大荷物を引いて泳いできた。 |
中空の立体魔方陣を滑らせながら発注書をペラペラめくって確認をつき合わせている。 |
発注書の厚みもいつもの倍くらいある。 |
「これから行くサンセットオーシャンはとても暑いらしい」 |
「焼けるように暑い(baking hot)」 |
「煮えるように暑い(boiling hot)」 |
「焦げるように暑い(scorching hot)」 |
「とろけるように暑い(melting hot)」 |
「お肉が焼けるように暑い(sizzling hot)」 |
「おいおおぞらかける、焼きいも買ってこい。お前の金で」 |
「確かにさすがに暑いなー。事前の調査通りって感じかー」 |
(くったりとして少し変色してる) |
「タコも俺もそんな頑丈ってタイプじゃないしなあ… ゾーラに至っては遮るもんもないのはさすがにキツいかもな」 |
(心配そうにぴいぴい鳴いている) |
「もずこは雑な構造だから一番大丈夫そうだな…」 |
海面に浮いている。 |
深く潜っていった。 |
どっちも暑いらしい。 |
「こくりっちからバドミントンセットをもらったぞー!」 |
「やいおおぞらかける、いざ尋常に勝負しろ」 |
(カンッ) |
(コキッ) |
(ぼすっ) |
「・・・バドミントンはにがてだー!」 |
「…」 |
「…もずこお前、器具を用いた競技って全部ダメだよな…」 |
(ラケットの網につき刺さったシャトルをひっこ抜いている) |
「まあ俺も得意って訳でもねえけし、どっちかって言うとボールを使った球技全般が苦手だしなー」 |
(海ことりがぽふぽふ跳ねてる) |
「…兎にも角にも今年もよろしくだ!」 |
魔法で氷を作る。 |
すぐに溶けてしまった。 |
氷を魔法の泡で包み緩やかに水温を冷却する。 |
成功したようだ。 |
「燃えるサンセット以下略に古代の銃というのが出るらしい」 |
「銃なのに古代ってどーいうことだー!」 |
「1:古代中国で使っていた火薬武器」 |
「2:古代ローマで使われたギリシアの火」 |
「3:宇宙戦艦ヤマトで古代進が使っていた銃」 |
「ちなみに古代進の銃はユキカゼでひろった兄さんの銃のはずだー!」 |
「…もずこ、お前多分延髄だけでもの考えてしゃべってるよな?」 |
(海ことりが困っている) |
(タコが松本零士ワールドを紐解いてる) |
「それはそうとよ?お前んとこの海ことり、明らかに一年前より数増えてんだよな? 今いったい何羽いるんだか、数えたことってあるか?」 |
(首をかしげている) |
「なんかこう…サモン、ことりみてえに、延々増やせたりすんじゃねえかってちょっと…」 |
(その先はやめとけ、のジェスチャー) |
魔法で固めた氷の泡にもたれるように漂っている。 |
ぐるぐると巻き付いていく。 |
泡に背を乗せるように仰け反り、身体を伸ばす。 |
「いよいよこの先の海域にイワシキングが回遊していることを確認した!」 |
「だがウチにはおおぞらかけるがいるからきっと勝てるぞ!」 |
「料理がうまいとか」 |
「縫い物がとくいだとか」 |
「換気扇を拭けるとか」 |
「物干し台に洗濯物を干せるとか」 |
「誰が背が低いだとー!」 |
「(一連のセリフを聞いて)…」 |
「…俺の存在意義についてものすごくなんか深く考えたくなるけど、 とりあえず評価してくれたってことは受け取っておくぜ、もずこ…」 |
(何かを察したようにぽんぽんと肩をたたいている) |
(フォローしていいもんかどうか分からずぴいぴい鳴いてる) |
「それはそうとよ、俺のタコ、おかげさんでだいぶん強化はできたぞ。 これでゾーラと俺で立ち回り担当!って出来れば嬉しいんだけどな」 |
「ところで肝心のもずこのパワーアップ計画って、あれ結局どうなったんだよ?」 |
(ちょっとビクっとしてる) |
「…なんか聞くの、こええんだけど…」 |
改造用の魔方陣を展開して眺めている。 |
さらさらと確認しながらめくっていたが、同じところで躓いている。 |
失敗に気付いた顔。 |
力なく浮いて漂っている。 |
「イワシキングを無事に蹴散らしてやったぞー!」 |
「だがもう少し先の海域にもイワシキングの魚影を確認したらしい!」 |
「イワシの煮付け」 |
「イワシのマリネ」 |
「イワシのテリーヌ」 |
「イワシのスターゲイジーパイ」 |
「おいおおぞらかける、今日の晩飯は焼きイワシとご飯とおみおつけを要求する!」 |
「…お前やめたな!?想像までしたけど結局守りに入っただろ!?」 |
(煮付けまでならオーケーかなのジェスチャー) |
「…まあ正直イワシはただ焼いたのが一番うまいよな。 それ言ったら大抵の魚って焼いただけでうまいもんだからな。 ただ、刺身だって新鮮なのは格別だしなあ…酢で締めた小魚も… 正直、素材の味が引き立つ加工法なら俺はなんでもいいかな」 |
ぴいぴいぴい(焼いた野菜もおいしいよ、の意) |
「…ま、文明人として文化的な食生活は送りたいもんだな」 |
光を操り宙に重ねるように四枚の魔方陣を描き、円の端々に3つずつ宝石を置く。 |
上から落とした魔石が、立体に組み上げられた魔方陣の中心を布に飲まれるように沈んでいき、端に置かれていた多数の宝石も中心に巻き込まれて落ちていく。 |
全ての宝石を取り込み魔方陣を巻き込みながら貫いた魔石が手の中に落ちると、空中に延びて残った魔方陣もすべて吸い込まれ魔石の中に畳まれていく。 |
出来上がった魔石を透かして眺めている。 |
「今度はこの先の海域にスペースシャークの魚影を確認したらしい!」 |
「シャークネード サメ台風」 |
「シャークネード サメ台風2号」 |
「シャークネード エクストリーム・ミッション」 |
「シャークネード フォースの覚醒」 |
「シャークネード5 ワールド・タイフーン」 |
「やいおおぞらかける、お前の武器をチェーンソーに改造してやってもいい!」 |
「…あのさ、シャークネード。5作も出てんの? チェーンソー使いで?え、ローマ法皇からもらって?義手で?サイボーグで? …(俄然興味が出てきた顔)」 |
ぴいぴいぴい(海ことりが必死に鳴いている) |
「いかんいかん。本題は見失っちゃマズいよな。スペースシャークな。 …海なのに?」 |
(それはそれで問題だよねというジェスチャー) |
「俺も大抵のことなら割り切って考えられるようになったけど、 なんか大切なものを失っちゃってる感じもするんだよな。大人になったってことかナー」 |
頬杖をついて魔方陣をじっと眺めている。 |
完成した魔方陣再度展開して、細かく書き足したり消したりしている。 |
考えが煮詰まったのか、時折ぐるりと旋回して泳いでいる。 |
「ばりばりばりらーばり!さほればーふばり!」 |
「じぇはらてぃにけばったりばったり!」 |
「ぶばならんに!じぇいこったり!」 |
「ががなれちゃっとらむばったり!」 |
「へいさ!るっどらさ!へいさらばったらさむっどらさ!」 |
「へいさ!るっどらさ!へいさらばったらさむっどらさ!」 |
「おいおおぞらかける、ちなみに字幕だとシヴァ神と言ってるが歌詞だとルッドラ神と歌っている!」 |
「なんだなんだ!?ロレツがおかしいぞもずこ?! 朝っぱらからいったい何が始まったってんだ!」 |
(海ことりが説明するようにぴいぴい鳴いている) |
「…ってあー、アレな。何、おまえ歌詞全部文字起こして暗記したの。 字面だけだとまんまどこぞの邪神か何かに祈ってるみたいだから程々にな?」 |
(おもむろに弓を持ってきて掲げてる) |
「…って、おまえもかよ!?」 |
柔らかい身体と長い首を捩りながら火傷跡になっている箇所を確かめるように |
上体が尾に包まる様にぐるぐると球形に丸くなり浮いている。 |
抜けだすように球を解くと、先ほどまで火傷だった箇所が艶めいている。 |
尾先から火傷を負った箇所が脱皮のように剥がれ落ちる。 |
「最近おおぞらかけるが活躍するようになった!」 |
「これも彼がたゆまぬ特訓をした賜物だと思う」 |
「グローブなんて捨てちゃうとか」 |
「バットで鉄球を打ち返すとか」 |
「ガソリンに火をつけたボールでノックするとか」 |
「丸木をかかえて滝つぼから落ちるとか」 |
「やいおおぞらかける、おまえは死の赤フン踊りというものを知っているか!」 |
「はっはっはっ、もずこ、いくら俺でも死んじゃうぞ?」 |
(鎮痛のおももち) |
「…てか今度という今度はツッこんどくけどなあ!?お前、俺だったらもう何やってもいいって思ってないか!? あと何でお前そんなにネタが前世紀なんだよ!?絶対ハレー彗星実際見た組だろ!?」 |
(それ以上はいけない、のジェスチャー) |
「…まあ、それはさておき(?)確かにもずこのおかげでなんというか… おかげさんで考えられない強化をかまされちゃってるような気もするんだけどさ。 あそこまであからさまにケタが違う強化されると、なんか今までは一体何だったんだろうって気にもなるよな」 |
(万越え八回攻撃おめでとう、のテロップ) |
「…あれ、あんま使いすぎると絶対にあとで死ぬやつなんだろうな…」 |
くるくると周りを見ている。 |
休んでいるのか、微睡んでいるのか・・・。 |
ゆっくりゆっくりと泳いで回っている。 |
「いまおおぞらかけるに借りたチベット旅行記を読んでいる」 |
「明治時代のお坊さんがチベットまでありがたいお経を探しにいったお話だ!」 |
「盗賊に襲われそうになったりとか」 |
「世話になった村で嫁をとらされそうになったりとか」 |
「ヒマラヤ山脈を歩いて越えたりとか」 |
「英国のスパイと間違われたりとか」 |
「おいおおぞらかける、いいことを考えたぞ!」 |
「(全部聞いた上で)やだよ!!」 |
(そりゃあ、なあ、ってジェスチャー) |
「俺、最近責任感じてんだよなー。こいつのなんというか規格外っぷりは別に天然でもなんでもなくて、単に俺もその形成に一役買っちゃったんじゃねえかって思うと…」 |
(海ことりがぴいぴい鳴いている) |
「あとさあ、俺いつまでバタフライ積めばいいんだ? 前から聞きたかったんだけど、結局これってなんか意味…(言いかけて察し)」 |
海面から顔を出し、じっと様子を見ている。 |
視線を残しながらゆっくりと旋回し潜っていく。 |
ぱしゃりと水が跳ねた。 |
「今回は1日が1週間になるらしい」 |
「何を言ってるかわからねーと思うが以下略!」 |
「@ハンサムのポルナレフは突如反撃のアイデアがひらめく」 |
「A仲間がきて助けてくれる」 |
「Bかわせない。現実は非情である」 |
「おいおおぞらか |
「(遮って)やだよ!!!」 |
(深く深く頷く) |
「…まあ、俺も薄々感じてたってか、再三言ってるんだけどな。 この場所、てかこの海全部、色々どっかおかしいじゃねえか」 |
「まあ住民やら生き物やらがアレなのは今に始まったことじゃねえよ。 ここで言ってるのはなんつうか、時間軸の話な。 明らかにここ、単純に『1日』の長さが違うんだよ。要するに。しかもその長さの違いも、日によってまちまちなんだ。」 |
「…調べてみれば周期とかあるのかも知れないけど、そういうの調べるのは協会の連中あたりの仕事なんじゃねえかな」 |
「…全然サッパリあてにならないけどな…」 |