さくさくと、秋の木の下を歩きます。かわいた土と落ち葉の音がさくさくと、黄色い土の上にひびいていました。
秋の木の下を歩きます。それなら秋の木の上を歩くことだってできるでしょうか。秋の木の上を歩こうと思う、思ったときには、子供たちはもう木の上を歩いているに違いないのです。
「あそこなら、登れるんじゃない?」
「石垣から下りたほうが早いよ」
誘うのは、たいてい女の子からだったような気がします。大人が持っていない、子供には二本の手と二本の足がありましたから、四本も手と足があればどこだって歩いてしまうことができました。子供たちのいつもの山、幹が高く伸びているような木よりも、枝が横に広く広くひろがっているような木の方が登りやすいですし、それがたくさん入り組んでいたり、崖や坂道や塀に面しているような、そんな木であれば自由に動きまわることだってできるでしょう。
それに、低い木だったら落ちてもなんとかなるものですし。
子供たちはいつもは木の下で生きている生き物でしたけれど、木の上だって歩けますから、そのときは木の上で歩くことができる生き物になることができました。生き物がとおるのであればそこには獣道のような小さな道ができるものですし、子供たちのような大きな生き物でなくても、木の上に暮らしている生き物はたくさんいました。一度でも、木の上に登って歩いたことがあれば、そこには縄を何本もつないだような、網のような道が伸びていることを知っているでしょう。この季節なら、それは黄色くて茶色い道でした。
秋の木の上にある道。春や夏であれば葉っぱが日にすける青くて黒い道ですし、秋になって冬になればやはり色が変わりますが、その世界がどんな色をしていたって、そこに住んでいる生き物たちはその中に隠れてしまいます。秋の黄色い道にはときおり赤くて茶色い道がまじっていることもありますが、その中にだって生き物たちは隠れてしまいました。
「あった」
黄色い道の中には黄色い実。世界がどんな色をしていても、そこに住んでいる生き物たちはその中に隠れているのです。それは木の下ばかりを歩いていては、なかなか見つけることができないものでした。まして木の上を見上げることもないような人たちは、黄色い道にある黄色い実のことなんて知りもしないでしょう。
青い実がひとつ。
青いといってもそれは緑に似た青い色でした。木の上の道では、黄色の中に赤や茶色が混じっていてもそれはなかなか見つかりません。青い実だって、夏の緑にまぎれていればすっかり隠れてしまうでしょう。でもそれは、季節はずれの青い実でした。季節をはずれた色は時間をはずれた色のことですから、まわりに隠れることもできなくなってしまうのです。
それまで、黄色い道を歩いていた子供たちは青い実の前でかがみこむと、女の子はそれを指でつまんで取りあげました。季節はずれの、まだ落ちたばかりのたったひとつの青い実を、女の子は手の中でころころと転がして、小さな青い実は女の子をどんどん心配にしていきました。
「ねえ、どうしよう?」
女の子の質問に答えることは男の子たちにはできませんでしたが、そこにあったものはそのままそこにあるほうが良いにちがいありません。男の子は青い実を受け取ると、もとの黄色い道の上、木の皮のくずがつまった小さなすきまにそれを置きました。
それから何日もすぎた、木の上にある道。秋の黄色くて茶色い道は、少しずつ色が変わって灰色や黒がまじるようになってくるものです。その世界がどんな色をしていたって、そこに住んでいる生き物たちはその中に隠れてしまうものでした。それは木の下ばかりを歩いていては、なかなか見つけることができませんけれど、子供たちだったら見つけることができました。たとえ木の上の道であっても、子供たちは寄り道をするのが大好きですし、男の子たちも女の子も世界をよく見ることに忙しくてしかたがないのです。
では、それをもっとよく見てみたら。
もっと、もっとよく見てみましょう。
「芽が出てる」
実が落ちて、あるいは鳥や小さな生き物に食べられて、養分とともに地面に落ちたいくつかの実はやがて芽を出します。中には、実が落ちなくても芽を出すような珍しい木の実もあるかもしれません。あのとき男の子が青い実を置いてきた小さなすきまには、小さな頼りない芽が出ていました。まるで、木から木が生えているかのように。
親の木から生まれた実はその枝の上で芽を出して、そこに新しい木を生やそうとしていました。男の子はそういう接ぎ木を新芽にするような、珍しい木がたまにあることを知っていましたが、女の子が思ったのは別のことでした。
「木の芽が伸びて大きくなったら、木の上が木の下になるのかな」
そうしたら、木の上にもうひとつ木の上ができたときに、そこはどんな色をしているのでしょう。青い木の実の芽が大きくなったら、きっとそれを確かめないといけません。
それに、もしかしたら木の下にだってずっと木の下がつづいているかもしれませんから。
おしまい