第十回



☆Act0.ご挨拶

 こんにちは。TOSHIKIこと久保です。

 いきなりですが、今回のお話どんな展開にするかまだ何にも決めてません。で、せっかくですから誰かの一日でもメインにして書こうと思ってるんですけど、誰がいいと思いますか?

「はーい、そんならあたし立候補するっ」

 あらら。まっさきに手を上げたのはシャルロッテ・パストルさんでした。それじゃあ今回はシャルロッテさんのお話にしましょう。でももちろん主役になれるかどうかまでは保証しませんよ。念のため。

「おっけー。じゃあよろしくねっ」

 はいはい。でも意外でしたね。こういうのに真っ先に手を上げるのは、わたしは明石カンナさんあたりだと思っていたんですけど。
 あ、田中薫くんとカイル・グリングラスくんもやってきました。

「あの、シャルロッテさん」
「あら。薫にカイルじゃない、どうしたの?」
「あっちでカンナさんがさるぐつわされて縛られてたんですけど」
「…や、やーねえ。怖いコトもあるもんねぇ」

 …。カンナさんもやってきましたね。さっきまでと比べて何だかシャルロッテさんの表情がかわってます。

「…あ、あら。カンナ、元気だった?」
「…よーくもやってくれたわね、シャル」
「えー?何の事かな。よくわかんないや」

 シャルロッテ・パストルさんの一日はとってもデンジャラスになりそうな気がします。


☆Act1.シャルロッテ・パストルの平凡な一日

 平成9年9月18日木曜日。毎度おなじみ聖林檎楽園学園もとい聖ルーメス学園が舞台です。夏休みも終わって二学期が始まって、さすがにみんなもそろそろ休みぼけが覚めた頃。扇子片手に、毎度えらそうに現れたのは東郷真澄です。

「うむ。みんないつまでも休み明けでたるんではおらんだろうな、はっはっは」
「そういう真澄先輩が一番たるんでるんじゃない?」

 扇子を片手に麦わら帽子にアロハシャツ…確かに真澄さんまだ休みぼけが抜けてませんね、シャルロッテに言われるのも無理はありません。竹刀を片手にした飛鳥洋が言いました。

「まったくいつまでそんな格好をしているのだ!それでは下級生にしめしがつかんだろう」
「…洋先輩はもうすこし知世さん相手にたるんであげた方がいいと思うけど」

 私もそれはシャルロッテさんの言うとおりだと思います。じゃあ部室のすみっこの穴ぐらで転がっている不定形生物は…。

「…あれはもう手遅れなの」

 そうですか。


 シャルロッテ・パストルの一日。すっかり夏休みもあけた二学期の午後、いつもの五月倶楽部の部室。部室のすみっこにある飛び箱に腰かけて、シャルロッテは足をぶらぶらさせていました。いつもの五月倶楽部の部室。ですが、最近どうも休み前とは雰囲気が変わっています。からからと扉を開けて、小さな鉢植えを抱えた田中薫が部室に入ってきました。出迎えるように話しかけたのは速波水生。

「あ。薫さん、かわいいお花ですね」
「さっき園芸部でもらってきたんです。水生さんも育ててみませんか?」

 水生と薫は夏合宿の時から特に仲良くなったみたいな気がする。一見今までどおりに見えなくもないけど、ときどき二人して急に真っ赤になったりしてるもんな。一緒に話してる健一もなんか複雑そうな顔してるし、何やってるんだろアイツは。

「くぉらーカイル!あんたあたしの焼きそばパン食べたでしょっ!」
「あはははははっ。あんな所に無防備に置いておくカンナが悪いのさ」

 カンナとカイルも最近一緒にいることが多いなあ。ああ、またキリーが踏まれてる。まったくみんないつの間に、ねぇ、いぶき?

「え、シャル何か言いましたか?」

 …っていぶき、あんたその純和風なリボンはなにっ。
 本当にどいつもこいつも。隣にいる麻生いぶきを見て、シャルロッテはため息をつきました。どこまでその気があるのかはともかく、先日飛鳥洋に誉められたことがやっぱり気になってはいるようです。
 なんとなくカヤの外の気分。シャルロッテは部室を出てあたりをぶらぶらしてくることにしました。


☆Act2.シャルロッテ・パストルのねずみふんじゃったな一日

「♪ねずみふんじゃった、ねずみふんじゃった、ねずみふんじゃったったらふんじゃった…」

 鼻歌を歌いながら、シャルロッテは廊下を歩いていました。

「…ぶっそうな歌うたってんじゃねーよ」
「あれ。キリーじゃない、元気?」

 シャルロッテを呼び止めたのはリトルスター族のキリカゼ・フィリー。つい先程カンナに踏まれたあとがくっきり残ってます。

「さっき人が踏まれてるの見ててよくそんな事が言えるな」
「まあいいじゃない。それよりちょっと聞きたいんだけど」
「なんだよ?」
「キリーこないだ夏合宿行ったでしょ。そんときの事聞かせてくんない?」

 わりと最近入部した事もあって、夏合宿には行けなかったシャルロッテ。キリーにしてみれば単なるみやげ話のつもりだったんですが、話を聞いて笑っているシャルロッテの顔を見て、カンナがよからぬ事を考えている時の顔に似ていると思いました。


「かーおるくーんっ」
「あ。シャルロッテさんこんにちは」

 部室前の廊下で薫に声をかけるシャルロッテ。これから文芸部に行く途中なのか、両手に積んだ本を抱えて歩いている薫に話しかけます。

「そういえばさぁ、こないだ水生と横浜行ってきたんだって?」
「はい。美術館行ってそのあとプールで泳いできて…」
「いいなあ、デートかあ」
「え、シャルロッテさんデートに行ったんですか?」

 きょとんとした顔で薫。予想外の反応にシャルロッテも困った顔になりました。

「いや、あたしじゃなくて薫がね」
「ぼくがどうかしたんですか?」
「だから、薫が水生とデートしてたって」
「ええっ!?そうなんですか?」

 どうやらシャルロッテは薫の朴念仁ぶりを理解していなかったみたいです。こと恋愛ごとに関しては薫くんは某ベルセンスさんなみにまぬけなのに。

「だって薫こないだ水生と遊び行ってたんでしょ」
「はい。カイルとかシーファリーさんも一緒でとっても楽しかったです」
「…」

 だめだこりゃ。シャルロッテはようやく自分のまちがいに気づきました。


「カーイルっ」
「なんだい、シャル?」

 今度はカイルに声をかけるシャルロッテ。どうやらラブラブになりそうな連中をからかってやろうとしているみたいです。

「こないだの夏合宿でカンナとデートしてたって本当?」
「ああ。本当だよ」
「へー。カイルも隅におけないわねえ」
「そうかい?じゃあシャルも今度僕とデートする?」
「へ?」

 きょとんとした顔でシャルロッテ。意外な台詞にさすがに一瞬照れたようで、何がじゃあ今度デートなのか、なんて聞きかえす余裕もないようです。

「どうしたの?シャル」
「あんた、カンナとデートしといてあたしも誘う訳?」
「だって遊びに行くっていうのはそういう事じゃないだろ?好意にもいろんな好意がある筈だし、好きな人と遊びに行くのがデートなら、いろんな人とのいろんなデートがあってもいいと思うよ」
「…それってけっこう軽薄じゃない?」
「そう?難しいこと考えるより、好きな人と遊びに行くだけだって方が素直だと思うけど」
「じゃあカイルは私のことも好きって訳?」
「当然じゃないか。僕はみんな好きだよ、だからシャルの事も大好きさ」

 軽くウインクをしてカイル。無邪気な笑顔に一瞬どきっとして、誰にでも好きって言える軽薄さもありなのかな、なんて思ったシャルロッテですが、肝心な話をうまくごまかされていた事に気づくのはしばらくしてからでした。


☆Act3.シャルロッテ・パストルの デンジャラスな一日

「…うーん。毒気にあてられたかな」

 再び部室の飛び箱の上。足をぶらぶらさせながら、シャルロッテはぼーっとしていました。暇つぶしにラブラブな連中でもからかってやろうかと考えていたんですが、シャルロッテが思っていたよりはるかに手強い相手ばかりで、なかなか一筋縄ではいきません。そのうち自分が何やってるんだろ、という気分にもなってきます。

「あーあ。何かおもしろい事ないかなー」

 大きくのびをするシャルロッテ。そこに現れたのはフォートナム・メイソンでした。

「シャルちゃん何してんのー?」
「フォートナム…あんたあたしとデートしない?」

 もちろん冗談のつもりです。

「いいよっデートしよ」
「えっ?」
「じゃあどこ行く?こないだ志麻さんが真琴ちゃんとパフェ食べに行った喫茶店なんかどうかな?その後お洋服選んでー、シャルちゃんのも僕が選んであげるね☆」
「ちょ、ちょっと…本当に?」
「えーなんでー?デートでしょ」
「いや…その…」

 どうも今日は思ったとおりに事が行かないシャルロッテ。フォートナムの勢いに完全に押されています。もちろん部室の中なのでまわりにも人はいるんですが、みんなシャルロッテが困っているのを見て楽しんでいるようです。いい性格をしてますね。明石カンナが陽気に手を振って二人を見送ります。

「行ってらっしゃーい」
「カンナーっ。あんたねー」

 こうしてシャルロッテとフォートナムの二人は部室を出てデートに行きました。


「お帰りなさい。シャル」
「ただいまーいぶき。あー疲れた」

 日も暮れた頃家に帰ってきたシャルロッテ。にこにこしながら麻生いぶきが出迎えます。

「デートは楽しかった?」
「いぶき。あんたまでそーゆう事言うの?」

 心底疲れた顔でシャルロッテ。

「まったく大盛りのパフェやらひらひらした洋服やらアクセサリーやら…あちこち引きずりまわされちゃったわよ」
「あははは。でも楽しかったんでしょ?」
「なんかオンナノコノカイモノに付き合わされてるみたいだった」
「まあフォートナムさんだから…でもたまにはシャルもああいう所に遊びに行くのもいいんじゃない?」

 そう言うと手に持っていた雑誌を差し出すいぶき。シャルロッテに手渡します。

「もうご飯できてるわよ。早く中入りなさいよ♪」

 よく分からないままシャルロッテはいぶきに渡された雑誌を開きました。目に入ったのは占いのコーナー。

『今日の運勢−かに座の女の子−

 恋愛運:今日の運勢は停滞ぎみ。興味本位であちこち手を出すと痛い目に会いそう。
     積極的な行動も裏目に出るので、一日おとなしくしているのが無難かな?』

 がっくりと力の抜けるシャルロッテ。

「あたし…今度から占いも信じてみようと思う」

 シャルロッテ・パストルさんの一日はとっても疲れる一日でした。

おしまい


☆次回予告

♪ちゃーちゃーちゃーちゃちゃんちゃーん

「こんにちは、カイル・グリングラスです」
「こんにちは。田中薫です」
「今回も小休止な感じのお話だったね」
「そうだね。前回の予告だともっと恥ずかしいお話になりそうだったけど」
「大丈夫大丈夫。TOSHIKIはそういうお話めったに書かないから」

 そうでもないですよ。
 書く時はけっこう恥ずかしいお話も書きます。なんならカイルくんとカンナさんのラブラブなお話でも書きますか?

「無理だって。今回も薫と水生の事ほとんど書けなかったじゃないか」
「でもぼくはあんまり恥ずかしいのよりその方が…」

 まあその辺は本人たち次第ですからね。私があんまり口出しする事じゃないです。

「それより次回はどうするんだ?いちおう次回予告するんだろ?」

 ああ、それならもう決めてます。次回は天文部へ行くお話です。

「天文部?」
「カイル忘れたの?こないだ青流先輩に誘われたじゃない」

 ですね。誘われといて行かない訳にはいきません。次回は何人か誘って天文部へ遊びに行きましょう。

「そういう訳で青流先輩次回おじゃまします」
「そういう事なら誰誘って行くか考えとくか。薫はもう決まってるんだろ?」
「…カイルっ」

 はい。それでは次回も大正桜に浪漫の嵐っ、です。

 ちゃーちゃーちゃーちゃちゃんちゃん♪


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