運命の森(社会思想社・教養文庫)
イアン・リビングストン著 松坂健訳
ドワーフの街ストーンブリッジの王ジリブランが所持している魔法のハンマー。投げつけると敵を打ち据えたあとで手元に戻ってくるというその武器は、勇敢なドワーフたちが近隣のトロールに対抗するための力の象徴として崇められていました。彼らに敵対するドワーフたちの街、ミレウォーターの住人が鷲を遣わしてこの魔法のハンマーを盗み出しましたが、悪名高いダークウッドの森の上空を運ぶ途中で死の鷹によって奪われ、それはゴブリンの手に渡ってしまいます。ハンマーを見つけた二匹のゴブリンはその所有を争い、柄と頭の二つをそれぞれ持ち去ってしまいました。
旅の途中、たまたまダークウッドの森近くを訪れていた貴方はこのハンマーを追っている最中にトロールの襲撃を受けた瀕死のドワーフ、ビッグレッグに出会います。彼の遺志を継ぎ、おそらくはストーンブリッジの王から齎されるであろう報酬を思って貴方は広大な森に足を踏み入れることになります。森の南端に住む賢人ヤズトロモの助けを受けて。
第三作に移って舞台は屋外、といっても閉鎖された森の中に変わります。貴方は危険なダークウッドの森で魔法のハンマーの柄と頭のそれぞれを見つけ出し、そして何より無事にこの森を抜け出さなければなりません。描写に優れるリビングストンの作品らしく、不気味な森を徘徊する怪物や原始的な種族たちに度々襲われることになりますが、ゲームとしては怪しい場所を順に訪れていくだけで道に迷うこともなく、難易度もかなり低くなっています。貴方が腕に覚えのある戦士なら、生きてこの森を抜け出ることはさほど困難ではないでしょう。
昼なお暗い森の中には獣人症を引き起こす狼男や地下でキノコを栽培するクローン、針ミミズに変化といった珍しい怪物たち、他にも魔法のハンマーを持ち去った当のゴブリンなどが暮らしていますが、ここに現れる恐ろしい生き物としてはダークウッド周辺に出没する山男の方が余程強く印象に残っている感があります。タイタンの設定ではこの地は邪悪な闇エルフのテリトリーでもあり、この森の危険は寧ろこの森に居住する危険な種族による危険なのではないでしょうか。
貴方の助けとなる善の魔法使いヤズトロモですが、後の「恐怖の神殿」や「甦る妖術使い」で登場する彼に比べて、実際に出会ってみても余り善に与する人間には見えません。気難しい彼ですが実力は申し分がなく、貴方をカエルに変えてしまう魔法を使ったり、多額の金貨と引き換えにこの森の探索で必要なだけの魔法の道具を分け与えてもらうこともできます。この道具を持っていれば森で出会う危険をかなり和らげることができる反面、技術点や運点が高ければわりと克服できる障害が多いのも、作品としてのダークウッドの森の恐ろしさが薄くなっている原因でしょうか。ただし、貴方に魔法のハンマーを探す大義名分がある以上は、危険であろうと怪しい所にはすべて首を突っ込まざるを得ないのは辛いところです。
魔法のハンマーの一方、柄の部分は恐らく簡単に見付けることができるでしょうが、残る頭の部分の探索はかなり困難になるはずです。ふわふわ粉の手に入る場所と当のハンマーの頭がある場所の両方を訪れなければならないため、道を間違えると入手できないというのが本作品中で最大の難関。とはいえ、怪物や山賊の襲撃など戦闘の難易度はかなり低いのであまり苦労することは少ないでしょう。
その他、タイタン世界に関する幾つかの情報としては、森を南北に二分するナマズ川が盗賊都市ポートブラックサンドに通じていることや金貨を要求してくる願いの井戸、ヤズトロモの他にも出てくる大魔法使いアラゴンや魔女の存在あたりがおもしろいところでしょうか。それが真であるにしろ偽であるにしろ、魔法で脅しをかけてくる自称魔法使いは本作以外にも度々登場することになり当のヤズトロモや「ソーサリー!」のガザ・ムーン、「死のワナの地下迷宮」にいる老人など枚挙に暇がありません。お前を石に変えてしまうぞ、というのは常套の脅し文句ですが、経験則で言うならこの質問に答えられなければ〜、という場合は大抵ホンモノの魔法使いですので注意が必要です。逆に立ち去らないと〜、という場合は単なるはったりの可能性もなくはありません(必ずしもそうとは限りませんが)。
いくつか余談ですが、指輪物語のエントを思わせる強大な種族、樹人が本作ではわりとかんたんに撃退できる敵として登場していますが、それでは樹人らしくないと考えたのか後の「甦る妖術使い」などでは出会えば助からない存在として描かれるようになっています。ほかにもヤズトロモの雰囲気などは「恐怖の神殿」以降はより主人公と親密でいかにも善の魔法使い然としているのですが、好みであれば本作のヤズトロモのほうが気難しい老人めいたところがあってより魅力的ではないでしょうか。
また、この物語の冒頭で貴方が出会うドワーフの大足、その名は雪の魔女の洞窟でもドワーフの仲間スタブの口から語られています。他にもアランシアでのドワーフの居留地としてのストーンブリッジの街を印象付けた作品。
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