ななつのこ(創元推理文庫)

 加納朋子著
表紙  いったい、いつから疑問に思うことをやめてしまったのでしょうか?いつから、与えられたものに納得し、状況に納得し、色々なことすべてに納得してしまうようになったのでしょうか?

 そんな書き出しで始まる、短大生の入江駒子が出したファンレター。「ななつのこ」という表題の本を手にした駒子が、思い立って送った手紙からお話ははじまります。スイカジュース事件なる身近な不思議を書きつづった、駒子の手紙に本の作者である佐伯綾乃から返ってきた返信、そこには事件の意外な謎を解きほぐすメッセージが入っていました。そして、不思議なファンレターとのその返信はいくどか繰り返されて・・・。

 いわゆるミステリー小説の範疇にありながら、おどろくほど身近で小さな事件を扱い、しかも独特のあたたかみを備えている不思議な作品。駒子が手に入れた「ななつのこ」という本、そこに載っている七本の短編を主題とした短編集ですが、それぞれのお話に駒子が出会う七つの小さな事件が結びついて、それが一本のお話へと導かれていきます。路上に広がるスイカジュースの赤、入れ替わった絵画の話、空とぶ恐竜の風船など・・・それらを「ななつのこ」にある少年「はやて」と「あやめさん」の謎解きに絡めて、駒子がファンレターという姿にして佐伯綾乃につづります。

 お話と同名の作中作である「ななつのこ」を物語と絡めたつくり、それに手紙のやりとりで解決されていく小さな事件の数々が計算されて構築されている構成は見事というほかないのですが、それにも勝るのがお話として、物語としてのこの作品の魅力に他なりません。駒子が出会う、小さな事件の数々は確かに日々見落としてしまいそうな小さな疑問やできごとでしかないのですが、そんな小さなことが誰かにとって何よりもたいせつな風景を秘めている、そのたいせつさを作者も登場人物も忘れてはいないところにたまらないあたたかさと魅力を感じます。
 七つの作品でも珠玉となっているのが六本目の「白いタンポポ」で、小学生のサマーキャンプに同行した駒子が白いタンポポの絵を描く少女に出会ったお話。誰にだって人が信じている風景を否定する権利は存在しないということ、そして、その風景が幻想でも空想でもなく彼女だけが知っている本当の姿であることだってあるということ。そんな作者の思いとあたたかさが伝わってくる、およそミステリーらしからぬミステリーをぜひどうぞ。

 いつだって、どこでだって、謎はすぐ近くにあったのです。
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