三銃士(岩波文庫)

 アレクサンドル・デュマ著 生島遼一訳
表紙  舞台は17世紀のはじめ、ルイ13世治下のフランス。ガスコーニュの片田舎に生まれた青年ダルタニャンは王に仕えて立身出世の道を歩むべく、銃士になろうとパリを訪れます。道すがらに紹介状を盗まれてしまったダルタニャンはそれでもパリへと向かいますが、なりゆきから三人の近衛銃士アトス、ポルトス、アミランと決闘をすることになりました。決闘のさなかに枢機卿リシュリューの部下と戦うことになった彼らの間に奇妙だが固い友情が芽生えると、やがてイギリスとの戦乱が起こっていく中で王妃の命を受けた彼らはおそろしい陰謀に巻き込まれていくことになります。

 有名なダルタニャン物語の第一部で、決闘あり恋あり陰謀ありの冒険活劇です。時代はカトリーヌ・ド・メディシスの没後、あいもかわらず旧教徒と新教徒の争いを抱えて、イギリスやスペインとの関係に揺られているフランスが舞台となります。主人公のダルタニャンをはじめ実在の人物が多く登場している作品で、勇気と知謀を備えた青年ダルタニャンはルイ13世や王妃アンリ、宰相リシュリューらによる策謀や愛憎が渦巻くパリで近衛長官トレヴィルの助けを得て銃士への道を目指します。
 そのダルタニャンを友誼によって助けるのが冷徹な武人アトスに豪傑ポルトス、詩人肌で聖職者志望のアラミスという三人の銃士。彼らは王妃の思わぬ危機を救うためにイギリスへと海峡を渡ったり、策謀の中で命を狙われながらも最前線の砦で秘密の相談をしたりと、陽気で爽快な方法によって数々の危地を切り抜けます。その彼らに妨害の手を伸ばすのがおそるべき夫人ミレディーでした。

 もとはダルタニャン伯爵、本名シャルル・ド・バツ=カステルモールの部下が創作した「ダルタニャン氏の覚え書」を参考にして歴史家オーギュスト・マケの協力を得て執筆した作品だとされています。冒険活劇として魅力的な登場人物たちによる爽快な活躍が見られるだけではなく、当時のフランス宮廷らしい数々の陰謀策謀が張り巡らされた緊張感に読んでいても気を抜くことができません。ことに青年ダルタニャンの敵役となる夫人ミレディーの描写がすさまじく、女性一人でダルタニャンと三人の銃士を相手取る手管にはおそろしさすら感じさせます。
 ちなみに銃士というのはその名のとおり銃を持った乗馬兵のことですが、作中では当時にして古典的な貴族精神や騎士道精神を備えた近衛隊の剣士、とでもいった風情で剣を手に正々堂々と名乗りを上げて戦いそう人々として描かれています。あとはダルタニャンと三銃士の物語であるため、三人ではなく四人いるのも知らない人には意外と知られていないところでしょうか。

 爽快で直情的な主人公ダルタニャンの性格もあって、ガスコーニュを出立してから休むことなく巻き起こる事件の数々に飽きさせず、結末へといたる壮絶な流れまで血沸き肉踊る快作です。ジュテームの国フランスらしく、残酷だったり性的な描写があるせいか自動文庫では抄訳されている例もあって、岩波版はそのあたりも載せられているようですが第二部以降の後刊が出ていないのは残念なところですね。

 ちなみに本作品でも最も有名だろう銃士たちの標語<un pour tous, tous pour un.>は「四人一体」と訳されています。
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