みっどないと・てぃーぱてぃー第三幕



☆Act.1 反省しなさい

 平成10年11月末日。もうすぐ12月、今年ももうすぐ終わります。年の瀬になると誰でもたいてい忙しいものですが、もちろん学生たちも例外ではありません。なぜなら期末試験があるからです。

「おお床屋、王様の耳は美しいー」

 それは違うでしょ。という訳で、今回は聖林檎楽園学園もとい聖ルーメス学園学生寮が舞台です。最初は紹介から、というのは定番ですね。


 よく晴れた一日。秋から冬へと移りつつある季節。今月は雨も少なくて、乾燥した空気が冬の雰囲気をいっそうひきたてています。聖ルーメス学園、演劇部の部室にて。

『私はすぐにバットを振り回す乱暴者です』

 情けないプラカードを掲げて立っているのは松本いずみ。事の顛末は、毎度の事ながらいずみとカルマ・アークライエスとのもめ事に起因しています。その日「男っぽい」とまでからかわれてさすがにかっときたいずみが金属バットを振り回してカルマを追いかけ回していた時、巻き込まれた白雪聖良を庇おうとしてカルマが怪我をして、という事だったんですが…。
 その時の罰として、いずみは一日プラカードの刑に処されています。発案者はパートナーの田中えりか。神妙な顔をして、いずみが白雪聖良に話しかけています。

「本っっっ当にごめんね聖良。あたしって昔から切れると見境いつかなくなることがあって…反省してます。本当ごめんなさい」
「い、いいんですよいずみさん。そんなにたいした怪我じゃなかったんだし」

(いや、怪我したのは俺なんだけど…)

 聖良の隣で、何か言いたそうにしているのはもちろん我らがカルマ・アークライエス、長身長髪の美青年。ところどころに貼られた伴奏膏が痛そうですが、その後看護をしようとしてくれた聖良にちょっかいを出そうとして、他の部員に殴られた分は自業自得なんでしょうか。
 そんなカルマをほとんど無視して、いずみが聖良に話しつづけます。「男っぽい」と言われたことを、まだよほど根に持ってるのかもしれません。

「でね、お詫びしたいんで今度寮のあたしの部屋に来ない?」
「え?いずみさんの部屋ですか」
「そ。もうすぐ期末試験だしさ、おもてなしするからお勉強を兼ねてって事で。もちろん他の人も誘ってるけどね」
「そう…ですね。そういう事なら、私も学生寮って一度行ってみたかったし」
「おっけー♪じゃあ決まりね」

 嬉しそうな顔でいずみ。単純な分義理堅くて、根は悪い人じゃありません。そんないずみの様子を見て、聖良もなんとなくにっこりしながら、隣のカルマに話しかけました。

「それじゃあカルマはどうする?一緒にいずみさん家行く?」
「そりゃあもちろん…」

 聖良が行くなら俺も一緒に行くよ、とカルマが言おうとした時、

「そうよね、やっぱりいずみさんの事気になるものね」

***つうこんのいちげき!***

▽カルマは20のダメージをうけた
▽カルマはしにました…


☆Act.2 おおカルマしんでしまうとはなにごとだ

「ちくしょう、所持金が半分になっちまった」
「え?何か言ったカルマ」
「あ、ああ。何でもないよ」

 あいまいな笑みを浮かべて、聖良に微笑みかけるカルマ。最近いずみとじゃれあいすぎたせいか、何やら深刻な勘違いをしているらしい聖良に対して複雑な気持ちを持っているようです。
 ルーメス学園第一寮へ向かう道。丘の上にあるルーメス学園は、あちこちに坂が多くて慣れない人は歩くのに苦労するでしょう。普通はバスを使ってる人が多いですね。
 木々と芝生に囲まれた丘の上。似たような建物がいくつか並んでいる一角に、ルーメス学園学生寮がありました。

「こんにちはー」
「お邪魔しまーす」
「こんにちはー、もうみんな来てますよ」
「あー、いらっしゃい聖良。遠慮しないであがってねー」

 聖良とカルマの二人を出迎えたのは、いずみともう一人、先に来ていた清白大樹。夢は大冒険家〜セントエルモスの奇跡〜を目指しているという、金髪で眼鏡の男の子。すぐ近くの男子寮に住んでいることもあって、いずみに剣(金属バット)の稽古の相手役を頼まれることも多いみたいです。色気のない娘ですね。
 いずみに案内されて寮に上がり込むと、聖良とカルマは階段を昇って部屋に向かいます。
 それでは本邦初公開松本いずみさんの部屋…っていうほどのものではありません。寮の部屋ということもありますけど、あんまりオンナノコらしさとは縁のなさそうなレイアウトです。中を見まわしてカルマが口を開きました。

「どーも女性の部屋に来たという感動に欠けるんだよなあ」
「でっかいお世話だよカルマ」

 あいかわらずですね。部屋の中では、田中えりかとケイ・スノウフィールドがくつろいでいました。お茶のカップをテーブルに置いて、新しいお客さまを迎えます。

「いらっしゃいませー」
「あ…こんにちは聖良さん、カルマさん」

 大きなカエルのぬいぐるみを抱えてケイ。なぜカエル?それは本人に聞いてみないとわかりませんが、カエル娘として一部有名な彼女は、今日もカエルを抱えているのです。部屋の様子を見て、大樹がケイに話しかけます。

「あれ?ケーちゃん、翡翠さん達はどこに行ったの?」
「え、えーと。さっき部屋を出てった聖くんを探しに行ってそのまんま…」
「ただいまー。ミコト戻ってきてるー?」

 大樹たちの後ろから現れたのは宝珠翡翠。パートナーを探しに行って結局見つからなかったらしく、ちょっと困ったような顔をしています。大樹の肩越しから、背のびするようにケイが答えました。

「あ、翡翠さん。いえ…その、聖くんならまだ…」
「しょーがないなー、どこで迷ってんのかな」

 更に一部で有名な、翡翠のパートナーであるミコトこと聖尊の方向音痴ぶり。その程度はというと…

「よっ。ヒスイ呼んだか?」
「ミコト…どっから帰ってきてんのよお」

 窓から顔を出す尊。でもここは2階のはずなんですが。

「いやーちょっとトイレ行ってたら部屋がわかんなくなっちまってさ。庭に出たらこの部屋が見えたんで登ってきちまった」

 どうも鎖にでもつないでおいた方がいい、という人が多い気がするのは気のせいでしょうか?


 期末試験の勉強会の名目でしたのでお勉強です。『教養』のパラメータが高いのは…えりかに尊にケイですか。なんだかキングダム人の方が教養が高い傾向にあるんですかね。

「だからここはこうして…」
「あ、あたしお茶でもいれてくるね」
「だーめ。お茶なら聖良とケイに頼んだから逃げんじゃないの」

 襟首をつかまえて、えりかがいずみを特訓中。招待主のはずが、みんなに世話を焼かれてます。となりに座っている翡翠も世話焼かれ組。

「ミ、ミコトお。さっぱりわかんないんだけど」
「ったくしょーがねーな。先週授業で出てただろ?」
「だって寝てたもん」
「…」

 苦労しているみたいです。さらにその隣りでは、

「ぷしゅううううううううううう」

 大樹が煙を噴いていました。教養6は最低値です。


☆Act.3 最近幼虫うまいんだ

 あまーいんだとってもね。
 けどあげないよぼく甘党だからね。

「何よそれは」

 いやその…すみません関係ないんで気にしないでください。

 効果があったかどうかはともかく、たぶん有意義だった勉強会も一段落。お茶とケーキをいただいていると、時間なんかあっという間にすぎてしまいます。
 この季節にはお日様もすぐに傾いて、夕刻にはあたりも真っ暗。寮住まいでない聖良とカルマの二人はそろそろお帰りです。家まで女の子を送っていく役は…お姫さまには狼さんがついているので安心でしょう。

「(カルマ…ちょっといいかな?)」

 部屋を出て。玄関まで二人を送る途中、みんなに気づかれないように小さな声で、いずみがカルマを誘います。めずらしく神妙ないずみの表情に、ややとまどうカルマ。何故か小声になって聞きかえします。

「(何だよいったい)」
「(お願い。ちょっとだけ付き合って)」

 引っぱるように連れていかれたのは、人気のない非常口近くの踊り場。いったい何なんだという顔をしているカルマに対して、いずみがいきなり頭を下げました。

「ごめんっ。反省してます本当にごめんなさい」
「な、何だよいずみ急に…」
「だ、だってこないだは聖良は巻き込むしカルマにも怪我させるし…ごめん…」

 先日の件で意外に落ち込んでいるらしいいずみ。みんなの前では言えなかったけれど、本人の前では正直に謝っておきたかったんでしょう。軽くため息をつくと、ぽんぽんといずみの肩をたたいてカルマが言いました。

「まあいいさいずみ。そんなにたいした怪我じゃなかったんだしな」
「…あはは」
「ん?どうしたんだ」
「だってカルマ、聖良と同じこと言ってるよ…やっぱパートナーだね」
「そ、そーか?」

 めずらしく照れた顔でカルマ。それを見て明るい顔に戻ると、腰に手を当てていずみが言います。

「でも。帰りに聖良に手出したりしないでよ。変なことしたらまた金属バット持ってぶん殴りに行くから」
「まあ、そうやってバット振り回してる方がいずみらしくはあるな」
「だーから。でっかいお世話だってば」

 単純な分義理堅くて、根は悪い人じゃありません。そんないずみの様子を見て、カルマもやっぱりなんとなく笑っていました。


☆Act.4 狼さんとお姫さま

「それじゃあ、また明日」
「気をつけて帰ってねー」

 林に覆われた多魔の町並み、すっかり日も暮れた坂道を下る聖良とカルマ。空にはぽつぽつと小さな星。このあたりでは、夜になっても街灯や家からの明かりが多くて、それほど星が見えるわけではありません。東の空にオリオンの星々が見えはじめるかどうかという時間。カルマの狼さんモードが発動しようとしています。

「空気がきれいな夜だな、聖良」

 わざとらしく聖良の肩に手を置いて、カルマがつぶやきます。無邪気な顔で聖良。

「そうね…それより、良かったねカルマ」
「何が?」

 問い返すカルマ。

「さっきいずみさんと二人で話してたんでしょ?カルマなんだか嬉しそうにしてるし、もしかして少し進展したのかな?」

 違うんだ、そうじゃないんだああ。

 何か言いたげな顔のまま、硬直しているカルマ。嬉しそうなのは聖良と一緒にいるから、とか気のきいた言葉も出す気力がありません。聖良の無邪気な声が残酷に響きます。

「でもまだ高校生なんだし、あんまり変なことしちゃだめだよカルマ」

 もしかして今回一番落ち込んでいるのはカルマかもしれません。


「どーおいずみ。ちゃんとカルマに謝ってきた?」
「な、ななな何よえりか。何のこと?」

 部屋に戻る途中。いずみに話しかけるえりか。おもしろいくらいにあわてた反応を見せるいずみに、えりかが優しげな顔を見せます。

「パートナーでしょ。あんたの考えてることくらいわかるよ」
「…ふんっだ」

 すねたような嬉しいような、複雑な顔をして。二人は部屋に戻ると扉を開けました。

「ぷしゅううううううううううう」

 ケイがちょこんと座っている隣で、大樹はまだ煙を噴いていました。

おしまい


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