新しい鐘と古い鐘を両手に持って、なんとなく小さく振りながら左右に揺れている。 |
見られていることに気付いた。 |
すっと泳いで行ってしまった。 |
「うわさではこの先にアルシエルとかいうのがいるらしい」 |
「アルシエルというのは黒い太陽を象徴する天使だか神様の名前だそーだ」 |
「ちなみに錬金術における黒い太陽とは日食とか土星のことで物質の死を意味している」 |
「だが日本では黒部ダム工事の苦闘を描いた黒部の太陽という映画が存在する!」 |
「出水のシーンでは三船敏郎と石原裕次郎が420tの水から本気で逃げたそうだ」 |
「おいおおぞらかける、ラピッドストームを強化するぞ!」 |
「あーヤバイヤバイヤバイ!!それ以上のネタはやめとけもずこ!」 |
(当時の撮影はCGなんてないからこその本気の迫力があるよねー、的なジェスチャー) |
「まあそれはそれとしてアルシエルな。名前や原典だけ聞いたらなんか今風の『それっぽい』のが出てきそうな雰囲気だけど…」 |
「俺的にはその錬金術の方の『物質の死』ってのが怖すぎてなあ。 あれって、要するに昔の化学でもあるじゃん?物理学とかそういう…そっち系のものに準えてるとかだったら勝てる気がしねえぞ?」 |
「まあ、この海のことだし、全然関係ないって可能性もあるけどな…」 |
ガラガラと新しい術の準備をしている。 |
何だかよくわからないものがきたという面持ち。 |
どうしたものかぐるぐるまわりながら考えている。 |
「これから黒い太陽アルシエルとかいうのを討伐する」 |
「あんこ食いてー饅頭☆かきぴーから情報を聞いて対策もばっちりなはずだ」 |
「だがやはり黒い太陽よりも黒部の太陽という映画に言及しないことはできない!」 |
「大浜詩郎は蒸し風呂のようなセットの中で連日点滴を打ちながら撮影を続けていたという」 |
「三船敏郎が420tの大水を前に立ちすくんでいたら撮影は失敗に終わったといわれている」 |
「石原裕次郎はこの作品は映画館で見て欲しいといって長年ビデオ化を拒んだそうだ」 |
「えーとだからナイアルヨシエルとかいうのがなんだっけ」 |
「あるのかないのかどっちなんだー!」 |
「…(無言で頭をかかえる)」 |
「…もずこ、お前な?マイペースなのは結構なんだけどさ。 もうちょっとなんというか世界線というか、TPOとか、そういうのをいろいろわきまえた言動を心がけてもバチはあたんねえんじゃねえの?」 |
(フォローのしようがなくて困っている仕草) |
「まあ、百万歩譲ってそういうところもまた長所ってとこなんだとしてもよ。 割とお前のそういうよくわかんねえ雑学知識のほうが、のちのち記録にも残らない取るに足らないミクロのデータとして価値があるのかもしれないしな」 |
「こうやって切った張ったしてる旅も、その中のやんちゃなやりとりも、 冒険記とかデータとかには残らないかもしれねえだけで、他の連中も割と似たり寄ったりなのかもかもな」 |
浮いている魔方陣を見ながら首を傾げている。 |
魔方陣の外側にさらに円を増やし新しく術式を書き加える。 |
魔方陣が光りながらすごい速さでグルグル回り始めた。 |
パタパタとはたく様に書き加えた部分を掻き消す。 |
・・・。 |
「そんなわけでアルシエルにも無事に勝つことができた」 |
「なんか行き先がいろいろ解放されてポルトガを出港したおもむきがある」 |
「エジンベアとか」 |
「テドンとか」 |
「ランシールとか」 |
「サマンオサとか」 |
「ああああバーグとか」 |
「おいおおぞらかける、おまえは商人に転職するつもりはないか!」 |
「その流れで言うとかけるバーグで地下牢送りになっちまうじゃねえか!」 |
(商人の名前は『はん』派でしたのジェスチャー) |
「…でもまあ、確かに一気に行ける場所が広がっちまって正直驚いてるよ。 なんてーか、行ける場所が一気に広がるって意味じゃ嬉しいけど、多分これ、他の探索者のみんなが切り開いてくれた道筋なんだろうな」 |
「ま、いろいろ目移りはするけど、目下気になるのは今自分たちで進んできた道の先にあるモンだな。 前のジュエルドラゴンの先の件もあるからなあ。一応ちゃんと見極めた上で先に進んだ方がよさそうだ」 |
「…ってもずこ?聞いてるかー?」 |
微妙に残ってついてきているイワシを手で払いながら散らしているが・・・。 |
・・・数が多い。 |
あきらめて水面近くに浮いて退避している。 |
「暑いー!」 |
「夏バテを防ぐためにも涼しくなる食事は必須だと思う!」 |
「ターメリックの効いたカレーとか」 |
「コリアンダーの効いたカレーとか」 |
「クミンの効いたカレーとか」 |
「ガラムマサラの効いたカレーとか」 |
「とんがらしの効いたカレーとか」 |
「おいおおぞらかける、今日のご飯は」 |
「…もずこ、それ全部入ってればなんだってカレーになるから」 |
(むしろ本場は何がカレーで何がそうなのか分かんなくなるよね、のジェスチャー) |
「まーむしろ、カレーってのはルーじゃなくてスパイスからぶっこんで作る方が本場仕様なんだよな。カレールーって、あれほとんど小麦粉と油だもんなあ…そら胃もたれするよなあ」 |
(塩も好みで加減できるのがいいよね、のジェスチャー) |
「まあ正直な話俺が作ると油も使わないからカレー味の味噌汁みたいになるんだけどな」 |
(本場ってなんだろう、って顔) |
海面上に身を浮かせ、ゆっくりゆっくり回りながら周りながら泳いで身体を日に当照ている。 |
時折、通り過ぎる人々を顔だけ出して見ている。 |
再びゆるりと漂っている。 |
「ディーププラネットに到着したぞー!」 |
「いちおうここにはバカンスをしに来たことになっている!」 |
「もともとバカンスはフランス発祥で貴族や金持ちがなにもしないことを指して呼んだものだった」 |
「これが二十世紀になって労働者に休みを取らせる法律を作ったのが今のバカンスだ」 |
「1936年には二週間連続の有給休暇が認められた」 |
「1956年には三週間連続の有給休暇が認められた」 |
「1969年には四週間連続の有給休暇が認められた」 |
「1982年には五週間連続の有給休暇が認められた」 |
「そして2000年に週35時間勤務制にして企業はこれを調整休で埋めることにした」 |
「つまりフランスでは有休+調整休で二ヶ月近い連続休暇を取ることができるのだ」 |
「おいおおぞらかける、二ヶ月前のフランスパンがたいへんなことになっているぞ!」 |
「やっべ!忘れてたー…ってもずこそれ何冷静に観察してんだッ!>二月前のフランスパン」 |
(青カビまではギリギリセーフ?のジェスチャー) |
「…それはそうと、さすがフランス。バカンスに命掛けてんなあ。 ジュテーム立国を自称するだけあってそら出生率も上がるよなー」 |
「そんだけ休んでも回るような仕事の効率を常に求められるって意味では別の厳しさはあるかも知れねえけどな」 |
(安易に真似するとそれはそれで反動多そうだから慎重にね、のジェスチャー) |
「も…本来生産性云々もあくまで企業やら工場とかの単なる労働環境において用いられるべき単語ってだけなんだけどな。勘違いしないことが大事だな」 |
「それはそれとしてバカンスな。むしろあれ、経済発想のほうでうまく回してんじゃなかったっけか。しっかり賃金払って休みを与えると人間『使う』ようになるってことで経済が回る、ただそれだけの話だったような…?」 |
「…むしろそっちのほうが絶対効果高いよなあ…」 |
(海ことりは日向ぼっこしている) |
魔方陣の中で新しい術をせっせと組み立てている。 |
魔方陣の中で光っている石に指を近づけ様子を見る。 |
ちらちらと休み場を気にしている。 |
「ところで最近原生生物が通常攻撃ばかり繰り返しているようだ」 |
「どうやら海域をまたいで原生生物を送り込むシステムがあるらしいのだが特に大型の生物は浮力とか水圧とか水温とか異なる環境に調整するために時間がかかってスキルを使えずにいるらしい」 |
「一方で探索者は先んじて調整を済ませているから一方的にスキルを使用できているのが昨今の状況だ」 |
「つまり探索者はいよいよ防衛システムに先んじて海域の奥に到達しつつあるということでもある」 |
「おいおおぞらかける、次回もディーププラネットでバカンスをするぞ!」 |
「(うん、うん、うん、と聞いている)」 |
(聞いてる) |
「…そ、そうだな!」 |
(オーケーサインを出しかけて) |
「…ってええ!?な、なんで!?」 |
(焦ってる) |
「話の前後が繋がってねえだろが!?せっかく真面目に考えてるっぽかったのに 此の期に及んでどうやったらバカンスって発想が…」 |
「…でも、アリなんだよな。バカンスって名目だったら出来るメリットってのも、あるっちゃああるわけだし…」 |
(一種のボランティアってやつですかねー、のジェスチャー) |
「…ものはいいよう、ってヤツとも言わねえか、それ?」 |
じっと遠くを見ている。 |
視線に気付くと首をゆらゆらと揺らして小さく回る様に泳ぐ。 |
行き先を指差し・・・。 |
「いよいよ魔王とかいうのが復活したらしい」 |
「おとーさんそこに見えないの魔王がいるこわいよ」 |
「ぼうやそれはさぎりじゃ」 |
「おとーさんおとーさん聞こえないの魔王がなにかいうよ」 |
「なあにあれは枯れ葉のざわめきじゃ」 |
「おとーさんおとーさんそれそこに魔王のむすめが」 |
「ぼうやぼうやああそれは枯れた柳の幹じゃ」 |
「おとーさん!おとーさん!魔王がいまぼうやをつかんでつれてゆく」 |
「おいおおぞらかけ |
「わかったから!!(滑り込みつつ悲痛の叫び)」 |
(おいたわしや、的なジェスチャー) |
「(ゼイゼイと息を切らし)…いや、あのなあ?ここが要するに異世界だから助かってると思って好き放題やってんだろうけどさすがに節度ってもんをだな?」 |
(でも古典楽曲だからセーフかな、のジェスチャー) |
「そういう問題じゃないんだけど、正直ほんと信じられないんだよなー。 だって『魔王』だろ?自称なんだか他称なんだか知らねえけど、ケレン味なく名乗れるくらいの奴が出るってだけで一応身構えてんだけど…」 |
「ごたごた考えててもしょうがねえし、腹くくらねえとな。 俺たちだってやるときゃやるってこと、少しは見せたいもんだな」 |
遠くの魔王を見ている。 |
ぐねぐねと尾の先端を顔に寄せて見ている。 |
・・・。 |
視線に気が付く。 |
顔と手を小さく横に振る。 |
「(炎をまとった巨大な蛇を見上げている)」 |
「テリメーインからぁー、封ぅ印ーさーれたー」 |
「そのくやしーさは忘れはしないー」 |
「めーでたく目が覚め、目ぇーにつーいたー」 |
「世界をかならず、支配すーるぅー」 |
「おいおおぞらかける、攻撃のときはきた!」 |
「(ものすごくものすごく不本意そうな顔で)…ワァー」 |
(宇宙エンジン…と書きかけて様々な思いが去来した様子) |
(それ以上はいけない、のジェスチャー) |
「ってか、むしろ素で『わあ!?』だってのコンチクショーもずこ! おまえ今度という今度はなんというかこの際はっきりと言っておくというか…」 |
「第一な。冒険も大詰めだってのにお前のそのノリ結局変わらねえどころか酷くなってんじゃねえか。 まあおかげさんでこっちも深刻にならずに済んでるってのはあるんだけど…」 |
「正直信じられねえよな。魔王だぜ魔王。 ノリで名乗ってくれてる系の話のわかるヤツって感じならいいんだけど…ま、サリエルだのの例もあるし、期待薄かなあ?」 |
(がんばろうね、のジェスチャー) |
「伝説の武器なんてねえけど、だれかが倒しゃ、また新しく伝説が生まれるってだけだろうからな。 とりあえず一介のモブの魂、少しは役立ててくれよって思うぜ」 |
見ている。 |
仲間に視線を向け、ゆっくりと身体を浮き上がらせる。 |
何かの合図のように鐘を指でピンと弾く。 |
前でもなく後ろでもなく横に並び進むように促す。 |
「そんなわけで魔王討伐に成功してしまったらしい」 |
「だが会長代理のシュトレンとかいうのが襲ってきた!」 |
「シュトルムだっけ?」 |
「シュタインだったかも」 |
「ショコラはちがうと思う」 |
「ショゴスか!ショゴスだな!」 |
(てけり・り・てけり・り) |
「おいおおぞらかけ |
「(例の顔で)ヤダーーーーッ!!!」 |
「…ってかな?お前その世界観を壊す発言をほんとうに大概にしやがれというかクトゥるフはもういっぱいいっぱいだっての!」 |
(何が流行るかわかんないもんだねーのジェスチャー) |
「それはそうと、なんというか案の定厄介な黒幕が出てきたなー。 ま、予測はついてたけど、予想外があったとしたら探索者のほうも連中の想像以上にしっかり強くなってたってとこだろうな」 |
「ま、いいようにやられっぱなしってのも面白くないしな。 こうなったらとことん付き合ってやろうじゃねえか!」 |
泳ぎながらぐるりぐるりと回っている。 |
脱ぎ捨てるように傷を負った表皮が後方に剥がれ落ちている。 |
全身にボンヤリと光を纏っている。 |
「魔王討伐第一次攻撃は失敗に終わった」 |
「だが第二次攻撃の準備はすでに万全である!」 |
「ヘルメット点検ー」 |
「マスク装着ぅー」 |
「角材構えぇー」 |
「火炎瓶投げぇー」 |
「それからえーとえーと」 |
「おいおおぞらかける、ここに書いてある(自主規制)ってなんのことだ!?」 |
「こっちが聞きたいよ!!>自主規制」 |
「…まあなあ、正直シャレにならないよな。 たいていの場合魔王なんて呼び名、後から適当に付けられたりするもんだけど、」 |
「実際のところは誰が都合よく利用するかだけでしかないなら、 俺たちも居合わせちまった以上、何もしない訳にもいかないんだよな」 |
「でもなあもずこ、正直お前の作戦、ほんとうに大丈夫か? なんだって最後の最後で単なる正面突破しようなんて考えついたんだよ。そりゃあ確かにデバイス設置しときたいって言ったのは俺だけど…」 |
(それ以上はよくない、のジェスチャー) |
「ちょっと待て?!実働部隊の俺相当割り食ってないか!?この場合!?」 |
いつも買い物に引っ張っていた木箱の中には食料が少し入っているようだ。 |
大旅の取引で使っていたコインの残りを二人に分けて差し出すと、 そこに水着に引っかけていた古い金貨を一枚ずつ乗せる。 |
長い首をゆらゆらと横に振る。 |
くるりと身を翻し水の中へと潜る。 |
頭だけを出し、二人をじっと見ている。 |
「とどろくー雲はどとぅのー海に、ガンバとーなかまをころがした」 |
「これがーほらはじまーりだ、なにがあるーなにかある」 |
「なかまのぉむねは、高ぁーなった、ひかりはーそーこにーぃー」 |
「かもめはぁー歌ーぅ、かんきのー歌ーを」 |
「かじさきにあさひはかがやくぅー」 |
「そぉして、ゆうひはー、おまえとーなかまのー、しょうりをーいわうー」 |
「ありがとーございましたー!」 |
「…おまえなあ、こういう時すらそんなノリなのかよ…(頭を抱える)」 |
(沈黙中。でも若干困ったようにオロオロしている) |
「…まあ、再三言ってるけど明らかに最後くらいは『そっち』の歌にすべきだよなってのは正直俺も思うんだけどよ…ってそうじゃねえ」 |
(こくこくと頷いているように見える) |
「…気をとりなおして。と。なんというか、魔王ってのもなんとかできたし、調査って意味では海域の深奥部までたどり着いたわけだし。取り敢えずガンバった甲斐はあったよな」 |
「正直なんというか…成り行き任せにひたすら三人で必死で潜ってたって感じだったけど、なんだかんだですげえ楽しかったし、いい経験になったよ」 |
「特になんかその…3人だけで潜ってるつもりが、気がついたら他の皆で同じ場所にたどり着いてたってやつがさ。 なんて言ったらいいかわからないけど、すごく大事なことを学べたような気がするんだ」 |
「…こういうのって、なんか、すげえ、いいもんだなってさ。 妙な話だけど、すごく懐かしいものを思い出せたような気がするんだよ」 |
(思わしげにタコ足を揺らす) |
「…ここももうじき出てかなきゃなんないから、今のうちに言っておくけどさ。 もずこ、ゾーラ、本当にありがとうな。(そう言って深々と頭をさげる)」 |
「道が分かれても、目指す場所が同じなら、また巡り会うこともあるだろ。 その時はまた、一緒に旅しようぜ。すこしだけ成長した俺を見せてやるから、さ」 |
「…さあってと、じゃ、帰る前にひとつそのへん見て回ってくるかな!」 |