アンの青春(新潮文庫)
ルーシイ・モード・モンゴメリ著 村岡花子訳
赤毛のアンの続編で、原題がアヴォンリーのアンとある通りに成長したアン・シャーリーのアヴォンリーでの生活を描いた作品です。孤児院を出てマシュウ・クスバートとマリラ・クスバートの老兄妹が暮らすグリン・ゲイブルスで育てられたアンですが、マシュウが亡くなってグリン・ゲイブルスに残った彼女は地元のアヴォンリー小学校に教師として赴任します。村の改善委員としての活動をしたり、アヴォンリーの隣人や生徒たちとの触れ合いなどアンの行動範囲はグリン・ゲイブルスからアヴォンリーの村へと広がり、みっともないやせっぽちの少女はすらりと背の高い女性へと成長していましたが彼女はやはり想像力の豊かなアン・シャーリーのままでもありました。
続編らしく前作の登場人物や舞台がそのまま引き継がれているので、彼らの変わらぬ様子にごく自然に赤毛のアンのその後を感じさせながらも思わぬエピソードの数々に楽しませてくれます。口の悪いオウムを連れた奇妙な隣人ハリソンさんの登場や、グリン・ゲイブルスに引き取ることになった双子のデイビーとドーラの幼い兄妹、繊細な容姿に詩人の魂を持つ少年ポール・アービングやパイ家の一員アンソニーをはじめとする小学校の子供たち、クィーン学園で親しくなった親友プリシラ・グラントや彼女が連れてきた有名な作家モーガン夫人の来訪、そして村外れにある「山彦荘」で暮らすミス・ラベンダーとの出会い。レイチェル・リンド夫人ではありませんが、あのマリラ・クスバートが双子の子供を育てることになることやそのリンド夫人がグリン・ゲイブルスで暮らすことになるなど想像もできませんでした。
時が経ち、少しずつアヴォンリーやアンの周囲の人々にも変化が訪れています。前作でのマシュウ・クスバートの死はその象徴でもありますが、新しい人の来訪だけではなく以前からいる人が去っていくことも決して珍しいことではありません。アンの親友であるダイアナが変わらぬ親友であり続けながら、彼女の想像力を諦めてしまった姿を見るとアン同様に一抹の寂しさがよぎり、娘たちでピクニックに行った際にも昔なじみのダイアナやジェーンよりもプリシラとアンが心を通わせている様子を見て彼女たちの変化に気づかされます。それでいてアンとダイアナの友情のように変わらないものもあり、就学を決めたアンがアヴォンリーを離れる際にマシュウのお墓を託したのはダイアナにでした。
アンと彼女を巡る人々の物語らしく、この作品にも数多くの想像力を持つ人々が登場します。ギルバート・ブライスは医者を志す野心を明確にしながらも、変わらぬアンの魂を崇拝して彼女の想像力をごく自然に受け入れていますし先のプリシラもアンの親友としてその後も付き合いを続けていくことになります。そして本編の中心となるのがポール・アービングとミス・ラベンダーの存在で、アンをきっかけに出会った少年と未婚の婦人が思わぬ人生の軌跡を交錯させていきます。自分が人とは違うことに悩みながらアンを崇拝するポールや、夢見がちな振る舞いが奇妙にも見られているミス・ラベンダーの姿にはアン・シャーリーとは異なる想像力の美しさを見せてもらうことができるでしょう。
デイビーとドーラの双子が起こす騒々しい事件の数々から、ロマンスや大人びた世界への憧れを垣間見せるエピソードまでアヴォンリー全体にある「アン・シャーリーらしさ」が主人公のアンを取り巻く姿で登場します。その中で昔と変わらぬ騒動を起こしてロマンスあふれる想像力を発揮する、アンの魅力に今回も惹かれていくことでしょう。
前作を知る人であればお皿を返してもらったミス・ジョセフィン・バーリーがアンの話を聞いて涙を流して笑い転げたであろう場面が想像できるでしょうし、そうでない人もネッド・クレイの手紙を読んでアヴォンリーの子供たちの子供らしさに心から微笑むことができるでしょうか。赤毛のアンのその後の世界を存分に堪能させてくれる作品です。
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