第一回
平成8年12月20日。聖林檎楽園学園…もとい聖ルーメス学園の廊下にて。とある一室の前に立っている二人の少年。
「ゴガツクラブ…ここだね」
「さつきくらぶって読むんだと思うけど」
気の弱そうな黒髪の少年に言われて、ちょっとむっとした表情になる気の強そうな金髪の少年。
「僕はまだ日本語は苦手なんだよっ。じゃあ薫、この『喫茶去』って何て読むんだ?」
「…わかんない」
薫と呼ばれた少年の言葉に勝ち誇った顔になる金髪の少年。二人とも違う意味で子供っぽいところが見えます。二人の目の前でスッと扉が開くと長身の女性があらわれました。
「なんだー、誰かいると思ったら薫くんとカイルじゃない」
「あっ。志麻さんこんにちは。お久しぶりです」
「こんにちは、シマシマ。お久し…」
言い終えないうちにカイルのほっぺたが左右に広げられます。こめかみに血管を浮かべて志麻。
「あいかわらずそういう事を言うのはこの口かなー?」
「ひててててっ!くひがまがうだろヒマっ」
「あんたの口の悪さは少しくらい曲がった方が直るかもしれないわよっ」
思いっきり引っ張るようにして手を離す志麻。となりの薫の方が痛そうな顔をしています。
「薫くんよく来てくれたわね。紹介したげるから中入っていいわよ」
「ひどいなシマ。僕は案内してくれないんですか?」
ほっぺたをさすりながらカイル。
「ちゃんとあいさつもできない奴は入れてなんかあげない」
「ちぇっ…こんにちはシマ、お久しぶりです」
「あんた…なんでカタカナで名前を呼ぶの?」
「オオウ、ボクニポンキタバカリデウマクシャベレマセーン」
「…またほっぺた引っ張られたい?」
薫の後ろに隠れるカイル。志麻も半分あきれて二人を中に招きいれます。
◇
「おじゃましまーす」
志麻に連れられて部室に入る二人。入り際に薫がドアのレールでいきなりつまづいて転びそうになります。すかさずパシャッと光るフラッシュの音。
「はーい合格ー」
そう言ってポケットカメラを下ろす少女。
「えっ?えーと…」
「入って早々シャッターチャンスを作ってくれるなんて上出来よ♪ボケがお約束なのは大目に見てあげる」
「いえ、ぼくはその…」
「あ。あたし明石カンナ。よろしくね」
「どうも…田中薫です。こちらの部の方ですか?」
「やーねえ、あたしまだ中3よ。来年入学するの」
「じゃあ同い年なんですね」
それにしてはずいぶんなじんでるような気が…。薫もカイルも心の中でそう思いました。志麻が二人を紹介します。
「みんなー。この子たちは田中薫くんとカイル・グリングラスくんて言うの。私の知り合いなんだけど、来年ここに入学するって言うんで、よろしくね」
「「よろしくお願いしまーす」」
あいさつする二人。その前に学生服を着た真面目そうな人があらわれました。
「よく来てくれたね。今日はちょうどクリスマスパーティーだし、気楽にしてくれてかまわないからね」
「ありがとうございます…部長さんですか?」
「いや、オレは飛鳥洋、ここの副部長だ。部長はまだ来ていないみたいだな」
「あ、そうなんですか。すみません」
「別にあやまるような事じゃない。それより君は真面目そうだから…気をつけるんだよ」
「え?」
首を傾げる薫。
「あまりここの空気に染まってしまわないように…うわっ」
そう言いかけた飛鳥を押しのけるよにあらわれたのは、扇子を持った軽そうな青年。
「おおっ、見学に来た子だねっ。私がここの部長の東郷真澄だ。さあさあさっそく入ってくれたまえ。それからなにか芸は持っているのかな?なーに持っていなければこれから身につければいいだけの話さ。まずは我々が手本を見せてあげようじゃないか…おーいみんなーっ」
「こ、こらーっ!!純真な少年を悪の道に引き込むんじゃないっ!!」
追いかける飛鳥をカンナが押さえます。ここでは飛鳥は少数派のよう。
「いえっ。あの、ぼくたちは…」
「ちょっ、ちょっといったい…」
「いいからいいから。さあ早くこっちに」
こうして部室に引きずり込まれる二人。
このあと薫くんが後悔したか、カイルくんが後悔したか、二人を呼んだ志麻さんが後悔したか。
それは本人たちにしかわかりません。きっと。
おしまい
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