火吹山の魔法使い(社会思想社・教養文庫)

 スティーブ・ジャクソン/イアン・リビングストン共著 浅羽莢子訳
ff1  岩肌の切り立った山頂がまるで燃えているかのように赤々と見えることから、その山は火吹山と呼ばれていました。その後、山頂の赤はそこに群生する珍しい植物である眠り草の色であることが知られるようになりますが、貴方にとって重要なことはその火吹山の内部に広がっている広大な地下城砦、そこに住んでいる邪悪な魔法使いザゴールがゴブリンやオークといった怪物を操り、莫大な財宝を溜め込んでいることでした。
 貴方は火吹山の財宝の噂に惹かれてこの地を訪れた冒険者として、この迷宮を探索しザゴールを倒すべく足を踏み入れます。魔法使いの宝は錠前が三つついた見事な箱に納められていて、あてはまるカギは地下城砦の中にひそんでいるさまざまな怪物によって守られているということでした。

 FFシリーズの記念すべき第一作であり、その後多くのゲームブックのスタンダードともなった記念すべき作品がこの「火吹山の魔法使い」です。怪物のいる迷宮を探索して悪い魔法使いを倒し、莫大な財宝を手に入れるという悪くいえば単純、良くいえば王道のお話。財宝探しのついでに魔術師を倒す、という貴方の存在がダンジョンズ・アンド・ドラゴンズなどに見られる冒険者本来のアウトローっぽさを思わせてくれます。例えばザゴールを倒して財宝を手に入れたとして、その後の貴方の行動については(タイタン等の解説書にも)噂以外では全く記されていないのですが、魔法使いを倒した冒険者が火吹山の新たな支配者として怪物達を従え、その地に治まっている可能性すらあるのです!
 この本が発刊された時点では、タイタン世界についての設定は殆ど定められていなかったようですが、後に出されていくシリーズの中で火吹山ほかさまざまな設定が作られていくようになります。月岩山地にある火吹山の頂上の赤が眠り草の色である事も「雪の魔女の洞窟」で記されますし、地下迷宮の怪物たちを魔法で支配している魔術師ザゴールについては「タイタン」で説明されています。

 地下城砦での冒険は地下迷宮の前半部がイアン・リビングストンが書いた部分で、城砦の雰囲気や怪物の紹介を兼ねた世界観の説明を中心に展開され、後半部はスティーブ・ジャクソンが書いている入り組んだ迷宮として描かれています。余談ですが国産の「ネバーランドのリンゴ」のシリーズなどもこのスタイルを踏襲しており、前半が世界観の説明で後半が迷宮挑戦という構成はゲームブックとして完成されたパターンのひとつになっているのではないでしょうか。
 オークに巨大クモ、ミノタウロスにドラゴンといったいわゆる定番の怪物が待ち構えているほか、一つ目巨人サイクロプスの彫像やボート小屋の番人、ドワーフの集まりなどちょっと変わった演出も配置されていて飽きさせません。後半で道に迷いさえしなければ、ザゴールの待つ部屋に辿りついてこれを倒す事は決して難しくはないでしょう。基本的には現れる扉や脇道を全て確認していけば、戦闘の難易度を含めても充分にクリアでるかと思います。噂話にもあったザゴールの宝箱を開ける三つのカギの探索が多少難しく、前半部に一箇所だけある分かれ道で間違った方向に進んでしまうと肝心のカギが一本、それから後半の迷宮で手に入るカギを見つけられないまま魔法使いの部屋に辿りついてしまうことがあるかもしれません。地下城砦の内部は地図が作成できるつくりになっていますので、描きながら挑戦するのもいいでしょう。

 作品としては奇をてらったところが少ない反面、本当に定番中の定番として安心して挑むことのできる入門書的な内容になっています。「ソーサリー!」のカーカバード地方はより特有の文化や怪物が多く存在していますので、資料として平均的なファンタジー世界、ゲームブックの世界を味わうのであれば断然この「火吹山の魔法使い」こそがおすすめできる作品でしょう。
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