。包みには煙草の葉が詰められており、君はそれを持っていくことにする。
 リカントの死体を後にしばらく歩いた君はようやくガライの町に近付いた。周囲に整備されていない街道が見えてきたあたりで、君は今日は早めに野営することに決めた。怪我をしたこともあり、体力を回復する必要もある君は焚き火を焚くと、手に入れた食料をあぶって食べることにする。明日にはガライに辿りつくことができるだろうと思いつつ、君は眠りについた。

 だが捕まえた野ねずみにたかっていた蚤か、君に噛み付いたドラキーか、それとも滞在した集落の人々か、或いは斑状のリカントから感染したのか。いずれにしても君が持ち込んだ伝染病が急速にガライに蔓延すると、小さな港町はかんたんに滅びてしまうことになる。もちろん君と共に。
 そして王城の人々は正義の勇者が悪の竜王を倒してくれるであろうことを奇妙に確信しつつ、無意味な時をただ過ごしているのだ。

 君の冒険はここで終わる。無論所持金が半分になって復活したりはしない。
>他の雑文を聞く