石の土台と土壁と、かわらの屋根でできた大きな蔵には子供たちが知らないふしぎなものがたくさん隠されているものです。たいていは大人たちが使う工具の入った箱だったり、屋根にのぼるときのはしごだったり、ほこりをかぶった掛け軸だったり、なにかわからないものが入っている大きなかめだったりしますが、奥に入らないという約束つきで子供たちは蔵に入ってもいいことになっています。子供にとってこうした約束はとてもたいせつなものですから、こっそりそれを破ることはありません。なんといっても秘密や約束を守らないものには、宝のありかを教えることはできないのですから。
「おーい、なんか出てきたぞ」
男の子が見つけたのは、木箱の中につめこまれていたいくつかの玉でした。りんごくらいの大きさをした、手のひらに乗せるには少しばかり大きい、木の手ざわりがすべすべする丸い玉です。
手にもった玉はどこかおちつきがなくて、なんというか、おさまりのよくない玉でしたが、ためしに床に置いて転がしてみるとその理由はすぐに分かりました。玉はぐるぐると動いてまっすぐ転がろうとしないのです。平らな床の上で、どこかに曲がろうとしたりそこらをぐるぐるまわろうとしたり、ふらふらと右に左にいってしまいました。
「中に重りが入ってるんだ」
「ああ、なるほど」
そんなにむずかしいことでも不思議なことでもありません。木でできた玉の中には重りが入っていて、それが真ん中でなくてかたよったところに入っているから玉はまっすぐ転がらないのです。どうしてそんなものを作ったのか、子供たちには分かりませんでしたが、そんな玉が見つかったので子供たちの一日はたちまち玉を転がす一日に変わってしまいました。どのようにこの玉は使われるべきものなのか、その日からさっそく子供たちの「研究」がはじまりました。
「当たれーっ」
庭に立てられた空き缶を、玉を転がして倒すだけでもどこに曲がっていくか分からない玉ではなかなかたいへんなものです。重りのかたよったがわに玉が転がっていくのはすぐに分かりましたけれど、気の短い女の子が重りを前に向けてむりやりまっすぐ転がしてみても、玉はがたがたとかっこうわるく転がってからやっぱり右とか左に曲がってしまいます。
それでも男の子たちは慣れてくると、玉が曲がるのにあわせて横から空き缶を倒すことができるようになりました。右に転がした玉がぐるりとまわってから戻ってくるこの技を、子供たちはブーメランと名づけましたが女の子はこの名前がちょっと気に入らないみたいです。
「名前をつけたいなら自分でできないとだめだぞ」
男の子だって新しい技に自分で考えた名前をつけたいにきまっていますから、玉をなんども転がしては三回に一回、二回に一回と倒すことができるようになって、並べた前にある空き缶を倒さずに後ろの缶を倒すことができるようになったときにこの技の名前はブーメランに決まったのです。
男の子たちはブーメランを見せあっていましたけれど、女の子はいつまでも玉を転がすのがへたくそでどうしても空き缶を倒すことができません。もともと玉の中には重りが入っていて、まっすぐ進まないようになっているのですからふつうに転がすだけでもこの玉は曲がるようにできています。はっきりいって、女の子は力いっぱい玉を転がしすぎているようでした。
「だから転がしちゃえばいいんだって」
「いいの!これで」
でも女の子はわがままでがんこでしたから、男の子たちがいくらいっても聞かずに自分の好きなやりかたで玉を転がしています。投げたとたんに変な向きに曲がってしまう玉がさらに右に左にいってしまうのですから、これで空き缶に当てるなんてとてもできそうにありません。何日かして、さすがに男の子たちも玉を転がして遊ぶのにあきてしまうと蔵の中から別におもしろいものを探すようになりましたが、女の子はそれでも力いっぱい玉を転がしていました。
「できたー!」
それからもう何日かしてからのことです。思いきり腕をひっぱって、女の子は男の子たちを庭に連れていくといつものように空き缶を立ててから、見てろとばかりに思いきり玉を投げました。玉を横からもった奇妙な投げ方で、投げられた玉は左に大きく曲がりながらしばらく転がっていくと今度は向きを変えて、右に曲がってさらに転がると見事に空き缶を倒してみせたのです。
「やったあ!」
男の子たちがおどろいて見ている前で、新しい技を開発した女の子はこれを円盤と名づけます。今度こそ、女の子は自分の気に入った名前の技を使えるようになりました。
その後、男の子たちも新しい技にいろいろ挑戦することになりますが、円盤をうまく使えるのはいつまでも女の子がいちばんでした。
いまでもいちばんのままです。
おしまい