ひなたで過ごす


 時は文化祭より遡り、平成13年11月3日から4日にかけて、剣道の長野県高校総体新人大会が茅野市運動公園体育館で行われました。今回はそれに前後してのお話となります。
 秋空がはっきりと冬空に変わりつつある長野の一日、古坂町にある私立樫宮学園高等学校、校庭のトラックでは久々に陸上部の風景。トレーニングウェア姿の学生たちがそれぞれの練習に励んでいる中、しなやかな身体を伸ばして念入りに柔軟運動を行っていた松本ひなたは、視界に入ったおとなしげな制服姿の少女を見つけると声をかけました。

「あれー?氷雨今日は生徒会はいいの?」
「会計処理は終わりましたから大丈夫ですわ。定例会も明日ですし」

 軽く人差し指を立てて答える氷雨。学業においては一年生トップクラス、生徒会会計の大役を預かってもいる才女は寮に帰っても今日はすることがないからと、ひなたの練習を見学に来ていました。試験明けで慌てて勉強をする理由もありませんでしたし、何より部屋に帰ったところで同室の松本ひなたという少女は陸上部でしばらく走りまわっているはずでしたから。

「じゃあ今日は時間短いから見てきなよ。後で一緒に帰ろ」

 そう言うと友人を近くのベンチに案内して、ひなたはトラックに戻っていきました。涼しさが寒さに変わっている季節、ベンチに腰掛けるとバッグからひざ掛けと暖かい珈琲の入ったポットを取り出した氷雨も最初から見学していくつもりだったのは間違いありません。途中だった柔軟運動を再開すると、しばらくしてから本格的な練習に入ります。

(そういえばそろそろ剣道部の大会ですわね)

 珈琲をすすりながら、ふと思う氷雨。今ごろ体育館に隣接して設けられている剣道場では、大会前の厳しい練習が行われている筈でした。陸上部の県大会は9月で終了し、女子走り高跳びの北城瞳を除いては皆優勝には手が届きませんでしたが、次の大会に向けての練習はとっくに再開されていました。
 ひなたが星野瑞季にトレーニングパートナーを頼むようになったのはその県大会が終わってからのことです。一人での練習に限界を感じたかもしれないこと、幼なじみの瑞季が自分の長所も欠点もよく知っていること、そして何よりこの少年の持っている「男子陸上」の記録が常にひなたにとっての目標であったことがその理由でした。男女での陸上の記録差では、短距離専門の瑞季が持っている400m走の記録でさえ、中距離専門のひなたに勝るのです。

「瑞季、久しぶりに走ってみない?」
「ん?ああ、いいよ」

 氷雨の耳にひなたたちの声が流れてきました。負けず嫌いな少女はその日の練習を瑞季との対決で締めくくるつもりのようで、その瑞季も返り討ちにしてやると言わんばかりに自信のある表情を見せています。ひなたの練習を一緒に見つつ自分の練習も行っているというのに、前を走り続ける義務を自らに課していた少年には辛そうな素振りはまるで見えませんでした。スタートラインのある場所に向かおうと自分の前を通ったひなたに氷雨が声を掛けると、呼び止めて話しかけます。

「ひなたさん、ちょっとだけいいですか?」

 やや気勢をそがれたような顔になるひなた。この後の予定の話でもあるのか、短い会話を済ませるとトラックに戻るひなたに準備のできた瑞季が声を掛けます。

「何話してたんだ?」
「…別に。このあと剣道部の練習見てこうって」

 なにやら不自然な返答。瑞季がそれに気付いたのも幼なじみだからこそでしょうが、敢えて気にせずにスタートラインに構えると精神を集中します。隣りにならうように構えるひなた。一拍置いて、部員が手を叩く音でスタート。
 合図と同時にいつものように最高速度でダッシュをかけるひなたにぴったりと追走する瑞季、でしたが明かにスピードを抑えているひなたに僅かつられてペースを乱しかけます。恐らく先程氷雨に何か言われたのに違いありませんが、ペースが遅くるのはスタミナが温存できるぶんだけ短距離型の瑞季には願ったりの展開でした。そう思っていた瑞季とひなたがちょうど氷雨の前を通過しようとした頃、

 ぱんっ

 と氷雨が手を叩いた音に合わせて一気に最高速までスピードを上げるひなた。慌てて追走する瑞季でしたが、本来短距離レースでは少ない急激なペースの変化にかえって体力を消耗したぶんだけ追いつかず、勝利を譲ることになりました。

「…勝ったぁ!」
「やられたっ…」

 派手なガッツポーズを取るひなたに悔しがる瑞季。トレーニングパートナー役がこんな作戦に見事にひっかかってしまうようでは、という思いがそれにはあったかもしれません。ペース配分によるかけひきは中距離以上のレースでは常識でしたが、かけひきよりも全力を出し切って走ることが好きな勝者にとっても多少ひっかかるところはあるようでした。クールダウンをしてから氷雨のところに歩いてきたひなたの顔は、多少不本意なところがあるようにも見えます。穏やかな表情のまま、声をかけたのは氷雨の方からでした。

「…かけひきは嫌いですか?」
「うーん。嫌い、じゃないけどやっぱ苦手かなあ」

 最高速度で逃げて最初から最後までスピードを落とさずに逃げ切るのがひなたの戦法。昔そんな走りで大レースを圧勝しながら、そのまま故障により引退していった競走馬がいたことを氷雨は思い出さなくもありませんでしたが、ひなたが言葉を選んでいるのもまた明らかでした。
 苦手なことをやるのが練習だ、とは誰かの言葉でしたがその苦手なかけひきで負けることの多いひなたの弱点を克服させるのは、本来パートナーである瑞季の役目の一つだったでしょう。実際にひなた自身がペースメーカーになって後続の選手の記録を引き出していたりすることさえある事を思うと、「競い合った結果勝つ」ことを最上のよろこびとする快速娘の手綱をにぎるのは並大抵のことではありませんが必要不可欠なことでした。

 競うことと勝つことと、どちらがより優先されるべきか。欲張りな人間というのは向上心が高い人間でもあるということですから、ひなたらしいひなたを望みながら手を貸そうとする瑞季と氷雨もまた欲張りな人間だったのかもしれません。

「とりあえず汗を拭いた方がいいですよ。そうしたら剣道場に行きましょう」


 体育館横に設けられている剣道場。敷地に余裕のある学園ならではですが、そこには大会を間近にひかえて練習する剣道部の姿がありました。直前の追い込みともなれば無理して怪我をせずに疲労の残らない程度の練習、というのが相場ですがだからといってそれは練習が楽になるという意味ではありませんでした。
 邪魔にならないように静かに剣道場に入ると、見学のできる隅っこに座るひなたと氷雨、瑞季の三人。道着に身を固めて、ものすごくゆっくりとした素振りを繰り返していた不来方青葉がそれに気付くと、いったん練習を抜けて挨拶にきました。

「お疲れーひなたん」
「あ。青葉、調子はどう?」
「まーかせて」

 薄い胸をはって答える青葉。一年生ながら女子団体戦で大将に抜擢された青葉はもともと幼いころから剣道をやっていて、中学時代には東京都大会準優勝の実績を残していました。生来身体が弱いこともあって当初はマネージャとして入部していましたが、そのこと自体彼女が剣道から離れられなかったという証拠でもあったのでしょう。
 すぐに練習にもどると青葉はゆっくり、ゆっくりと正確な型をくりかえします。負担や疲労が少ない代わりに正確な型をひたすらつづけるということはとても大変で、普段からは想像もできない自然で真剣な表情で素振りを繰り返していました。黙っていれば美少女、とまで酷評(たぶん酷評に部類する)される彼女が普段からこんな表情をしていれば、決して男女関係に幸薄いということはなかったでしょうにと思えてもきます。

「だから薄い薄いって言うなー」

 一人薄い中でも気合いのこもった練習がしばらく続き、本来寒いはずの館内は熱気が心地よいほどに感じられます。女子の剣道部員は決して多いわけではなく、当初は5人枠の団体戦に出るメンバーを揃えるのが一苦労、と実状がなければあるいはマネージャであった青葉の経歴が知られることはなかったかもしれません。
 正式入部しているとはいえ、そうやって発掘された助っ人は必ずしも剣道の経験があるとはかぎりませんでした。二年生の守野歳は今はめずらしい実戦系剣術の家で育ち、三年生の緋走霞澄はやはり古武術の経験がありましたが武器を握っての試合は専門外でした。

「それじゃあ恒例の5分一本ずつ勝負やりまっせー」

 近衛刀真のよくとおる声が館内に響きます。次期主将として信頼される実力を持つ一方で、武道を為す者としては少々型にはまらないところがあったかもしれません。

 5分一本ずつ勝負。近衛考案の特殊ルールで、最初の5分間は片方が一方的に攻撃、次の5分間はもう片方が一方的に攻撃。ただし攻撃を受ける側は5分の間に一回だけ反撃が認められるというルールでした。防御とカウンターの技術を磨くための練習で、特に剣道そのものの経験が少ない歳や霞澄の弱点を鍛えるのが目的となっていました。実際、このルールでは歳も霞澄も青葉にはほとんど適わず、防御側では5分間攻撃を防ぎきれず、攻撃側では隙をつかれて反撃の一本を取られてしまうのが常だったのです。
 実戦系剣術出身の歳に武術の経験がある霞澄、両者は集団戦や攻撃の技術が特化していましたが、カウンターの概念がある競技では攻撃は決して最大の防御ではありません。近代ボクシングや剣道では特に防御こそが最大の防御であり、地道な研究で得られる予測と地道な練習で得られる捌きから流れる正確で効率的な反応速度が剣の道でした。
 おんなじ型をただひたすらくりかえしくりかえし、くりかえし続けることで身に付けることができる技術。青葉は最近さぼっていた分だけ取り戻さないといけませんし、歳や霞澄はこれまで剣術や武術という別の競技に携わっていた分だけより剣道に慣れることと自分の技術を活かすこととを探さなければいけませんでした。

 そして、大会の日がやってきます。


 茅野市運動公園体育館、長野県高校総体新人大会当日。既に剣道着に身を包んだ学生たちが館内を占拠している中、応援におとずれていたひなたたちは探していた人影を見つけると声をかけました。

「遅いー、何やってたんだー」

 青葉の声が館内に響きます。個人戦は翌日、男子団体の一回戦はすでに始まっており、樫宮学園剣道部は順調な勝利をおさめたとの事でした。大将の近衛の実力が頭一つ抜けており、今年はいいところまで狙えるのではないかとのこと。間合いと読みで戦うその戦法は自信と経験とから成るものであり、相手の攻撃に反撃を「置いておく」ことが必殺になっていました。
 剣道部男子は女子に比べて人員不足に悩むということもなく、幾人か従えた補欠に雑事を任せておいて次の試合のために充分な休息をする余裕もありました。反面、補欠の中の一人である中野等などは性格がらマネージャ兼任のようにもなっていて、じきにはじまる女子団体戦に備えても手拭いやらの用意に余念がありません。もと素人で剣道をはじめたばかりの初心者が団体戦で出番のある筈もなく、翌日の個人戦が大会デビューとなります。

「中野先輩はいい筋してますよー。ボクにはまだまだまだまだまだまだまだまだ及びませんけどねー」

 えらそうに論評する青葉でしたが、その言葉は事実と真実の双方をとらえていました。中肉中背で性格は小動物的、外見的にも能力的にも取り柄のないとされる等が漫画のような必殺技をもって活躍できるほど世の中は甘くありません。本来は素人であり、むろんいまだ初心者でしかない等が入部してから練習できた型はせいぜい一つくらいのもので、ただひたすらそれだけを練習していました。そして凡人の等が行った平凡な練習といえば、まだそれしか教わっていない基本的な一つの型をとにかくただひたすら身につけたことだったのです。
 弱い等はひたすら相手の弱点を研究して、勝つことだけに専念する。翌日の試合、彼は相手の攻撃をとにかく防ぎつづけ、ただ一つの型を使うことができる状況を辛抱強く待つことに決めていました。というより彼はそれ以外に選択肢が選べるほどの技術をもっていない、というのが実状だったのですが、あるいは弱い人間こそが自分の弱さを補って最も強く成りうることのそれは証明かもしれません。
 ここで等の活躍をあえて語ることはありませんが、翌日の個人戦で一回戦を突破、もちろん初心者がそう簡単にいつまでも勝てるほど世の中は甘くなくてやがて涙を飲むことにはなるんですが、相手を竹刀で思いきり打つことの快感も含めて勝負に勝つことの喜びを知ることができたということが、彼にとって最大の収穫だったのでしょう。

「勝つことって楽しいかもしれないな…」


 幕間の話は置いて。いよいよ女子団体戦、樫宮学園女子剣道部は人員不足を感じさせない強さを見せて好成績を残していました。霞澄は試合がはじまると同時に最速の突進で懐に飛び込み、密着状態から相手が引いた瞬間に一撃を狙う。自分が剣道の間合いに持ち込まれると不利になることを知っている彼女は、徒手空拳の間合いから競り合うことでその不利を補うことを考えていました。それは明らかに剣道の戦い方ではありませんでしたが、間違いなく霞澄の戦い方ではあったのです。

「…自分の武術が剣道でどれだけ通用するか試したい、という考えがあるのは認める」

 そう語っていた霞澄の戦法は奇襲からそのまま押し切る策で持続性には欠けていましたし、何より相手に見切られて飛び込みを狙われると危険極まる作戦でした。実戦向けの武術が即ち強いという方程式が成立しないことを彼女は知っていましたし、むしろ剣道のように競技として専門化された技術が他の格闘技の追随を許さないほど洗練され、進化する例の方が多いことも心得ていました。それこそボクシングのパンチ技術の前ではキックボクシングのパンチ技術は児戯にも等しく、ボクサーにパンチ勝負を挑まないことがキックボクサーの戦い方だったのです。

 一方でやはり実戦系剣術の出身であった歳は相手の初動にあわせて反応し、僅かに正面から軸をずらして避けながら交叉する一撃を振り下ろすという戦法をとっていました。

「相手の挙動する隙を突ければ…」

 相手に向かって踏み込みながら避ける。恐れのない無心の技は最速のスピードで敵を打つことができましたが、強引な攻めやフェイントに対して受けに回るともろさを見せることになります。歳の剣の実力は随一のものでしたが、実力以外のかけひきで勝敗が決することが珍しくないということは、何も剣道や陸上に限ったことではありませんでした。それは会場の一角に陣取って応援しているひなたたちにとっては他人事ではなく、樫宮学園女子剣道部チームがもっている強さと同等の危うさが伝わってきていました。

「あおばー、がんばってー」
「勝てる勝てるーっ」

 そして応援に後押しされて、ひさびさの試合場にあがった青葉は傍目にはまるで緊張しているように見えませんでした。彼女が生来身体が弱いことを知っている部員たちや、普段の軽さを知っている友人たちには不安が尽きませんでしたが、一礼して試合がはじまり、青葉が竹刀を振り下ろした次の瞬間には主審の手があがっていました。

「…一本、それまで!」

 誰もがあっけにとられている中あまりに普段どおりのあまりに自然な動きで、簡単に試合を決めてしまった天才は礼をすると驚きと喜びにつつまれている仲間のところへ戻ってきました。早々に初戦突破、次の試合が始まるまでの短い休憩に入ります。

「…すっごい。青葉強かったんだね」
「ありがとー。でもさっきは向こうの突きが隙だらけでしたからー」
「え?突きなんてしてた?」
「しようとしてましたよー」

 青葉の天才は基本にして完璧な型。百回打った面打ちを百回とも同じ速度で同じ軌跡を辿らせることができ、そして型から外れた技に必ず存在する隙を決して逃さない能力が彼女の真骨頂でした。好きだからこそ続けていた長い鍛錬によって自分の無駄な動きをなくし、相手の無駄な動きを誘うことでより確実に勝つことが青葉の剣の道だったのです。

「んーと。見てると動く寸前って予兆があるんですよー。人によってちがうけど呼吸を止めたりとか道着の裾が揺れたりとか足の親指が上がったりとかー」
「いや、青葉はんの型は読めないところが一番恐ろしいんですわ。私でさえ練習で何本か取られたくらいですからな」
「あ、せんぱーい。勝ちましたー」
「ちゃんと見てましたわ。ごくろーさん」

 友人に迎えられて上機嫌の青葉がひなたたちに話しているところに、他の部員を連れて近衛もやってきました。祝福のことばをかけた後、次に向けて気を引き締めるよう伝えるあたりは次期部長らしいところだったでしょう。

 完璧な型には予兆が存在しない、それが剣道の神髄でした。練習の打ち込みでも霞澄の動きには青葉に読まれる隙が存在し、歳は青葉の初動が読めずに反応することができない。予測に優れるはずの近衛ですら一本取られた実力は、青葉が磨き続けてきた剣の腕がいまだ錆びついていないということだったでしょう。ですが県大会とはいえ、女子剣道団体戦の参加校の数は決して多くはなく、それは同時に質が高い少数であるということを意味していましたから、付け焼き刃の樫宮学園女子チームではやはりやがて限界がおとずれることになります。
 その日、青葉が最後に登場した試合ではすでにチームの勝敗が決していましたが、彼女にとってはそれはさほどたいしたことではありませんでした。日没の早い季節に傾きかけた日差しがわずかに差し込む会場、控えている仲間たちと観客席にいる友人たちをちらりとを見ると、最高の消化試合に挑むために定位置に向かいます。

(ひなたん、みんな…先輩、見ててね)

 最後に一瞬浮かんだ顔を脳裏から振り払うと、いつものように心を真っ白にした青葉は竹刀を構えました。

(とっときの秘技つばめがえし、の亜流)

 構えから一礼、始めの声に間合いを近づけるとゆっくりとした剣筋の一撃。

 相手に反応させて反撃を誘った次の一瞬、
 神速の一撃。

「一本、それまで!」

 翌日の個人戦には出場しない不来方青葉の長野県高校総体新人大会は試合時間合計にしてほんの数十秒、館内を覆うどよめきと歓声の中で幕を閉じました。


 ひさびさの試合でさすがに疲れたのか、心地よい疲労以上にぐったりした青葉を介抱するように集まる部員や友人たち。これが彼女が翌日の個人戦に参加できない理由でしたが、自分をかこんでいるみんなの存在が今日の団体戦に出場した理由でもありました。

「青葉、大丈夫?」
「うーん。体育祭でいーもん見せてもらったお返しにー」

 多少はりきりすぎてしまった青葉のまわりを、あきらめきれなかった剣道にもう一度誘ってくれたみんなとそれを応援してくれたみんなが取り囲んでいました。そしてそれにこたえるための青葉の義務は勝つことと競うことというよりも、剣道を思いっきり楽しむことにこそあったのです。

「いやー。ボクやっぱり剣道が好きみたいですー」

 普段の軽さとにぎやかさからは想像もつかない、静かでおだやかな寝息をたてる前に言っていたそのひとことが、その日の青葉の収穫でした。

 競うことと勝つことと、それから好きなことと。

おしまい


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