縦巻きなおはなし


 おやおやどうしたんだね、今日も眠れないのかい?早く寝なさい、子どもには大人より
もずっと多く、夢を見る時間が必要なんだ。特に今日はお月さまが青く光る夜。こんな夜
はどこかでとても不思議でとても怖いことが起こるんだ。それは…いや、やめておこう。
怖くて眠れなくなったら困るだろう?どうしても気になって眠れないというのなら、話し
てあげてもいいけれど、いいかい?このお話を聞く前に、ひとつだけ覚えておいてほしい
ことばがあるんだ。そのことばさえ知っていれば何が起こっても怖くなんかない。君を守
ってくれることばは…そう、『縦巻き』っていうんだ。


※このお話はふぃくそんです。実在する人物、団体、縦巻きには何の関係もありません。


 それは遠くて昔の国のできごと。岩と土のかたまりでできた大きな人形がありました。
大きな人形はゴーレムというのですが、ゴーレムは人形ですけど自分で朝目を覚ましたり
お散歩をしたり夜になったらきちんと眠る、とてもえらいゴーレムでした。その日もゴー
レムはいつものように、ひろいひろい草むらをお散歩していたのですが、そこに立て札が
ひとつ立っているのを見つけたのです。悪い悪い魔王がお姫様をさらってしまってみんな
困っているので、誰か魔王をたおしてお姫様をたすけてくれたものは、お姫様とけっこん
させて新しい王様にしてあげようというものでした。
 ゴーレムはえらいゴーレムでしたからお姫様をたすけにいくことになったんですけど、
ゴーレムは人形だからお姫様とけっこんしなくてもいいし、新しい王様にしてあげなくて
も良かったから王様はゴーレムを応援しました。
 王様はお城の魔法使いを呼んで、ゴーレムを守る魔法のことばをかけることにしました。
王様が呼んできた超一流の魔法使いは、たくさんの縦巻きをぶらさげたきれいな女の人で
した。魔法使いが魔法のことばの『縦巻き』をとなえると、とてもきれいな縦巻きが一本、
ゴーレムの頭の上に乗りました。この縦巻きがきっとゴーレムを悪い悪い魔王から守って
くれるにちがいありません。それから王様はお姫様をたすけるために、まだ幼い男の子の
騎士にも縦巻きの魔法をかけさせて、縦巻きのゴーレムと一緒に悪い悪い魔王のいる塔に
向かわせました。途中おそろしい怪物がいましたけれど、縦巻きのゴーレムは大きくて力
もちなのでおそろしい怪物にもへいちゃらでした。
 悪い悪い魔王は塔のてっぺんにいました。魔王に捕らえられているお姫様はたくましく
て威厳のある縦巻きのお姫様でした。お姫様は王様の子どもですから威厳があるのにちが
いありません。魔王はとてもとても小さな女の子の魔王でしたけれど、大きくて力が強そ
うなゴーレムを連れていましたので、とてもたおせそうにありません。縦巻きのゴーレム
も大きくて力もちでしたけれど、縦巻きのゴーレムはゴーレムと戦うのがうれしくありま
せんでした。
 でも小さな魔王の乗っている大きなゴーレムはもちろんおそいかかってきます。縦巻き
の騎士が戦いますけどとてもいけません。なぐられてたおれてしまいました。縦巻きの騎
士は縦巻きのゴーレムにとても優しくしてくれましたので、なんとかしなきゃいけないと
思いました。
 そうしたらゴーレムの縦巻きが大きくなりました。とてもとても大きくなって、ぐるぐ
るぐると小さな魔王の乗っている大きなゴーレムをぐるぐる巻きにしてしまったのです。
小さな魔王はぐるぐる巻きからかんたんに逃げられますけど、大きなゴーレムは逃げられ
ませんからそのあいだに縦巻きだったゴーレムは縦巻きの騎士と縦巻きのお姫様を連れて
逃げ出しました。塔のてっぺんには窓の外から大きな縦巻きがはみだしていましたので、
小さな魔王は縦巻きをほどくまでしばらくなんにもできないことでしょう。
 王様は縦巻きのお姫様がぶじに帰ってきたことをよろこんで、お祭りをしました。縦巻
きの騎士は縦巻きのお姫様とけっこんして、新しい縦巻きの王様になりました。縦巻きの
国の人たちはみんな幸せに暮らしました。

 そのあと縦巻きのゴーレムがどこにいったのか、誰も知りませんでした。でももう縦巻
きでなくなったゴーレムは、縦巻きの国がなくなったずっと後、今もまだひろいひろい草
むらをお散歩しています。

                                    おしまい



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