砂漠の冒険譚2/冒険に行こう!


 ゴロゴロゴロゴロゴロ…!!!

 石造りの洞窟の中。大岩が転がっています。洞窟いっぱいの幅。その前を走る三人の男
女。

「あーん。こんなのにつぶされたらぺっちゃんこになっちゃうよーっ」

 拳士の格好をした女の子、パリザード・ラハト。弁髪をなびかせて先頭を走っています。

「ぺっちゃんこどころか内臓がつぶれて骨までくだけて血がとびちってそれからそれから…」

 軽装にベストを着たショートカットの女の子、イーシャ・アルバード。余裕のある受け
答えをしています。

「くだらないこと言ってんじゃなーいっ!早く逃げるぞーっ!」

 砂漠の剣士、ラシッド・アージャ。彼のすぐ後ろにはもう大岩がせまってきています。

 ゴロゴロゴロゴロゴロ…!!!

 大岩が通りすぎます。後に残ったのは…地面に深いみぞ。なんとか三人とも横穴に逃げ
こんだようです。

 ことの起こりはラシッドのことばでした。最近「まっとうな冒険」をしていないと言う
んです。
 盗賊イーシャ、拳士パリザード、剣士ラシッドの三人は冒険者。「うさぎ走れ走れ」と
いうグループを組んでいます。冒険者と言ってもほとんどは冒険にかこつけて観光ややじ
うまをしてまわっているだけ。モットーは明るく楽しく元気良くです。それでもときどき
はおたからを見つけることもあったりするんですが、ラシッドがたまには「冒険」の名に
値することをやってみたいと言い出ました。彼が話を持ってきたのは最近発見されたとあ
る遺跡。ひねくれものの魔法使いが住んでいたそうで、たくさんの罠相手にみんな苦労し
ているそうです。イーシャもパリザードもそんな「冒険」にあんまり乗り気ではなかった
んですが、ラシッドがどうしても行きたいと言うんでつきあって遺跡に入っていったんで
す。入っていったんです。ですが。

「…みんな、生きてるー?」
「…何とかねー」
「…ぜえぜえ…」

 三人とも地面にへたりこんでいます。その回りを妖精のファルが一人のんきに飛びまわ
っています。もちろんこの娘も「うさぎ走れ走れ」の立派なメンバーの一人です。

「…それにしても何て所なのよここはっ!」

 パリザードが言いました。

「何でこんなに罠ばっか仕掛けてあるのよっ、だいたい罠以外何にもないじゃないのっ!」
「…しかもここってご丁寧に動いた罠が全部自力でもとに戻るんだよねえ」

 イーシャもぼやきます。ちらちらとラシッドの方を見ながら。

「まーったく誰がこんなところ行こうって言ったんだか」
「で、でもこれだけ罠があるんだからそれだけすごいお宝があるかもしねないじゃないか
よ」

 ラシッドが言います。さっきの転がる大岩もそうですが、床が開いたり天井が降りてき
たり壁がせまってきたり、大がかりな罠ばかり仕掛けてあっていまだに金貨一枚見つかっ
ていません。これじゃあ文句を言いたくなるのも無理はないでしょう。だいたい罠以外に
はいまだ部屋一つないし怪物一匹見かけていないんですから。

「ここ住んでた魔法使いってぜーったい性格悪かったにきまってるわ」
「こんな地下で黙々と研究なんかしてるから性格悪くなるのよねえ」
「もともと性格悪かったからこんな所に隠れ住んだのかもしれないわよ」

 イーシャもパリザードもそうとう機嫌が悪そうです。まずい。ラシッドは思いました。
もともと戦士の彼にとって戦うのは得意でも、相手が罠になると身の軽いパリザードやイ
ーシャにはとてもかないません。こんな所に誘った上に何もできなかったら後でひどい目
にあうのは目に見えています。それでも三人と妖精一人は遺跡の中をしばらく進みました
が、とうとうとある一つの部屋に行き当たりました。扉を開けて中に入ると、待ち構えて
いたのは一体の凶悪そうな機械人形。

 ぎりぎりぎり。

 三人が足を踏みいれると機械人形はきしむ音を立てながら三本の腕に武器を構えました。

「出やがったな!」

 名誉回復のチャンス。ラシッドは喜び勇んで剣を構えます。

「ちょっと、ラシッド!」
「でやああああっ!」

 仲間の制止の声も聞かず、ラシッドが切りかかります。機械人形も見かけ以上のすばや
い動きで攻撃。ラシッドはぎりぎりかわすと大振りの一撃。機械人形の腕を叩き落としま
す。気合いの入っている分いつもより動きがいいみたいです。少々傷は受けましたが、豪
快な剣さばきであっという間に機械人形を倒してしまいました。

「大丈夫か、二人とも」

 ほんとうはどうだい、と言いたかったのかもしれません。でもイーシャたちの反応はラ
シッドが思っていたのとは違いました。

「…何やってるの?ラシッド」
「は?」
「…この機械人形、部屋の真ん中の床を踏むと動くようになってたんだけど」
「………」
「だから部屋のすみっこを歩いていけば襲われなかったんだってば」
「………」
「聞いてる?ラシッド」

 ラシッドは今回立場がないようです。

 機械人形を倒した部屋の奥。ようやく魔法使いの部屋らしい所へ着きました。いきなり
目につくのは大きな宝箱。

「やっと見つけたー」
「苦労したなあ」
「待ってね、今開けるから」

 イーシャが宝箱を開けます。罠がかかってないのを確認して慎重に。中には巻き物が一
つだけ入っていました。イーシャは巻き物を取り出すと、広げて読んでみます。魔法の巻
き物でしょうか。それとも宝物の地図か何かでしょうか。
 巻き物を読んでいるイーシャの肩がぴくぴくとふるえました。ラシッドが尋ねてみます。

「どうした?何て書いてあるんだ?」
「………」

 イーシャは無言で巻き物をラシッドに渡しました。巻き物にはこう書かれていました。

『おめでとう!数々の障害を潜り抜けてこの紙切れを手に入れた君たちに“暇人”の称号
を与えよう!』

 そういえばラシッドには女難の相もあるそうです。

                                    おしまい



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