第三回



☆Act0.開演前の舞台裏

「ぼくの名前は田中薫なんですっ」

 あ。薫くんが怒ってる。ごめんなさいごめんなさい。前回、よりにもよって薫くんの名字をまちがえてしまうなんて。でもほらいつも「薫くん」って呼んでるし、あんまりわたしキャラの名字って気にしないほうだから。前に別のゲームで使ってたキャラの名前がつい出てきちゃって…。

「ほんとに反省してるんですか?ぜんぜん誠意が見えないぞ」

 うわっカイルまで。反省してますっほんとごめんなさい。もうしないから許して。ね?ああっ薫くん泣かないで。このとおりあやまるから。わあっカイル暴力反対っ!!

…カイルも薫くんのことだと意外とむきになるからなあ。とりあえずなんとか謝って許してもらいました。はあ。大チョンボです。で、あらためておわびと訂正です。前回第二回で田中薫くんの名前を磯村薫くんと書いてしまいました。ここに訂正させていただきます。またご関係の方々にご迷惑をおかけした事を深くおわびさせていただきます。まことに申し訳ありませんでした。

それでは気をとりなおして本編をお楽しみ下さい。


☆Act1.ようやく幕が上がります

「…薫、やっぱりぶん殴っておいたほうが良かったか?」
「…ううん別にもういいよ。心配させてごめんねカイル」

 平成9年2月20日。聖林檎楽園学園もとい聖ルーメス学園の廊下。田中薫くんとカイル・グリングラスくんが歩いています。

 田中薫くんです。
 田中薫くんなんです。
 田中薫くんなんですってば。
 磯村薫くんじゃないんです。

「…わかりました。いいかげんしつこいです」
「…もういいですから」

そうですね。


 で、ここは聖ルーメス学園、五月倶楽部の部室。部室にはいつものメンバーたちと、制服を着た新入生たちが集まっています。受験も合格発表もすっかり終わり、いつもは騒がしい学園にも平穏で空虚な雰囲気が…

「ある訳ないでしょ。期末試験真っ最中だってゆーのに」

 そうでした志麻さん、忘れてました。卒業待ちの三年生はともかく、一年生と二年生は試験期間真っ最中のはずです。真っ最中のはずなんですけど…東郷真澄さん、飛鳥洋さん、秋野志麻さん。なんでみなさんこんな所にいらっしゃるんですか?

「せっかく新入生が来るっていうんだから、少しくらいは顔出すわよ」
「まったくその通りである。前途有望な若者たちに学園の何たるかをいろいろ教えねばならないからな」
「新入生に余計な事を吹き込むんじゃないぞ。どうも監視していないと心配だ」

 人それぞれの理由があるようです。

 がらがらと部室の扉が開いて、薫とカイルが中に入ってきました。それを見てすかさず志麻があいさつします。

「あら薫くんにバカイル、こんにちは」
「やあトシマじゃありませんか、こんにちは」

 ばちばちばちばちばちっ。
 一瞬殺意をこめたにらみあい。思わず薫はあとずさりしました。


☆Act2.上手から新入生たちの登場

 速波水生。シーファリー・ミックス。天野健一。明石カンナ。それから薫とカイルの六人。どうやらめでたく試験も合格、入学も決まって今日はおひろめで聖ルーメス学園の制服を着ています…ですよね?合格していていいんですよね?

 まだ新しいぴかぴかの制服。「着る人を選ぶ」とまことしやかに言われている聖ルーメス学園の制服ですが、どうやら六人ともそれぞれに似合っているようです。ちょっと悔しそうな顔をしているのは志麻。

「どうかしたんですか志麻さん?」
「なんでもないわよ水生。ただ私はその制服似合わないからうらやましいなーと思っただけ」

 すかさずカイルが言います。

「そんなことありませんよ。シマって男子の制服なんかすごく似合いそうじゃありませんか」
「よけーなお世話よっ」

 そりゃあ事実だけどね。とりあえずカイルをぶん殴りながら志麻はそう思っていました。


 ぞろぞろぞろ。校舎の中をぞろぞろと歩く部員たち三人&新入生六人。せっかくだからと、東郷真澄が学園の中を案内してまわっています。

「…ここが便所である。こっちは男子便所であるから水生やカンナは使ってはいかんぞ」
「何つまんない説明してんのよっ」

 志麻がバトンタッチします。

「ここは手芸部の部室よ。私は五月倶楽部の部室にいないときはここにいる事が多いから。ちょうど隣が演劇部にもなってるのよね♪」
「何がちょうどなんだ。自分の趣味で新入生を案内するんじゃない」

 飛鳥がバトンタッチします。

「この裏が剣道部の道場で毎朝オレはここで素振りを…」
「…ヒロちゃん人のこと言えないよ。もういい、あたしが案内したげるから」

 カンナがバトンタッチ…え?カンナはすでに校舎の中詳しいみたいですね。みんなをてきぱきと案内してまわっています。

「ここが学食。あんまりおいしくないから、いそいでる時以外はパスしたほうがいいわね。特にうどんなんかはもう最悪よお。購買なら正面玄関のところより、裏の第二玄関のところの方がすいてるの。あたしのおすすめはコロッケパンとコーヒー牛乳ね」
「カンナさん…ほんとに新入生なんですか?」

 あまりに詳しいカンナに感心して水生。

「…それからここが生徒会室よ。うちは予算もらってないけど、だからって生徒会を敵にまわすと他の部からの風当たりがきつくなるからほどほどにね。まちがってもわざわざ生徒会室の前まで行って嫌がらせにコーラ飲んでげっぷしたりウクレレを引き鳴らしたり爪立ててガラスを引っ掻いたりあまつさえ爆竹を投げ付けたりなんてしたらだめだからね」
「…カンナ、なんでそんな事まで知ってるのだ?」

 思わず問い返す真澄。

「えーっ部長ほんとにそんな事やったんですか!?てきとーに言っただけなのに」

 おいおい。


☆Act3.第三幕、場面は部室に戻って

「よーしそれではいよいよ今回のメインイベント、新入生歓迎&解禁記念ゲーム大会もちろんトトカルチョつきだーっ!!」

 どんどんどんぱふぱふぱふっ。どこからか花火とラッパの音が聞こえてきます。

「でも解禁記念ってわりには前回もゲームしてたような気がしますけど」
「…薫。またそういう細かいことを気にするんだから」

 そうですよ薫くん。あんまり細かいこと気にしてたらお話なんか書けないじゃありませんか。

「VF2無制限一本勝負、トーナメントにしたいから悪いがカイルとシーファリーは今回は遠慮してもらうぞ。もちろん魔法で援護するのもなしだ」
「べつにいーわよ。私プレステ派だし」
「じゃあカイルも魔法使っちゃだめだね」

 カイルに向かって薫。あわててカイルがその口をふさごうとします。

「莫迦、余計な事言うんじゃない薫っ」
「ん?カイルは確か召喚師じゃなかったのか」

 入学前の名簿を見た事を問い返す真澄。薫が答えます。

「こないだルーメス・キングダム出身に設定変更したんです。『幸運』の魔法が使いたかったから」
「それではカイル、薫に援護するのは禁止だぞ。賭事は公正にやらなくてはな」
「…言わなきゃわからなかったのに」

 薫のほうを見ながらカイル。薫くんにそういう融通をもとめても無駄だと思います。


「…よーしこれでみんな出そろったな、なんだ一番人気は水生とカンナか」
「あは。光栄です」
「当然よねー」

 真澄が予想順位を発表しています。

「三番人気が薫…健一が一番人気薄だな」
「えーっ、そうなのか?」

 不満そうな健一。カンナが答えて言います。

「こないだ水生強かったもん。健一負けてたでしょ?」
「そーゆー事言うならカンナ、お前だって水生に負けてたじゃないか」
「でも健一には勝ったじゃない。だからその時の順位なんだって」

 口ではカンナにかなわない健一。それでも言い返します。

「じゃあ薫より人気薄なのは?」
「薫くんゲームしてるとこ見たことないもん…未知数の人気ってやつよ。つまり健一には『弱い』ってイメージがあるってことね」
「う…よーしそれなら見てろよ、みんな俺に賭けなかった事を後悔させてやるぜっ」

 意気のあがる健一。そんな中で水生がなにやらきょろきょろとあたりを見まわしています。その様子に気づいてシーファリーが聞きました。

「水生?どうしたの」
「あの、さっきから誰かいないなーと思ってたんですけど…飛鳥先輩どこ行ったんでしょう」
「なんだ飛鳥ならほれ、あそこに転がっているぞ」

 答えたのは真澄でした。指差す先、部室の隅にはすまきにされてもがいている飛鳥が転がっています。

「な…なにをしてるんですかっ」
「見てのとおりすまきにして転がしているのだ。これから賭事をするというのに飛鳥がいてはうるさくて仕方ないからな」
「あの…もしかして今回飛鳥先輩の出番これだけなんですか?」
「そのとおり、今回はこれだけである」

 だそうです。


第一試合 速波(ラウ)水生VS天野(アキラ)健一

「ぬわ〜っはっはっはっはっ!」
「…やっぱり水生ゲームしてる時性格替わってるよね」

 襲いかかる水生の掌底ラッシュ。健一の肘打ちは単発で後が続きません。投げにも行けないままどんどん追い込まれていきます。水生の上段蹴りが炸裂!!…する寸前健一がとっさの返し技、棒立ちの水生。一気に逆転を狙う健一!

「くらえっ!!」
「おおっ崩撃雲身双虎掌かっ!?」

 健一の攻撃…無難に肘で押し出してリングアウト勝ち。一斉にブーイングがあがります。

「いいじゃないか、連続技だって出すのは難しいんだぞ」
「ええいっ健一、それでプロとして恥ずかしいとは思わんのかっ!」

 いやプロじゃありませんけどね。

第二試合 田中(ジャッキー)薫VS明石(瞬帝)カンナ

「行きますっ」
「どっからでも来なさいっ」

 先手をきって薫の接近戦。上下のパンチからサマーソルトキック!ダウンしたカンナですが薫は追撃せず、起き上がりに合わせてもう一度接近戦。すかさず回避するカンナ。薫を投げるとお酒を飲んでパワーアップ。

「ああっお酒飲まれたっ」
「さあー反撃よっ」

 避け攻撃でペースをつかんだカンナ。接戦の末でしたがなんとか薫をKOしました。

「お主がいくらあがいてもワシには勝てんのだっ」
「There's no way to stop here…」

 これでカンナが決勝進出。でも薫もけっこうこういうゲームは好きだったようです。

決勝戦 天野(アキラ)健一VS明石(瞬帝)カンナ

 カンナを後押しする声援が多い中スタート。カンナに賭けてる人が多いんだから当然ですね。声援に後押しされるようにカンナがいきなりの奇襲攻撃、お酒を飲んでパワーアップします。健一も中段蹴りを返し技に取り返して反撃しますが、けっきょく後が続かずにカンナがKO勝ちしました。


「…結局カンナの優勝か。まあしかたないな」

 真澄は水生に賭けてたらしく不満そうです。戦い終えた四人には厚い友情が芽生えて…

「健一さんあんな勝ち方するなんて。見そこないました」
「ほーんと。せっかく水生に賭けてたのに」
「水生…シーファリーもそんな言いかたないだろー」

 そうでもないようです。その隣でさすがに機嫌がいいのはカンナ。

「へっへー。自分に賭けてるとやっぱ気合が違うわねっ」
「あー薫っ、お前自分でなくてカンナに賭けてたのかっ」

 薫に賭けてたカイルがあきれたように言います。

「えー、だってカンナさん強そうだったし…」
「あ…でも私もカンナさんに賭けちゃいました」

 水生も答えます。たんに性格がら自分に賭けられなかっただけでしょうけど。


☆Act4.ここで突然舞台が暗転、クライマックスへ

「ぬっ。殺気」

 ゴゴゴゴゴゴゴゴ…

 突然真澄が言うと、みんなの背後からせまってくる殺気。恐る恐る振り向くと、すまき状態から脱出した飛鳥がものすごい形相で立っていました。あまりの恐ろしさに薫や水生なんかは今にもきゃあきゃあ叫んで逃げ出しそうです。飛鳥に立ちはだかるように真澄が向かい合いました。

「何だ飛鳥、今回はもうお前の出番は終わったはずではないか。往生際の悪い奴だ」
「やっ…やかましいっ!!もう許さん真澄、今度は俺がお前をすまきにしてやるっ!!」
「ふっ…どうやらとうとうボス戦のようだな。よかろう、かかってこいっ!!」

ボーナスステージ 飛鳥洋VS東郷真澄

「死ねえええええええええええええええっ!!」
「うおっ飛鳥、今日はいつもと気合が違うぞっ」

 面打ち小手打ち上段突き中段突き下段払い。ハイパーモードに入った飛鳥が問答無用で攻めかかります。防戦一方の真澄。窓側にまで追い詰められてあっという間にKO寸前です。

「こうなったらやむを得ん!必殺ッコエンラクッ!!」
「ぬおっ!!」

 ともえ投げのように飛鳥を投げる真澄。開いた窓から飛鳥を外に放り投げました。

「よおーしリングアウト勝ちであるっ!!修行が足りん!」
「…部長だって俺と同じことやってるじゃないか」

 勝ち誇る真澄に思わずつぶやく健一。でも外で伸びている飛鳥を見ると、すでにそういう問題じゃないんじゃないでしょうか。いくら一階だからとはいえこんな危ない事は良い子はまねしないで下さいね。


…この後さすがに部長さんは志麻さんたちに逆さ吊りにされていました。後からきた知世さんなんかはものすごい怒っていてとっても怖かったです。いくらなんでもあんまり危ないことはしないほうがいいなと思いました、まる

−平成9年2月20日 田中薫くんの日記より−

おしまい


☆番外編

「ボーリング。漢字では暴輪具と書き、古代中国は晋の国で行なわれていた刑罰の一種がその由来となっている。一列に並べた十人の罪人たちに向けて刺のついた巨大な鉄の輪を転がし、助かった者だけを無罪にするというもので、これがシルクロードを伝って西欧に渡り、やがて現在のような競技にまで発展した。その発生の経緯から、当初ボーリング競技はキリスト教会によって白眼視され…」
「カイル…どこでそんな知識仕入れたの」

 あきれた顔で薫。

「少しは社会勉強しようと思ってね、マイ先輩が本を貸してくれたんだ。向こうの世界の古本屋で買ってきたらしいよ」
「その本今どこにあるのっ」
「もう返したけど…カーマイン先輩に貸すとか言ってたかな、どうかしたの?」
「その本に書いてあることめちゃくちゃだよっ。そんなのみんな信じたら大変だよ」

 思わず口調の強くなる薫。でもカイルのほうは、さして気にもしていないようです。

「そうなのかい?でもけっこう楽しいよ」
「楽しいとかそうゆう問題じゃなくて…」
「たとえばカラオケはもともと唐悪気って書くそうで、字の通り古代中国は唐の国にあった呪術儀式がその由来となっているんだ。悪い気を追い払う儀式で、全身に染料を塗って、狭い部屋で線香の煙と楽の音の中を三日三晩叫びながら踊り続けるんだって。患者に憑いた悪霊を祓うときなんかは、さらに飾りひものついた棒で叩いたりしたそうで、これが今のマイクの原形にもなっているそうだよ。そう言われてみると今のカラオケにもそのなごりが残っているよね」
「カイル…そのうち中国の人に怒られるよ」


他のお話を聞く