剣の歌 ヴァイキングの物語(原書房)
ローズマリー・サトクリフ著 山本史郎訳
九世紀、舞台はヴァイキングの入植が始まった時代のイギリスやアイルランド周辺。いさかいから修道士を殺してしまった少年ビャルニ・シグルドソンは族長から一本の剣を渡されると、故郷のラーヴングラスから五年間の追放を宣言されることになります。
一本の剣を携えてヴァイキングたちの間を渡り歩くビャルニは、思うままに戦うことで自らを貫きながら海賊や商人、ケルトの神官たちを相手にときにだまされ、ときに争ったりしながらも五年間を生きて故郷に帰るまでの物語です。円環のように巡っては戻る出来事の中で、故郷に帰る少年は成長して彼が手にしていなかったものを見つけ出していました。
ローズマリー・サトクリフの遺作として、逝去後に偶然発見されたといわれる作品であり、作者を代表するローマン・ブリテンとは異なるヴァイキングの物語に連なるだろう作品です。剣の腕だけを頼りに無鉄砲と思わせるほどの行動力で生きていくビャルニと彼をとりまく魅力的なヴァイキングたちの姿が活き活きと描かれていますが、木足のオヌンドやオークニーのソーステイン、ノルウェーの美髪王ハーラルといった力強い人々と出会い過ごしていく中で少年はやがて成長を遂げていきます。
多くの事件を経て成長したビャルニはあるとき、難破した船を放り出されると漂着して黒髪の少女アンガラドに助けられました。ブリトンの古い伝統を受け継いできた少女は魔女としておそれられており、彼女が迫害される姿を見たビャルニは勝ち目のない戦いを前にして生まれてはじめて、迷わずに逃げることを決断します。
事件が巡り、時が経って故郷を出たビャルニが帰るまでの物語となっていますが、五年間の時間の中で確かにビャルニが成長する様子に感慨を思い浮かべます。無鉄砲で、一人だけで生きているようなビャルニが族長やその兄弟といった多くの人々に助けられていること、その彼が誰かを助けることを選ぶ姿に少年が大人になる姿を感じさせずにはいられません。
サトクリフの作品にはまま登場するイルカの指輪の持ち主が少女アンガラドなのも面白いところで、その系譜をうかがわせる誇り高い彼女の意思と心を通わせていくビャルニの強さは、後に「シールド・リング」を守るビョルンへと受け継がれていくのでしょうか。
躍動する時代と活き活きした人々の描写の中に、少年の冒険と成長をうかがわせる作品です。
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